政治と金、相撲協会の不祥事、高校生ドラフト……。毎日、様々なネタが尽きませんから、マスコミは今日も大忙し!
全く庶民も落ち着きませんね。なによりも仕事がバタついているのが、困りもの……。
そこで本日は――
■Wheelin' & Dealin' (Prestige)
ブレスティッジ十八番のジャムセッション盤のひとつで、今日的にはジョン・コルトレーンの参加ゆえに忘れられない1枚でしょう。
ジャズの基本がアドリブである以上、個人芸の競い合いが魅力のひとつですから、様々なメンツが寄り集まって、せ~の! で演奏を始めれば、それだけでひとつの商品が出来てしまうという、些かイージーな製作方針も、その自然体とハプニング性の面白さや危険性が、そのまんまジャズの魅力に結びつくのですから、一概に安易とは決め付けられません。う~ん、深いなぁ……。
そこで重要になるのが、現場の音楽監督とメンバー集めの妙でしょう。
ここではそれがマル・ウォルドロンに任せられていたようです。
で、気になるメンバーは、フランク・ウェス(fl,ts)、ポール・クイニシェット(ts)、ジョン・コルトレーン(ts)、マル・ウォルドロン(p)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) という、強力リズム隊にミスマッチ寸前のフロント陣が興味津々♪ ちなみに録音は1957年9月20日とされています――
A-1 Things Ain't What They Used Be
デューク・エリントンが書いたグルーヴィなブルースですから、このメンバーなら、快演はお約束! まずフランク・ウェスの一芸主義というフルートが雰囲気満点にテーマメロディをリードし、リズム隊は粘っこいグルーヴを発散♪ そのまんまの流れで入るアドリブパートも、良い感じです。
そして続くテナーサックスがポール・クイニシェットで、この人はレスター・ヤング直系のなめらかなスタイリストですから、ここでの思わせぶりなブルース表現は、妙なファンキー感覚があります。
ところが次に出るジョン・コルトレーンが全く容赦無く、完成間近のシーツ・オブ・サウンドを駆使した音符過多症候群で、通常のブルースフィーリングをブチ壊してくれます。
う~ん、これは……。と思っていたら、再び登場するのがポール・クイニシェット! フガフガモゴモゴと完全はぐらかしのフレーズを積み重ねてジョン・コルトレーンを翻弄します。しかし、これで参らないのがジョン・コルトレーンの意気地でしょうか、またまたダークな音色で強烈なアドリブを聞かせてくれるのです。
そしてマル・ウォルドロンが、これまたアブナイです。例の訥弁スタイルから同一の音ばかり鳴らしてしまう、モールス信号のような自己主張! う~ん……。
ですからラストテーマでフランク・ウェスのフルートが出てくれば、ホッとするのでした。
A-2 Wheelin' (take-2)
一転して景気の良いハードバップで、フランク・ウェスはテナーサックスに持ち替えていますから、フロント3人による烈しいバトルはお約束!
まずジョン・コルトレーンがグリグリに吹きまくれば、ポール・クイニシェットが、ちょいと古いブロースタイルでジャズの基本に撤しています。
するとフランク・ウェスが流麗で歌心優先のテナーサックスを聞かせてくれますから、吃驚です。
演奏はこの後、コルトレーン~クイニシェット~ウェスの順番でコーラスを詰めていくテナーバトルの世界へ突入ですから、たまりません。三者三様のスタイルの面白さと意地の張り合いは、ジャズの楽しみに満ちていますが、フランク・ウェスが熱くなってタフテナー風のブローに走ったり、ウネウネと迷い道に入っていくジョン・コルトレーンを尻目に、老獪な余裕を聞かせるポール・クイニシェットが貫禄でしょうねぇ♪
リズム隊の安定感も流石ですが、張り切りすぎて混濁したアドリブを演じるマル・ウォルドロンにも熱くさせられます。フリー寸前!? そんな状況を楽しんでいるようなアート・テイラーとダク・ワトキンス! 実に凄いと思います。熱演ですねぇ~~~♪
ちなみにこの演奏の take-1 は、やはりジャムセッション盤の「ザ・ディーラーズ」に収録されていますが、そっちもまた熱演ですので、聴きくらべも楽しいと思います。
B-1 Robbin's Nest
これまたフランク・ウェスのフルートがリードする楽しい演奏で、2本のテナーサックスがハーモニーをつけるテーマのアンサンブルに和んでしまいます。
アドリブパートもフランク・ウェスが先発で、ややハスキーなフルートの音色と細かいフレーズの積み重ねが素敵ですねぇ。グルーヴィなリズム隊とのコンビネーションも、さり気なく上手いところ♪
もちろんポール・クイニシェットは、この手の演奏は十八番ですから、繊細な歌心と「泣き」を含んだ音色の妙技が素敵です。ただし後半は、ちょっと無理してい感じも否めないところ……。ちなみに私は、このアルバムはポール・クイニシェットが目当てでしたから、これでも納得しています。
それとジョン・コルトレーンが、すぐにそれと分かる「節」を完成させています。どこまでもウネウネと続いていくようなフレーズの嵐は、全く唯我独尊の響きで痛快!
穏やかにスイングしたリズム隊の中で、ひとりだけネクラな情念を感じさせてしまうマル・ウォルドロンの特異性も、また魅力でしょうか。
B-2 Dealin' (take-2)
マル・ウォルドロンが書いたネクラのブルースで、ミディアムテンポでグルーヴしていくリズム隊と重厚なホーンの合奏が、如何にもハードバップになっています。
アドリブ先発は、淡々として露払いの趣もあるマル・ウォルドロンですが、それに応えてシブイ味わいのフルートを聞かせるフランク・ウェスが絶妙! 切迫した息使いとか、所々にエキセントリックな悲鳴のようなフレーズを織り交ぜるところが、ニクイですねぇ~。
続くポール・クイニシェットはリラックスした好演ですが、またまたジョン・コルトレーンが気の抜けたビールをガブ飲みしたようで、ここはちょっと虚しい感じ……。
するとフランク・ウェスがテナーサックスに持ち替えて乱入してきます。これが実に良い味なんですねぇ~♪ タフテナー系のフレーズと音色が、時に熱く、また時に柔らかく織り成していくアドリブは、本当に聴き応えがあります。
ちなみにこの曲も、take-1 が「ザ・ディーラーズ」に収録されていますが、ともに出来は可も無し不可もなしだと思います。
ということで、正直に言えば、ジョン・コルトレーンが参加したことによって生き残ったアルバムかもしれません。しかしモダンジャズ全盛期の味わいが深く楽しめるのも、また素直な感想です。
特に「Wheelin' (take-2)」におけるマル・ウォルドロンのアドリブソロとリズム隊の混濁したグルーヴは、驚異的! ここだけ聞きたくて、何度も針を戻したこともありました。
それとポール・クイニシェットやフランク・ウェスは、カンウト・ベイシー所縁のミュージシャンでもありますから、自然体でカンサスシティ風のグルーヴが微妙に滲み出ています。
そこで、もしギターが入っていたら、どんな雰囲気になるのか? 私は大いに気なって、不遜にもこれを聞きながら、自分でリズムギターを入れてしまった事もあると、告白しておきます。