いま、メディアが多様化するなかで、新聞の存在意識があらためて問われている。
真実を報道すべき新聞の、大きな役割と責任を考えさせられる。
このアメリカ映画は、巨大権力にペンで立ち向かう敏腕記者を描いた、ケヴィン・マクドナルド監督の力作だ。
いやあ、この映画、なかなか面白くてよろしい。
主人公の敏腕記者・カル(ラッセル・クロウ)は、政府と軍事産業の癒着を暴くべく、利権にからむ真実を報道しようとする。
ワシントンD.C.で、二件の事件が相次いで起きる。
黒人の少年が殺され、目撃者もまた瀕死の重傷を負う。
もう一件は、国会議員スティーヴン・コリンズ(ベン・アフレック)のもとで働く女性ソニア・ベーカー(マリア・セイヤー)が、出勤途中の地下鉄の駅で謎の死を遂げる事件だ。
自殺か他殺かは不明だが、コリンズ議員とソニアの不倫疑惑が明るみに出て、大スキャンダルとなる。
カルは、ワシントン・グローブ紙のベテラン記者だ。
コリンズとは、学生時代からの友人でもある。
マスコミにたたかれたコリンズは、彼にソニアの死は絶対に自殺なんかではないと言う。
カルは、射殺された黒人の携帯電話の履歴から、ソニアにたびたび電話をかけていたことを突き止める。
そして、一見何の関係もない二つの事件が、一本の糸で結ばれる。
新人女性記者デラ(レイチェル・マクアダムス)と組んで、カルはあの手この手を駆使して、この事件の恐るべき背景を探っていく・・・。
それは、イラク湾岸戦争で膨大な利益をあげている、ポイント・コープ社のさらなる巨額の利益にからむ陰謀だったのだ。
やがて、カルは殺し屋の標的となる。
カルは、やっとのことで殺し屋の手から逃延びるのだが、ワシントン・グローブ紙の女性編集長キャメロン(ヘレン・ミレン)は、一刻も早く記事にするよう命令を下すのである。
カルは、命がけの取材を続けていく。
そして、政府を巻き込むほどの利益にからんだ、とてつもなく大きな闇を、彼は知ることになるのであった・・・。
カルは、襲撃の事実を次々とあばいていくのだが、そのなかには過激な手法もある。
それでも、彼は真実に迫るために何でもする。
取材現場で起こりうる問題が、サスペンスタッチで生々しく描かれる。
実際、こうした反社会的な勢力とかかわる取材では、脅迫も多く、記者は身の危険を覚悟で、ときには取材相手や情報提供者とも対立することになる。
これは、新聞記者たちの見た現代アメリカの闇だ。
主人公カルを演じる、ラッセル・クロウが文句なしに際立って上手い。
取材のために、さまざまな駆け引きを通じて奔走する記者を演じて、さすがである。
ケヴィン・マクドナルド監督の演出も、古いタイプの新聞記者がジャーナリズム魂を貫こうとする過程を丁寧に描いて、シャープな切り口を見せてくれる。
アメリカ映画「消されたヘッドライン」は、政治不信が叫ばれ、メディアの果たす役割がとりわけ重みを増している、日本の現実にも通じるテーマを扱った、問題作だ。
重厚で、リアルな緊張感に満ちた、見応えのある作品となっている。
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まだまだアメリカ映画も捨てたものじゃありませんね。
娯楽映画としてみても、まあそこそこ楽しませてくれます。