またまた物欲に苦しめられる時期になりました。
本日は頼んでいたブツがドカッと届いたんですが、金を使っても楽しむ時間が無いというジレンマに陥りそうなんで、まずは、これから聴きました――
■The Prestidigitator / George Wallington (East-West)
ジョージ・ウォーリントンは白人ながら、ビバップの創成に深くかかわったピアニストで、1950年代には多くのリーダーセッションを残しています。
しかし日本では一般的な人気がイマイチで、それは自身のピアノスタイルが基本点にバド・パウエルやアル・ヘイグと同根であるにもかかわらず、アクの強さや派手なところが無い所為かもしれません。
ただし残されたリーダー盤は非常に魅力的で、そこには常に強力なメンツが参集♪ 例えばジャッキー・マクリーン(as)、ドナルド・バード(tp)、フィル・ウッズ(as)、ボール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) 等々、当にハードバップを作った強者がバンドに去来していたのです。
そして、それだけのメンバーを率いていられたジョージ・ウォーリントンのリーダーとしての資質も、特筆されるべきかもしれません。
で、このアルバムもそうした1枚で、録音は1957年4月4~6日、メンバーはJ.R.モントローズ(ts)、ジョージ・ウォーリントン(p)、テディ・コティック(b)、ニック・スタビュラス(ds) というカルテットを中心に、曲によってジェリー・ロイドが加わっています――
A-1 In Salah
ジョージ・ウォーリントンのファンには説明不要の大名曲で、作曲はモーズ・アリソンと言う、知る人ぞ知るピアニストですが、実はジョージ・ウォーリントンがこのセッションに先立つ1ヵ月前にも吹き込んでいたという、お気に入りです。
それはドナルド・バード&フィル・ウッズをフロントに、ここでのセッションと同じリズム隊で演奏され、「ザ・ニューヨーク・シーン(Prestige)」というアルバムに収められた快演でした。
肝心のここでの演奏は、J.R.モントローズを中心としたワンホーン編成で、まずは哀愁のテーマメロディからギクシャクウネウネしたテナーサックスが、何とも摩訶不思議な味です。
またリーダーのピアノは、ビバップスタイルながら、エキセントリックなところが無い、控えめな表現に終始しており、そこがなんとも判官贔屓的な魅力に繋がっています。
そしてクライマックスはテナーサックスとドラムスのソロチェンジ!
あぁ、いつ聴いても素敵なテーマメロディです♪
A-2 Composin' At The Composer
ジョージ・ウォーリントンが書いたジェントルなハードバップです。
アドリブパートもジョージ・ウォーリントンが先発で、じっくりと展開されるピアノソロに派手さはありませんが、いかにもモダンジャズという味が滲み込んだ玄人っぽさが感じられます。
またここで加わっているジェリー・ロイドはバストランペットを駆使して、トロンボーンのような響きを聴かせてくれますし、J.R.モントローズはギスギスしながらも、実は優しいフレーズを積み重ね、ジャズ者を虜にしてしまいます。
リズム隊のファンキー味も、良いですね♪
A-3 Jouons
J.R.モントローズが書いた衝撃のハードバップです。
というのもリズム隊の煽りが既にして後の新主流派っぽい響きになっていますし、J.R.モントローズのノリやテナーサックスの鳴り方が、ハードバップから脱却しようという感じです。
このあたりは、あくまでも個人的な独断と偏見ではありますが、ジョージ・ウォーリントンの伴奏も、なんとなくハービー・ハンコックに聴こえてしまう瞬間までありますから!
A-4 Rural Route
これもモーズ・アリソンが書いた、なかなか魅力的なハードバップです。
しかもジェリー・ロイドが入った2管なので、膨らみのあるテーマ吹奏からアドリブパートも彩り豊か♪ それぞれに良い味を出しています。
肝心のリーダー、ジョージ・ウォーリントンも素晴らしく、少し抽象的なノリとフレーズを織り交ぜながら、ここでもビバップスタイルからの脱却を目指しているような♪ う~ん、侮れない人です。
B-1 Promised Land
B面に入っても、初っ端からモーズ・アリソンのオリジナルが取上げられていますが、これがまた素晴らしくファンキーな、ゴスペルカントリーっぽい名曲です♪
しかも演奏がジェリー・ロイドの入ったクインテットですから、必ずやジャズ者の琴線に触れるはずという快演になっています。何よりもリズム隊の快演が楽しいところ♪ それだけ中心に聴いても満足してしまいます。
ジョージ・ウォーリントンは、もちろん地味ですが、なかなかのファンキータッチが妙に魅力的ですし、背後で煽るテディ・コティックの野太いベースが、たまりません。
B-2 August Moon
ジェリー・ロイドが書いた楽しい名曲で、もちろん本人がテーマをリードした快演となっています。なにしろバストランペットということで、何となく、もっさりした音色が逆にホノボノ感覚♪ ウキウキさせられますし、歌心も満点です。
そしてこういうノリならジョージ・ウォーリントンの地味なスタイルも輝くというか、一瞬の煌きに心がときめく、そこを求めて緊張して聴き入る集中力が、私には快感です。
ちなみにJ.R.モントローズは、お休みです。
B-3 The Prestidigitator / 手品師
アルバムタイトル曲だけあって、一番の熱い演奏が展開されています。
それは J.R.モントローズの熱いブローに始まり、リズム隊とグルになった仕掛けとキメを入れながら、グイグイと盛り上がっていきます。
しかも作曲が J.R.モントローズ本人ですから、本当に好きなように吹きまくったというところでしょうか♪ 十八番のブチキレフレーズ、突如としてローリングするノリは唯一無二の素晴らしさです。
気になるジョージ・ウォーリントンは、相変わらず地味に奮戦していますが、このレコーディングを境に第一線から徐々に引いていったのが理解出来ると言っては、失礼でしょうか……。
ということで、地味と派手が交錯した、なかなかアンバランスな魅力に満ちた作品です。
オリジナル盤はアッと言う間に廃盤になったようですが、幸いなことにアナログ盤が日本で発売されていましたし、現在、紙ジャケット仕様のCDとして復刻され、本日、手元に届いていますが、なかなかマスタリングが良好です。
もちろんこれを書きながら聴いていたのも、件のCDなのでした。好みの問題かもしれませんが、アナログ盤よりも音が良いのは、言わずもがなです。