厳寒の日々が続くなかで、清冽な詩情に溢れた心地よい映画と出会った。
タイトルは硬いが、中身はすこぶる官能的である。
フランス、カナダ合作の、中国人監督ダイ・シ-ジェのこの作品は、1980年代に、中国四川省で実際に起きた事件を題材にした異色作と言える。
美しく、どこか儚い、女性の同性愛を描いた禁断のラブスト-り-である。
ダイ・シ-ジェ監督が、禁断の愛に敢えて挑戦した意欲作だ。
テ-マはともかく、心癒される作品となっている。
何よりも、映像の美しさに目をみはる。
厳格な植物学者の父チェン教授(リン・トンフ-)と暮らすアン(リ-・シャオラン)と、幼い頃に両親をなくしつつ、植物学を学んでいるミン(ミレ-ヌ・ジャンパノワ)が、孤独という共通点から、姉妹のように親しくなる。
やがて、二人の友情は一線を越えるが、その描き方が自然で、また実に繊細かつ丁寧である。
湖に浮かぶ植物園に迎えられたミンは、そこでアンと知り合い、姉妹のようなかけがえのない喜びを見出すが、二人の関係は許されない愛へと高まっていく。
むせかえるほどの緑に包まれた楽園に、秘めやかな陶酔が咲き乱れる・・・。
アンには軍人の兄がいて、彼が家に戻って来る。
永遠の愛を誓い合うアンとミンであったが、アンはミンに秘密の提案をする。
「単身赴任する兄と結婚すれば、二人はいつも一緒に暮らせるわ」
ミンに好意を抱いていたアンの兄とミンは結婚することになる。
しかし、それは長く続かなかった。
その頃、ミンはアンの父との確執を感じ始め、アンはミンに同情する。
そして、それは二人の娘と父チェンとの対立の始まりでもあった。
美しい二人の女性、アンとミンが初めて愛を交わすシ-ンがある。
夜更け、アンが敷き詰めた薬草の上に、一糸まとわぬ姿で寝ている。
その、薬草の香りに誘われるようにやってきたミン・・・。
彼女は優しくアンを愛撫し、やがてミンも全てを脱ぐ。
艶やかに輝く二人の裸身が、優しく重なり合う・・・。
その二人の白さが眩しい。
ところが、二人が戯れるその場面を、父親のチェン教授がはからずも目撃する。
チェンは激怒して、手を振り上げた。
「この魔物め!」
この一言が悲劇を呼ぶ。
・・・そして、激しくも純粋に求め合い、永遠の愛を願う二人だったが、彼女たちに残酷な運命が待ち受けていた・・・。
この異色のテ-マを扱ったダイ・シ-ジェ監督は、中国で生まれ、フランス在住十五年になる人だが、この作品では、自由に人を愛することが許されない偏狭の祖国中国を見つめながら、そのきめ細かな心理描写と映像で、許されざる禁断の愛の物語を、まことに感動的に、きわめて自然なタッチで描いてゆく。
2006年、モントリオ-ル世界映画祭では、エキゾチックな香りの漂うこの作品が、観客賞を受賞、撮影を担当したギイ・デュホ-も最優秀芸術貢献賞を受賞している。
シ-ジェ監督は、母国語ではなくフランス語での作家活動も盛んで、フランス五大文学賞のひとつ<フェミナ>賞を受賞している。
シ-ジェ監督は語っている。
「愛を貫くために、兄弟と結婚する発想は男にはない。天真爛漫な二人の愛の裏に、濃厚な
ロマンが隠れている。男女の愛は、すぐに現実的になるだろう。僕にとって、同性愛はどうで
もよい。要はロマンなのだ」
女性同士の愛を描くことがタブ-な中国では、この映画の撮影許可が下りず、風景が中国と似ているベトナムで撮影された。
そうした中国政府の対応について、シ-ジェ監督は、腹の虫がおさまらなかったようだ。
前作「小さな中国のお針子」で、主演の美人女優ジョウ・シュンを起用したかったらしいが、彼は、「中国政府に妨害された。あんな映画に出るんじゃないと横やりを入れてきた」と言って、口をとがらせたというエピソ-ドもある。
足の指の爪まで娘に切らせる父親や、相手の意思もろくに聞かずに結婚を決める兄の姿は、いかにも中国社会の男尊女卑を皮肉に示すし、個人の自由を許さない文化に対する鋭い批判も、この作品の随所に現れている。
とにかく、中国国内ででの撮影が認められなかったと言うのだから、中国当局の不寛容さは残念ながら変っていないらしい。
とはいえ、二人の娘の織り成すドラマは、国や時代の制約を越えて羽ばたく。
愛を信じることで、二人は自分たちを解き放ち、力強く変貌する。
おびただしく生い茂る樹林や草花が、二人を祝福し、包み込む。
緑したたる光景の、豊かな官能に圧倒される・・・。
よりどころのない身の上ながら、芯の強さを持ったミン役のミレ-ヌ・ジャンパノワは、豊満な美しさを持つ、西洋と東洋の血をひく神秘的な緑の瞳で、フランスで最も注目されるミュ-ズとして、映画の枠を超えて活躍している。
一方、父親との絆を断ち切れないアン役に、中国国外の映画に初めて出演するリ-・シャオランは、華奢で、色白で、東洋的なエキゾチックな美しさをかもし出している。
二人の女優の存在は、、作品のしっとりとした詩的な情景のなかで、際立って光っている。
ゆったりと時間が流れる田園地帯、植物園の草花におおわれた濃密な香り、空に羽ばたく百八羽の鳩の群れ・・・、切ないまでに高まりゆく女性の愛を演出して、シ-ジェ監督の面目躍如たるものを感じる。
秘密の花園に足を踏み入れてしまったような、一種幻惑的なエロスの綾なす演出とともに、全編に紡がれるカメラワ-ク、映像の美しさはさすがである。
この作品のラストシ-ンに映し出される、北ベトナム・ハノイ近くの奇岩、奇峰の密集するハロン湾の絶景(世界遺産)は圧巻であった・・・。
珠玉の小品である。
*この作品の詳細はこちらへ。→「http://www.astaire.co.jp/shokubutsu/」
生徒と先生のコラボレイト・・・?
無理かと思っていましたが、しばらくして、試行錯誤の末復旧しました。
ご報告まで。