徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「終着駅 トルストイ最後の旅」―隠された愛の悲喜劇―

2010-09-22 07:30:00 | 映画
文豪トルストイ没後100年になる。
この人の名を知らない人はいないはずだ。
この作品は、マイケル・ホフマン監督の、ドイツ・ロシア合作映画である。

世界の三大悪妻といえば、トルストイの妻ソフィヤ、ソクラテスの妻クサンティッペ、モーツアルトの妻コンスタンツェだそうだ。
一体、そんなことをだれが言い出したのか、さだかではない。
悪妻、つまり悪い妻・・・、文豪トルストイも、愛すべき人生の連れ合いにはさんざん手を焼いたと伝えられる。

そのトルストイは、晩年、あろうことか夫婦の確執から、突然家出をしてしまい、放浪先の駅で亡くなった。
この話はかなり衝撃的だ。
この映画「終着駅  トルストイ最後の旅」は、トルストイの家出から死に至るまでの出来事を、秘書になったばかりの青年の目を通して描かれている。

トルストイ(クリストファー・プラマー)の妻ソフィヤ(ヘレン・ミレン)は、結婚しておよそ半世紀になる。
ソフィヤは情熱的な妻であった。
1910年代、妻ソフィヤと夫を信奉するトルストイ主義者たちとの対立が深まっていた。
二人は寝室を別々にし、伯爵らしからぬ粗末な身なりで、民衆のために精力的に仕事を続けていた。
私有財産制を否定する彼を、人々は賢者と呼んでいた。
彼は、友人チェルトコフ(ポール・ジアマッティ)とともに、トルストイ運動を展開していたのだ。

ソフィヤは、夫が爵位も財産もすべてを放棄するつもりであることを知って、大いに憤慨する。
それを率先して勧める、友人であり弟子のチェルトコフを激しく憎み、トルストイを挟んで二人は対立を深めていた。

さらに、チェルトコフが、トルストイの著作権も国に遺贈するという遺書にサインをさせようとしているのを知り、ソフィヤの怒りは頂点に達する。
板挟みにあって苦悩する、トルストイ・・・。
ついに彼は82歳にして、娘のサーシャ(アンヌ=マリー・ダフ)を連れて家出する。
ソフィヤは、ショックのあまり自殺を図ったが、トルストイを崇拝する青年ワレンチン(ジェームズ・マカヴォイ)に救われる。

トルストイは、主治医と娘サーシャ、ワレンチンとともに、列車で南へと向かった。
しかし、途中で病に倒れ、アスターポヴォ駅で途中下車する。
ワレンチンから知らせを受けたソフィヤは、特別列車で夫のもとに駆けつけたのだったが・・・。

ここでの妻ソフィヤは、夫の偉大さを理解できず、強欲をかいて夫を追いやった悪い妻として、“世界の三大悪妻”の一人として描かれるが、女性側からみると彼女の言動に共感できる部分も多いのではないだろうか。
彼女は、トルストイを深く愛していたし、家族を守ることに必死だったからだ。

だって、驚くなかれ、夫妻には何と子供が13人もいたのである。
トルストイは名誉や財産、そして性欲を含むすべての欲を否定していたはずだったが・・・。
それでも、老齢の夫妻が、二人してベッドの上ではしゃいで笑い転げる姿は、まことに微笑ましい。
この作品を観るかぎり、トルストイもまたソフィヤを深く愛していたのだ。

その複雑、デリケートな関係が、ともにオスカーにノミネートされた、ヘレン・ミレンクリストファー・プラマーの絶妙な演技で観客をひきつける。
二人の演技は、さながら舞台劇を観ているようで、素晴らしい。
ドイツ・ロシア合作映画「終着駅  トルストイ最後の旅」は、文豪最晩年の、妻との知られざる愛の葛藤を描いた、稀有な一作だ。
・・・「愛のある人生は困難だが、愛なき人生は不可能だ」
マイケル・ホフマン監督の言葉である。
彼によれば、創造され、破壊され、再び創造される、愛の持つばかばかしさ、狂気、そして求め続けてやまない人とのつながり、そうしたすべてをこの映画の中で探求したかったようだ。

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4 コメント

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悪妻・・・ (Julien)
2010-09-27 08:32:13
というと、言葉の響きは必ずしも良くはありませんが、むしろいかに愛すべき人物であるかということのようですね。
後世の人間は、いろいろと勝手なことをいうものです。

トルストイも、実にすばらしいし、妻のソフィヤもなかなかどうして・・・。
良妻であれ、悪妻であれ、みんな愛すべき人物に思えます。

小林ひろみ様。茶柱様。
コメントをありがとうございました。
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夫婦の事は (茶柱)
2010-09-22 23:21:50
他人には計りかねるところがありますが。
それをあっさり「悪妻」と言い切ってしまえるのも他人故。

さて、私は自分の「~妻」を探しにいかねば(笑)。
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「悪妻も愛妻も時の運」 (小林ひろみ)
2010-09-22 19:49:40
ソフィアとの夫婦愛なければ、レェフ・トルストイの思想は絵に描いた餅にすぎなかったろう。あんなにもロシア全土の農奴を開放していく強靭なものにならなかったろう。
 たった4~5年でも、搾取し支配する領主の生活を味わい、ソフィアとの安定した生活を捨てる勇気決断が、この映画の見所だった。
封建領主として周りとのりとの生活格差に唖然として、自己否定し一歩づつ進めていく時、私有財産の否定・ストイックな生き方が粛清として貫かれ、理想となったのだ。
伯爵夫人である妻の言い分と彼女への愛も真実であり、おおくの自身の犠牲があってこそ・・運動を運動たらしめた・・・のだったか。
 悪妻というのは、時代の移行期に確かな存在をも持ちえた素晴しいレディのことなんだと、著作権、財産を子どもにといソフィアのまくしたてるのは至極もっとも当然に思えた。
 愛妻ゆえに捨てた・・・否、大地に口づけをして、今までの生活にけりをつけ自らが家を出た。さすが映画だ、よく分かった。ソフィアは、どこまでも
おおいなる存在で拍手を贈りたい。友と二人、安心して悪妻もいいのではないかと時代との闘いは女性が負うものなのか、と今この暮らしを貫くだけつらNU
こうと鑑賞後別かれた。歴史の影を映画化してくださったマイケル・ホフマンに感謝もうします。小沢一郎さんも歴史の中で進化させれないものでしょうか。PO
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「悪妻も愛妻も時の運」 (小林ひろみ)
2010-09-22 19:42:35
ソフィアとの夫婦愛なければ、レェフ・トルストイの思想は絵に描いた餅にすぎなかったろう。あんなにもロシア全土の農奴を開放していく強靭なものにならなかったろう。
 たった4~5年でも、搾取し支配する領主の生活を味わい、ソフィアとの安定した生活を捨てる勇気決断が、この映画の見所だった。
封建領主として周りとのりとの生活格差に唖然として、自己否定し一歩づつ進めていく時、私有財産の否定・ストイックな生き方が粛清として貫かれ、理想となったのだ。
伯爵夫人である妻の言い分と彼女への愛も真実であり、おおくの自身の犠牲があってこそ・・運動を運動たらしめた・・・のだったか。
 悪妻というのは、時代の移行期に確かな存在をも持ちえた素晴しいレディのことなんだと、著作権、財産を子どもにといソフィアのまくしたてるのは至極もっとも当然に思えた。
 愛妻ゆえに捨てた・・・否、大地に口づけをして、今までの生活にけりをつけ自らが家を出た。さすが映画だ、よく分かった。ソフィアは、どこまでも
おおいなる存在で拍手を贈りたい。友と二人、安心して悪妻もいいのではないかと時代との闘いは女性が負うものなのか、と今この暮らしを貫くだけつらくこうと鑑賞後別かれた。歴史の影を映画化してくださったマイケル・ホフマンに感謝もうします。小沢一郎さんも歴史の中で進化させれないものでしょうか。
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