1971年の大ヒット作「小さな恋のメロディ」の挿入歌として知られる、ビージーズの名曲「若葉のころ」の旋律に乗せて描かれる、台湾発のラブストーリーだ。
俊英ジョウ・グータイ監督は、母と娘、二世代にわたる“17歳の恋”を鮮やかに描き出している。
この長編映画が彼の初監督作品である。
・・・記憶の中のきみは17歳のまま、今も“若葉のころ”を思い出す・・・。
台北に住む17歳の女子高校生バイ(ルゥルゥ・チェン)は、離婚した母と祖母の二人暮らしである。
バイは学園生活を明るく満喫していたが、親友ウエン(シャオ・ユーウェイ)と男友達との関係に頭を痛めていた。
そんなある日、母のワン(アリッサ・チア)が交通事故で意識不明の重体となった。
バイは悲しみに暮れるが、ふと母のパソコンから、偶然初恋の相手リン(リッチー・レン)に宛てた未送信のメールを発見する。
そこには、自分と同じく17歳だった頃の思い出が、切々と綴られていた。
バイは、遠く過ぎ去った日の母の青春に、思いをはせる。
そして、母に代わって「会いたい」とリンにメールを送るのだった・・・。
これより遡ること30年前、1982年・・・。
ワン(ルゥルゥ・チェン二役)とリンは、高校の英語スピーチコンテストで優勝を争ったことから、お互いに意識しあう存在となる。
コンテストで惜しくも二位に甘んじたリンは、ある日英語教師から、ビージーズの「若葉のころ」の歌詞を中国語に翻訳するようにと課題を出される。
リンはこれをチャンスとばかり、ワンへの思いを言葉に託し、「若葉のころ」のレコードと一緒に、訳した歌詞を彼女に渡した。
その数日後、リンが“ある事件”を起こし、二人は離れ離れになってしまったのだった・・・。
音楽と映像に誘われて、いつの間にか、心の疼く純愛の世界に引き込まれていく。
・・・病院で、ベッドに横たわったままの母親のパソコンから、未送信メールを見つけるのだが、それは30年ぶりに見かけた男に向けて綴られている。
台北に住む17歳の高校生バイは、悩んだ末に母に代わってそれを男へ送信したのだ。
身も心も疲れている中年男のもとに、そのメールは届けられる。
差出人の名前は高校時代の同窓生で、恋心をきちんと伝えられないまま、ある事件を起こし、手の届かない存在となってしまった彼女であった。
揺れ動く女子高校生と母親の、二つの青春が時を経て交錯する。
懐かしいメロディと五月の陽光・・・、ふとした偶然から生まれた追憶・・・。
初恋相手と生き写しのような娘との出会いだって・・・。
それが、たとえ夢想であってもよいではないか。
本当は届かなかったメールなのかも知れない。
ずみずしい画面と新人女優、それが甘い名曲に乗って運ばれてくる。
人気アーティストのビデオクリップを手がけてきた、アジアMV界のジョウ・グータイ監督の「若葉のころ」は、音楽と映像のコラボレーションのよく効いた、郷愁の映画だ。
純愛といっても、もうひと押し深いドラマを期待したが、物足りなさの残る作品だ。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回は日本映画「クリーピー 偽りの隣人」を取り上げます。
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こんな青春、あんな青春、いいではないですか。
だって、人生は一度だけ、青春の時も・・・。
かけがいのない時間は、こうしている間にも無情に過ぎてゆくのですから。