仕事は自分だけで出来るもんじゃありませんが、こう相手の気まぐれに付きあわされると、カチンときます。
本日も妙に時間が無駄になったり……。
ということで、今日は、これです――
■Art Blakey's Jazz Messengers With Thelonious Monk (Atlantic)
今月、紙ジャケット仕様で復刻されたCDを聴いています。
結論から言うと、万難を排して入手をオススメ致します。
特筆すべきはモノラルマスターを使用していますし、リマスターが愕くほどに良好です♪
昔っから、この作品は名演・名盤とされていましたが、正直、私にはピンッときませんでした。それはアナログ盤時代からステレオバージョンを聴いていたことと、それが音質・盤質ともに悪かった所為に他なりません。
隙間だらけというか、音の密度が薄く、そこへセロニアス・モンクの訥弁スタイルと怒濤のアート・ブレイキーが、遠くで汽笛を聞きながら状態……。ベースの存在感の無さも、致命的でした。
ところが今回の復刻では、それが見事に解消され、グッと厚みを増した音になっています。う~ん、本当に凄い名演だった!!!
録音は1957年5月14&15日、メンバーはビル・ハードマン(tp)、ジョニー・グリフィン(ts)、セロニアス・モンク(p)、スパンキー・デブレスト(b)、アート・ブレイキー(ds) という、特編メッセンジャーズ! 演目も1曲を除いて、セロニアス・モンクのオリジナルになっています――
A-1 Evidence (1957年5月15日録音)
アート・ブレイキーの爆裂ドラムソロに導かれてスタートする緊張感いっぱいの先鋭ハードバップです。それはテーマ部分からテンションが高く、アドリブ先発のビル・ハードマンも最初っから気合充分!
もちろんアート・ブレイキーも猛烈な煽りですから、続くセロニアス・モンクがどんなに自己主張しようとも、揺ぎ無いグルーヴが最後まで継続しています。
そして飛び出すジョニー・グリフィンが、暗中模索の迷い道から強烈なエネルギーを発散させる早吹きですから、セロニアス・モンクも突っ込めないほどに、熱いです! 最後にはアート・ブレイキー独壇場のドラムソロまで!
しかし、これさえも、このアルバムの中では挨拶代わりという恐ろしさなのです。
A-2 In Walked Bud (1957年5月15日録音)
イントロからセロニアス・モンクが不協和音の嵐でバンドを導いていきますが、流石はアート・ブレイキーです。お前の好きなようにはさせんぞっ! というリーダーとしての強烈な自負がミエミエのドラミングで、バンドメンバーをサポートしていくのです。
するとそれに応えて、まずジョニー・グリフィンが全く自己のペースでハードバップを満喫させてくれる大熱演! 背後で炸裂するセロニアス・モンクの常軌を逸したコードも素晴らしい響きです。
そしてソロパートでは、ますます唯我独尊で孤立を深める訥弁スタイルが、グサリっと胸に突き刺さる名演だと思いますし、逆に淡々とバックを務めるベースとドラムスに凄みが滲んでまいります。
ただしビル・ハードマンが、若干、煮えきっておらず、それゆえにアート・ブレイキーとセロニアス・モンクの煽りが激烈になるのでした。
A-3 Blue Monk (1957年5月14日録音)
セロニアス・モンクにしては穏やかな曲調のブルースで、ニューオリンズ風の響きからして、私の大好きな曲♪ それをここでは、少し凝ったアレンジまで入れて熱演されるテーマから、もう、最高の名演に仕立て上げられています。
アドリブパートでは、まずジョニー・グリフィンが神経質な出だしから、怒りを秘めたフレーズを積み重ねて場を熱くし、緩いテンポの中で独り相撲の快演です。
続くセロニアス・モンクも、自然体の中で自己中心の音を模索し、バックのアート・ブレイキーやスパンキー・デブレストを惑わせる強烈さ!
ですから最後に出るビル・ハードマンは、困り果ててのハードバップを演じるのがやっとという有様ですが、それゆえに素晴らしい演奏になってしまうんですから、セロニアス・モンクの存在感は、流石だと思います。
またベースの歪んだような響きは、今回のCD復刻では特に顕著で、ここでも決定的な魅力になっています。
B-1 I Mean You (1957年5月14日録音)
和やかさと劣情が交互に繰り返される名曲・名演です。
しかもそれを強引にハードバップにしてしまうのが、ジャズ・メッセンジャーズの凄さでしょう。
まずはジョニー・グリフィンが好き放題に吹きまくり、セロニアス・モンクが伴奏しないことから、増長しまくりの痛快さです!
ただし、それでも侮れないのがセロニアス・モンクの面白さというか、それまでのことがウソのような屈託の無さで、思いっきり自分だけのアドリブを演じてしまうのですから、いやはやなんともです。
そしてビル・ハードマンが混乱収拾の熱演を聴かせてくれるという、まあ、このあたりが狙いとミエミエですが、憎めません。
B-2 Rhythm-A-Ning (1957年5月15日録音)
これぞっ、ハードバップという大名演です!
等と、最初から力が入ってしまいましたが、ここでテーマを演奏するバンドの勢い、膨らみとドライブ感は、本当に猛烈なんですねぇ~♪
セロニアス・モンクが自分だけの思惑で訥弁を演じても、ジャズ・メッセンジャーズの面々がそれを許さない雰囲気が横溢しています。
例えば地味だ、地味だ、と言われるベースのスパンキー・デブレストにしても、ここではスーパースタアのごとき地響きでバンドを煽り、ビル・ハードマンもセロニアス・モンクの意地悪な伴奏をブッ飛ばす勢いで吹きまくり♪ アート・ブレイキーも鬼神のステックで大噴火しています。
そして、やっぱりジョニー・グリフィン! 激情を押さえながらもセロニアス・モンクに図星を指され、ヤケッパチで盛り上がっていくところなど、もはや奇跡の一瞬としか言えません。とにかく豪快、猛烈、爆裂なアドリブです。
さらにクライマックスでは、アート・ブレイキーが怒りの大車輪ドラムソロ! 何時もと同じ遣り口ながら、気合が違います! あぁ、こんな……!♪
B-3 Purple Shades (1957年5月15日録音)
この曲だけがジョニー・グリフィンのオリジナルで、ファンキーこの上も無いダークなブルースです。
しかしセロニアス・モンクのピアノが好き放題なんで、緊張感がいっぱい! アドリブパートでも「ファンキー」なんて下衆の戯言になっています。
ただし流石はジャズ・メッセンジャーズです。ビル・ハードマンが軌道修正すれば、ジョニー・グリフィンは、俺に任せろの大熱演♪ スローな演奏なんですが、本気で血が騒ぐ任侠精神のような展開になっていきます。
そしてトドメがスパンキー・デブレストの軋みのベースソロ! セロニアス・モンクとアート・ブレイキーの遣り取りもキマッています。
ということで、何という名演集なんでしょう♪ この時期のジャズ・メッセンジャーズは、所謂暗黒時代とされていますが、そうだとしても、このセッションは歴代バンド作品の中でも間違いなく上位にランクされる快演だと思います。
その要因は、もちろんセロニアス・モンクの参加ですが、実はこのセッションの時にはジャズ・メッセンジャーズのメンバーが譜面を貰えず、演目を徹底的にリハーサルで覚えさせられたという、有名な逸話が残されています。
つまりセロニアス・モンクという人はインスピレーションの塊であると同時に、肉体派でもあるんですねぇ。小手先の仕上げを嫌う姿勢は、生涯変わらないところだったと思います。
ちなみに今回の復刻CDには「Evidence」「Blue Monk」「I Mean You」の別テイクが入っていますので、聴き比べてディープな恐さに浸るのも楽しいところ♪
とにかく、この音の存在感、凄さに接するだけで、なんかジャズが分かったような気分にさせられる名盤だと思います。まあ、実は聴くほどに分からなくなる、私ではありますが……。
ちなみにモノラルバージョンでありながら、復刻紙ジャケットがステレオ仕様になっているのは残念な減点でした。
それでも激オススメの復刻盤です♪