今日は秋晴れ、なんだか腹もへりまくっています。
これから実家に戻りますが、道中には喰いまくりそうですね。
どうなっているでしょう……。
ということで本日は――
■Mucique Du Bois / Phil Woods (Muse)
1970年代の一時、フュージョンに走りそうになったとはいえ、フィル・ウッズはチャーリー・パーカー以来の伝統を継承した、極めて本格派のひとりです。
それゆえに、1960年代にはアメリカで仕事を失い、欧州に活路を見出したのも、また事実でした。
しかしそこでの「ヨーロピアン・リズム・マシーン」が大成功! フィル・ウッズはアメリカに錦を飾って作られたのが、このアルバムです。
録音は1974年1月14日、メンバーはフィル・ウッズ(as)、ジャッキー・バイヤード(p)、リチャード・デイビス(b)、アラン・ドウソン(ds) というワンホーン編成ですが、リズム隊は一切の妥協が無い鬼のような連中ですから、個人的には「フィル・ウッズ&リアルファイト・リズム・マシーン」かと思っています――
A-1 Samba Du Bois
フィル・ウッズが書いた強烈なジャズサンパ!
というよりも、暗い情念とかリズム的興奮が溢れ出た凄い演奏です。まず初っ端からリチャード・デイビスとフィル・ウッズがデュオで睨み合いですからねぇ。
そしてリズム隊がラテンビートを拡大解釈した4ビートで烈しく斬り込んできてから後は、猛烈に疾走するアドリブ合戦が始ります。
フィル・ウッズはエキセントリックなフレーズと豪快なノリを出し惜しみせず、またジャッキー・バイヤードは全く正体不明のツッコミに撤しています。
しかしそれがモダンジャズとして纏まっているのは、リチャード・デイビスの頑固なベースワークと刺激度の高いアラン・ドウソンのドラミングがあってのことでしょう。
ついつい音量を上げてしまう演奏です。
A-2 Willow Weep For Me
ブルース色が強いお馴染みのスタンダード曲を、ここではマイルス・デイビスの「All Blues」から引用したリズムパターンを用いて、粘っこく演奏しています。
もちろんフィル・ウッズはテーマの解釈からして抜かりなく、所々に正統派のブルースリックを織り交ぜながら、熱い歌心を披露しています。
またアラン・ドウソンはブラシの粘っこさと鮮やかさなステックが印象的ですし、リチャード・デイビスは通常のウォーキングを捨て、執拗な絡みを聞かせてくれるのですから、たまりません。ベースソロは、ちょっとヤバイほどです。
そしてジャッキー・バイヤードが、これまた危険極まりないです。というか支離滅裂なところもあるんですが、ドラムスとベースがしっかりと付き添っていますから、ギリギリのところで踏み止まっているんでしょうか……。
いやはや、それにしてもリチャード・デイビスが凄すぎます!
A-3 Nefertiti
マイルス・デイビスが黄金のクインテットで残した演奏が決定版とはいえ、それには「らしい」アドリブパートがほとんど無いという、問題曲でした。
それをここではフィル・ウッズが十八番の思わせぶりを活かすことによって、見事に克服した仕上がりを聞かせています。アルトサックスによる唸りと力みの表現が、嫌味になっていないんですねぇ~♪ アドリブパートもオリジナルのテーマメロディを変奏するという手段に拘っています。
また抽象的なリズム隊は、ジャッキー・バイヤードが煮詰まった雰囲気ですが、リチャード・デイビスが、またまた驚異的な働きをしているのでした。
B-1 The Last Page
フィル・ウッズがヨーロピアン・リズム・マシン時代に書いた名曲・名演の再現を狙いつつ、新しい展開に挑んでいますから、好感が持てます。
それはゆったりと度量の大きなスイング感であり、千変万化のアドリブの妙でもあり、徹頭徹尾、正統派に拘った意気地のようでもあり……。もはや私のような者が戯言を書くことすら許されない境地です。
う~ん、やっぱりグイノリのフィル・ウッズは魅力満点! 一瞬飛び出すロックビートと高速4ビートが嵐のように交錯してく痛快な演奏! 何回聴いても最高です♪
B-2 Summer Know
ミッシェル・ルグランが書いた畢生の名曲ですから、フィル・ウッズの情熱的な泣き節が、これでもかと堪能出来ます♪
スローな展開は自由度が高いリズム隊によって大らかな空間となり、そこでジンワリとインスピレーションを煮詰めていくフィル・ウッズという、お約束が心に染み入ります。
B-3 Airegin
オーラスは、このアルバムでは一番真っ当な新感覚のハードバッブです。イントロから弾みまくったリズム隊が、まず良い感じ♪ もちろんフィル・ウッズはスピード感満点にテーマメロディを吹奏し、そのまんまの勢いでアドリブに突入していきます。
それは、チャーリー・パーカー直伝のビバップフレーズの洪水なんですが、独特のウネリとドライブ感が見事ですから、聴いているうちに思いっきり熱くさせられてしまうんですねぇ~♪
リズム隊も自然体の好演で、ジャッキー・バイヤードはハチャメチャなオチャメ感覚ですし、アラン・ドウソンはシャープでパワフルですが、ちょっとリチャード・デイビスが不満顔のような……。
ということで、出た瞬間から、これはジャズ喫茶の人気盤! 特にB面は耳タコになるほど聴かされましたが、それでも買ってしまったほどの秀作です。
はっきり言えば、当時のジャズ界では既に古くなっていたスタイルなんですが、クロスオーバーやフュージョンの流行に翻弄されていたリアルジャズの世界では、これこそが救世主でした。
さらにアルバムタイトルがフランス語だったのも意味深で、ようやく本国に戻ったフィル・ウッズにも、違和感があった表れなんでしょうか? 一応 Bois = Wood なんですが……。
このアルバム発表後には大手レコード会社のRCAと契約を結び、かなりフュージョン志向の作品を吹き込んでいくことになりますから、これはひとつの区切りというか、ケジメの一発だったと思います。
それゆえの気合が心地良いのでした。