今日で10月も終り! もう年末の心配をするわけですが、私の場合は、この1~2ヶ月、モロジャズのモードに入りっぱなしで、恐くなるほどです。
そして今日も――
■A World Of Piano ! / Phineas Newborn Jr. (Contemporary)
テクニシャンが多いジャズピアニストの中でも、とりわけ凄いひとりがフィニアス・ニューボーンでしょう。両手をフルに使ったダイナミックで繊細な超絶技巧、メロディとハーモニーに対するセンスの良さ、きらびやかなスイング感、そして演奏全体に漂う高貴でエキセントリックスな香り……等々、あまりに強烈ですから、聴いていて疲れることも度々なのですが……。
このアルバムは、そんなフィニアス・ニューボーンの代表作にして、言わずもがなの人気盤♪ わかっちゃいるけど、やめられない1枚だと思います。
内容はLP片面に共演者が異なるピアノトリオで、まずA面にはポール・チェンバース(b) とフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、1950年代のマイルス・デイビスを支えた凄腕が参加! 録音は1961年10月16日とされています。
またB面にはサム・ジョーンズ(b) とルイス・ヘイズ(ds) という、これは当時のキャノンボール・アダレイのバンドレギュラーが参戦! こちらのセッションは同年11月21日の録音です――
A-1 Cheryl
モダンジャズ創成期から生まれた定番ブルース曲で、如何にもビバップという幾何学的なテーマをピアノとベースのユニゾンで演じるテーマ! そして壮絶なアドリブ合戦に突入していきますが、その初っ端からスパイラルに急上昇していくフィニアス・ニューボーンの驚愕フレーズが炸裂します。
しかし一歩も引かないドラムスとベースの存在感は流石ですねぇ~。豪快にドライブし、両手ユニゾンのオクターブ弾きからグリグリのコード弾きまで自在に展開させる暴れ馬の如きフィニアス・ニューボーンの手綱を絞るような働きでしょうか。
ここまでやって、まだまだ小手調べという雰囲気なのですからっ!
A-2 Manteca
ポール・チェンバースのベースがリードするラテンジャズの名曲を、ここでは4ビートも入れて豪快至極に演奏しています。ド頭から冴えまくるフィリー・ジョーのドラミングが鮮やかですねぇ~♪
そして両手をダイナミックに使ったフィニアス・ニューボーンのピアノが炸裂! 左右ユニゾン弾きや対位法のメロディ展開は、とても即興とは思えない完成度だと思います。猛烈にシャープな単音弾きのスイング感も凄すぎます!
最後には共演した2人が置いていかれそうに……。
A-3 Lush Life
烈しい演奏が続いた後にホッとする名曲・名演が♪
曲はエリントン楽団の名参謀だったビリー・ストレイホーンのオリジナルで、もちろん今ではスタンダードとなった有名なメロディですから、最初っから超絶技巧のソロピアノでシェイクしまくるフィニアス・ニューボーンにしても、これが本望でしょう。実に凄いと思います。
そして中盤からはドラムスとベースが定石どおりの入り方から、ゆったりとしたビートの中で揺れるようなスイング感が絶妙な演奏となります。
もちろんテーマメロディを大切にした中でのフェイクは最高で、本当に感銘を受けてしまうのが、何時もの私なのでした。
A-4 Dahoud
クリフォード・ブラウンが書いた爽快なハードバップ曲で、フィニアス・ニューボーン自身もお気に入りなのでしょう、これ以前にも自己のリーダー盤(Atlantic)で録音したという十八番ですから、ここでの快演も、お約束!
最高のリズムコンビを得たフィニアス・ニューボーンが全力疾走すれば、フィリー・ジョーはリムショットも多用した楽しい煽り♪ クライマックスでは壮絶なドラミングでフィニアス・ニューボーンと対峙しています。
B-1 Oleo
さてB面も初っ端なから物凄く、ルイス・ヘイズが大ハッスルしたドラムのイントロからフィニアス・ニューボーンが弾きまくるのは、ソニー・ロリンズが書いた有名なハードバップ曲ですから、たまりません!
もはや暴風のような勢いが漲る演奏は怖ろしいばかり! 豪快に暴れて破綻しないフィニアス・ニューボーンを必死に追走するサム・ジョーンズとルイス・ヘイズも凄いと思います。
スカッとする大名演!
B-2 Juicy Lucy
一転してリラックスしたファンキームードが楽しい演奏で、作曲はホレス・シルバーですから、ここでツボを押えた快演も納得出来ます。
フィニアス・ニューボーンのピアノからは力みが感じられず、自然体のブルースフィーリングが滲み出ていますし、ゴージャスな雰囲気はファンキーの対極にあるのですが、非常に説得力がありますねぇ。
もっとビシバシと敲きたいルイス・ヘイズの意気込みが微笑ましくもありますし、サム・ジョーンズの落ち着きが良い感じです。
B-3 For Carl
これが畢生の名曲・名演♪ 早世した名ピアニストのカール・パーキンスに捧げて書かれたリロイ・ヴィネガー(b) のオリジナル曲で、シンプルな胸キュンのメロディが素敵なワルツ曲♪ 一聴、虜になるでしょう。
実は告白すると、私はこのバージョンの前に菅野邦彦(p) の演奏(takt盤)を聴いていたのですが……。
う~ん、やっぱり泣けてきますねぇ~。重厚で歯切れの良いリズムコンビとの相性も素晴らしく、特にサビの展開あたりは、涙が止まらないほどです。
もちろんアドリブパートも美メロの連続♪ フィニアス・ニューボーンの超絶テクニックも嫌味なく本領を発揮し、惜別の悲しみに溺れない激情を表現していると思います。何度聴いてもシビレますぇ~~~♪
B-4 Cabu
名曲揃いのアルバムの中では、ちょっと目立たないテーマメロディなんですが、フィニアス・ニューボーンはノッケから両手ユニゾン弾きを炸裂させ、さらにスピードがついたアドリブパートまで一直線の突っ走りです。
ギシギシと軋るサム・ジョーンズのベース、それとビシバシに反応するルイス・ヘイズのドラムスも好調ですが、おそらく吹き込み前には前回セッションでポール・チェンバース&フィリー・ジョーが起用された事実を知らされていたのでしょうか? ここには2人の「負けじ魂」が感じられるのですがっ!
ということで、ご存知のように、フィニアス・ニューボーンは精神的な持病があったらしく、その活動は波乱万丈でしたから、全ての録音が素晴らしいとは言い難いのが真実です。
しかしこのアルバムは、全曲が怖ろしいまでにテンションが高く、両面通して聴くと疲れが残るほどなんですが、そこはLPの良いところ! ちょうど片面ずつ楽しめるようなプログラムが絶妙です。
そして知名度から言えばA面に期待が大きいのですが、個人的にはB面が優っていると思います。ジャズ喫茶でもB面が定番じゃないでしょうか。
とにかくガッツ~ンときてヘトヘトに心地良い疲労感♪ それも名盤の条件だと思うのでした。