アカデミー監督ロバート・レッドフォードが、実話に基づく感動作を世に送り出した。
これまで語られてきた歴史が、必ずしも本当の歴史ではない。
この作品は、彼が「大いなる陰謀」以来5年ぶりに手がけた最新作だ。
歴史に隠された真実とは、かくも厳しいものだったのだろうか。
激動の時代を生き抜いた、ひとりの女性の真実の物語だ。
1865年、一発の銃弾が、ひとつになろうとしていたアメリカを再び引き裂いた。
アメリカ史上最大の死者を出した、南北戦争のの終結直後、新しい国の象徴だったリンカーン大統領が、南軍の残党に暗殺されたのだ。
有名な俳優だった主犯のジョン・ウィルクス・ブースは逃亡中に射殺され、共犯者8人が次々と逮捕された。
世間を驚かせたのは、その中にメアリー・サラット(ロビン・ライト)という女性がいたことだ。
彼女は南部出身で、夫を亡くして後、二人の子供を育てるために下宿屋を営んでいた。
フレデリック・エイキン(ジェームズ・マカヴォイ)は、元司法長官のジョンソン上院議員(トム・ウィルキンソン)から、彼女の弁護を頼まれる。
元北軍大尉で、英雄と称えられるフレデリックは、大多数の北部の人々と同じく犯人に怒りと憎しみを抱いていたが、議員に強引に押し切られる。
被告たちは民間人でありながら、軍法会議にかけられる。
メアリー・サラットの容疑は、逃亡中の彼女の息子ジョン(ジョニー・シモンズ)を含む犯人グループに、下宿屋をアジトとして提供したことであった。
だが、メアリーは毅然として無罪を主張した。
彼女は、法廷ではなく軍法会議にかけられ、フレデリックの弁護もむなしく、3カ月後に処刑される・・・。
最後まで無実であることを主張するメアリーが、暗殺者たちに宿を貸しただけで極刑を受けざるを得なかった不平等を、この映画は抉り出そうとする。
彼女の弁護を引き受けるエイキン弁護士は、「自由」を貫こうとする理想主義者として描かれており、裁判を通して彼が屈服されそうになる様相が克明に描き出される。
迫力のあるシーンだ。
そして、頑なまでに心を閉ざした被告人と弁護士の心の通い合う中で、メアリー・サラットのかくし通したひとつの真実が、透かして見えてくる。
メアリーは、何故死ななければならなかったのかという、鋭い問いかけが、ドラマの全編を覆っている。
作品では、1865年のワシントンなど細部まで完璧にリアルに再現している。
専門家が、徹底的にリサーチした史実に基づいた物語としての重みがある。
裁判の席で、サラットはあくまで「私は無実です」と静かな口調で主張するだけで、それ以外のことは何も語ろうとはしない。
彼女の弁護を渋々ながら引き受けた、元北軍の英雄フレデリック・エイキンも、次第に彼女は無実で、ある秘密を守るために、自らの命を差し出すつもりではないかと思い始める。
有罪と決めつけ、報復を求める国家アメリカを相手に、フレデリックの激しい闘いが見ものである。
強い意志を持って、最後の瞬間まで気高く振る舞うサラットの姿に胸が熱くなる。
そして、社会的立場や恋人を失ってまでも、正義を貫こうとするフレデリックを演じるジェームズ・マカヴォイが実にいい。
アメリカ映画、ロバート・レッドフォード監督の「声をかくす人」は、重厚ながら感動的な意欲作である。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
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そういう意見は観客が感じ取るという構成なのですね。
クールです。
歴史から忘れられた真実を掘り起こすのは、勇気のいることではないでしょうか。