ヒトラーとナチス幹部の残虐な行為は、彼らの子供たちに何を残したか。
敗戦直後のドイツを舞台に、いわば「ヒトラーの子」がどのような日々を送ったかを描いた意欲作である。
オーストラリア出身のケイト・ショートランド監督は、ここではユダヤ人側からではなく、ナチス幹部の子供たちの視点から、戦争が子供たちに与える絶望をリアルに描いているところに注目だ。
第二次世界大戦の敗戦直後のドイツ・・・。
ナチス幹部の父親と母親が拘束され、14歳のローレ(サスキア・ローゼンダール)は妹と双子の弟、赤ん坊とともに残された。
身を寄せていた家にもいられなくなり、ローレは妹と弟たちを連れて、北部に住む祖母のもとを目指して出発する。
連合国軍に分割され、混乱と荒廃の中にあったドイツを旅するうち、ローレはナチスのユダヤ人虐殺を初めて知る。
そんなローレと妹たちは、ユダヤ人の証明書を持つ青年トーマス(カイ・マリーナ)に助けられる。
ナチスを盲信していたローレは、多くの死や不条理と直面し、激しく動揺する・・・。
たとえ子供であっても、ナチス関係者に対する目は厳しく、隠れ家からも追い出される。
頼れるものもなく放り出されてしまうのだ。
幼い子供たちを、戸惑いと不安と恐怖が襲う。
一番年長のローレは、妹たちを守る責任を負っている。
ヒロイン・ローレを演じるローゼンダールのこわばった固い表情に、彼女の複雑な想いがにじむ。
900キロも離れた祖母の家を目指すのだが、途中腐乱死体があったり、ユダヤ人虐殺の写真が目に入り、食料の調達もままならず、幼い弟が撃殺される悲劇も・・・。
ユダヤ人青年に助けられても、嫌悪感が体にしみついてくる。
ローレはそれが嫌でならない。
ローレは心身ともに傷つきながら、長い旅を続ける。
そして彼女は過酷な旅を通して、世界の現実を知る。
子供時代に別れを告げようとする、思春期の少女の危うい時期に・・・。
そんなヒロインの印象を重ねた、森や広野の描写が繊細で美しい。
彼らの行く先に、希望の灯は見えるのか。救済はあるのか。
ケイト・ショートランド監督のドイツ映画「さよなら、アドルフ」は、戦争の深い傷跡を浮き彫りにして、観る者に熱く問いかけてくる・・・。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
最新の画像[もっと見る]
- 川端康成 美しい日本~鎌倉文学館35周年特別展~ 3年前
- 映画「男と女 人生最良の日々」―愛と哀しみの果てに― 4年前
- 文学散歩「中 島 敦 展」―魅せられた旅人の短い生涯― 5年前
- 映画「帰れない二人」―改革開放の中で時は移り現代中国の変革とともに逞しく生きる女性を見つめて― 5年前
- 映画「火口のふたり」―男と女の性愛の日々は死とエロスに迫る終末の予感を漂わせて― 5年前
- 映画「新聞記者」―民主主義を踏みにじる官邸の横暴と忖度に走る官僚たちを報道メディアはどう見つめたか― 5年前
- 映画「よ こ が お」―社会から理不尽に追い詰められた人間の心の深層に分け入ると― 5年前
- 映画「ア ラ ジ ン」―痛快無比!ディズニーワールド実写娯楽映画の真骨頂だ― 5年前
- 文学散歩「江藤淳企画展」―初夏の神奈川近代文学館にてー 5年前
- 映画「マイ・ブックショップ」―文学の香り漂う中で女はあくなき権力への勇気ある抵抗を込めて― 5年前
暗く、悲しい話ばかりです。
「戦争」と聞いただけで、いつも胸が痛くなります。
失うものは大きく、そこからは何も生まれてこないのですから・・・。
何も・・・。
しかし、地上から絶えることがないのですね。