OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

熱くて黒いライブ盤

2007-10-19 16:23:33 | Weblog

我国の政治やスポーツの混乱、祝勝、子供が犠牲になる陰惨な事件、食品安全のデタラメさ……。さらに某国でのテロ事件とか、世の中は落ち着きませんが、私的には平和な1日でした。

この豚汁は甘いなぁ、なんて言っていられる自分は、あぁ、この幸せを大切にしなければ!

と決意表明して、本日は――

Up At Minton's Vol.1 / Satnley Turrentine (Blue Note)

1960年代ブルーノートのイチオシだったのが、スタンリー・タレンタインだと思います。

もちろん同レーベルにはルー・ドナルドソン(as) やジミー・スミス(org) といった大衆路線のスタアも居ましたし、正統派としてはアート・ブレイキーのジャズメッセンジャーズやホレス・シルバー、ドナルド・バード(tp) やハンク・モブレー(ts) 、さらにはリー・モーガン(tp) というガチンコにも強い猛者を揃えていました。

しかし時代の流れは大衆路線に傾いていましたし、それはモードやフリーが主流となっていた自己満足的本格派モダンジャズへの反撥だったと……。

ですからビジネス面での成功は、よりソウルフルで大衆受けする演奏が求められていたようです。実際、ジョン・コルトレーンのレコード売上げは、リアルタイムで悲惨なものだったと言われています。

で、そこに登場したのが、スタンリー・タレンタインという実力派のテナーサックス奏者でしたから、この逸材を各レコード会社が逃すはずはありません。最初はマックス・ローチ(ds) のバンドで注目され、1950年代末から他社でレコーディングも行っていますが、それをガッチリ囲い込んで契約してしまったブルーノートすれば、思わずニンマリだったでしょう。

そして直後から幾多の録音セッションを行い、ついに初期の代表作と言われるアルバムとなったのが、本日の1枚です。

録音は1961年2月23日、メンバーはスタンリー・タレンタイン(ts)、グラント・グリーン(g)、ホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、アル・ヘアウッド(ds) という濃~い面々! しかも小さなジャズスポットでのライブ盤ですから、熱さと黒さは保証付きです。

ちなみにホレス・パーラン以下のピアノトリオは、当時、実際のレギュラーユニットとして活動しており、このセッションの直前にも、例えばブッカー・アーヴィン(ts) の決定的名盤「ザッツ・イット!(Candid)」で豪快なサポートを繰り広げておりました。また必殺の名盤「アス・スリー(Blue Note)」も忘れられませんね♪

そしてご存知、グラント・グリーンもブルーノートが同時期に売り出しを図っていた新進スタアですから、ある種の意志の統一がなされていたというか、平たく言えば、纏まりは最高です――

A-1 But Not For Me
 まずは有名歌物スタンダードが軽快に演奏されますが、それはテーマ部分だけのことで、アドリブに入るとグイグイ盛り上がるバンドの勢いが強烈です。
 始る前にワイワイガヤガヤと入っている店のざわめきも抜群のスパイスですねぇ。
 そこでスタンリー・タレンタインはアップテンポで飛ばしますが、基本のスタイルはあくまでも正統派! ヒステリックな叫びやスケール練習のようなフレーズは出さず、自信満々の歌心で直球勝負の潔さです。このあたりはデクスター・ゴードンとハンク・モブレーの折衷というところから、より黒い表現を主体にしているところが、実に魅力的♪ もはや「タレンタイン節」と呼んで差し支えない素晴らしさだと思います。
 またグラント・グリーンが強烈です。控えめなバッキングから待ってましたのアドリブパートでは、十八番の単音弾きでシャープなフレーズを連発してくれます。時折入れるチョーキングも嫌味になっていませんねっ♪
 それと重量感に満ちたリズム隊の素晴らしさ! 安定感とグイノリが良い塩梅の伴奏に加えて、ホレス・パーランの執拗なフレーズが冴えるアドリブが、全く熱いです。
 正直言えば、音がイマイチ悪く、ステレオバージョンでも音が団子状態のところもあるんですが、それがこのリズム隊には相性バッチリ! 時として歪む音の壁がハードバップの醍醐味に繋がっているのでした。

A-2 Satnley's Time
 タイトルどおり、スタンリー・タレンタインが書いたマイナー調のブルース♪ とくれば、もう快演はお約束です。たっぷりしたグルーヴが発散されるテーマメロディの演奏から、流れるようにアドリブに入るグラント・グリーンの雰囲気の良さは、ハードバップ最良の瞬間でしょう♪ 合の手気味の伴奏が心地良いホレス・パーランも流石の存在感です。
 ところが惜しいとこに、スタンリー・タレンタインへのアドリブの受渡しで、若干のミスがあったような……。否、これはテープ編集か?
 まあ、それはそれとして、スタンリー・タレンタインは躊躇しない大好演ですからねぇ~♪ タメが効いた黒いノリと激したフレーズの組み合わせという妙技が存分に楽しめます。テナーサックスそのものの音色も魅力的ですねぇ~~~♪
 そして野太いベースソロを聞かせるのがジョージ・タッカーです。単純に聞けばチャールズ・ミンガスのようでもあり、しかし微妙に屈折した感覚は独特の味わいがあって、私は大好きです。
 またホレス・パーランも手に障害があることを逆手に取った個性派で、ここでの混濁したゴスペル感覚は中毒になりそう!

B-1 Broadway
 これも有名スタンダード曲ながら、ジャズの世界では景気良くアップテンポで演奏されるのが「お約束」ということで、このバージョンも黒い熱演になっています。
 まずテナーサックスとギターのユニゾンで奏でられるテーマメロディの楽しさ♪ 続けてハキハキとしたアドリブを聞かせてくれるグラント・グリーンの素晴らしさ! 中盤では十八番の針飛びフレーズが出ますから、もう辛抱たまらん状態です。
 そして我慢出来ずに乱入してくるスタンリー・タレンタインには、恐いもの知らずの勢いがあって、思わず「イェ~!」の世界です。
 テンションの高いリズム隊からも熱気がムンムンしてきますから、これぞ名演♪ 特にホレス・パーランのピアノには歪んだ音が混じり、しかも中盤からは執拗に同じフレーズを積み重ねるという、あの「Us Three」と同じノリが出ますから、ここで悶絶するのがジャズ者の正しい姿勢じゃないでしょうか!? 心底、凄いです!

B-2 Yesterdays
 アルバムの締めは、しっとり系のスタンダード曲なんですが、このメンツですからタダでは済みません。ミディアムテンポのグルーヴィなノリは黒っぽさが満点です。
 悠々自適にテーマメロディを吹奏し、グッと情感を込めたアドリブを披露するスタンリー・タレンタインは圧倒的! 逆に小粋な雰囲気を漂わせるグラント・グリーンは、正統派ジャズギタリストの片鱗というか、これが本性と思いたい名演を聞かせてくれます。
 それと背後で暴れるホレス・パーランのゴスペルっぽい伴奏も秀逸ですし、アドリブパートでは意外にも新主流派のような展開もあったりして、油断なりませんねっ♪

ということで、ハードバップの醍醐味に満ちた名盤だと思います。今日の印象では、コテコテのライブ盤と期待されがちですが、中身は正統派4ビート! それゆえに片すかしを感じるファンも……。

ちなみにテナーサックスのワンホーンカルテットにギターを加えたセッションとしては、同じくグラント・グリーンが入ったハンク・モブレーの「ワークアウト(Blue Note)」が歴史的な裏名盤となっていますが、それはこの録音から1ヵ月後の事! 恐らくここでの成功から柳の下を狙ったというのは、穿ち過ぎでしょうか……?

それほどに、このライブは素晴らしいと思います。そして続篇の「Vol.2」には、しっとり系の演奏が収められていますので、合わせて聴くと完全に虜になりますよ♪

実際、私は中毒で、う~ん、ガンガン・ドロドロに迫ってくるリズム隊が恐いです。

コメント
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