天高く、すっかり秋の気配だ。
あの夏の猛暑は、まるで嘘のようだ。
これからは、日一日と秋は深まっていくことだろう。
さて映画の方は、第一弾、第二弾を受けて、これは三部作の最終編というわけだ。
ついつい引きずられて、三作品を観たことになる。
作品全体から浮かび上がってくるものは、この事件の背景にある、平和国家スエーデンの恥部である。
この作品、あの「ダ・ヴィンチコード」をしのぐミステリーともいわれている。
この作品の日本語のタイトルは、どうもぴんとこない。(意訳しすぎか)
人口わずか900万人のスウェーデンで、「ミレニアム」3部作は、350部も売り上げるという驚異的なヒットとなったそうだ。
さらに、40ヶ国ですでに3300万部を突破し、犯罪小説としては、多数の賞を受賞するなど、作品の話題は尽きない。
しかも「ドラゴン・タトゥーの女」=リスベットという、圧倒的な存在感を持つ、過去に例のないヒロイン像に注目だ。
原作者であるスティーグ・ラーソンは、この「ミレニアム」シリーズ出版の直前に、心筋梗塞で急死したと伝えられる。
50歳の若さであった。
この人、彗星のごとく登場した巨星として、伝説の人となった。
彼の急死で、三部作までの出版にとどまっているが、第4部の草稿が、ラーソンの遺品のパソコンの中に残っていたとされる。
でも、現在出版の予定はないそうだ。
実の父アレクサンデル・ザラチェンコ(ゲオルギ・スタイコフ)との死闘の末、3発の銃弾を浴びて、リスベット(ノオミ・ラバス)は病院に運ばれた。
一命をとりとめたものの、父も無事だと聞かされた彼女の想いも複雑だった。
のちにザラチェンコも殺害されるのだが、裁判の場において、かつてのリスベットの主治医だったテレボリアン(アンデルス・アルボム・ローセンダール)は、偽りの精神鑑定をし、再び彼女は収監されることになる。
警察は彼女の回復を待ち、裁判で事実が解き明かされることになる。
一方、ミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)は、リスベットの無実を証明するために、「ミレニアム」誌上に、ザラチェンコが起こした犯罪と、それを黙認してきた公安警察の癒着を暴露すべく準備を進めていた。
ところが、この「ミレニアム」誌は、編集長が生命の危険にさらされることになったため、やむなく発行禁止となった。
同じ頃、続発する不可解な事件の解決のため、公安警察は秘密裡に動いていた。
だが、捜査は難航していた。
やがて開廷した裁判では、人権派の弁護士、警察の息のかかった(?)検事、精神鑑定医らが、激しい戦いを演じていた。
リスベットが精神障害と判定されたら・・・?
残された時間が無くなる中、元公安警察官らの不正を示す証拠を求め、またもやスリリングな攻防が幕を開ける・・・。
ダニエル・アルフレッドソン監督の本編の「ミレニアム3」は、ヒロインのリスベットを苦しめた、卑しい男たちを断罪する法定編といったところだろうか。
事件の裏に潜む、忌まわしい秘密を暴き出しながら、やがて真実が明らかにされる。
よくできていた「1」「2」に続いて、この「3」はややドラマの結末があっけないのはどうしたことか。
少し物足りなさを感じる。
まあそれにしても、北欧スウェーデンのミステリーというのは、一味違った輝きを放っていて、興味深く観せてくれる。
興味尽きないボリューム感のある三部作は(小説は読んでいないが)、極めて秀逸な構成を持っていて、謎めいた事件の展開をどう捜査していくのか、危機的な状況に陥った主人公たちが、いかにしてそこから脱出するかというサスペンスにそそられる。
たとえば、忽然と消えた少女の謎、異常な性格を持つ人物の犯罪をめぐるスリラー、政治の裏側を描くスパイ・ドラマ、追跡と逃亡の冒険小説のような展開、ヒロインの無実を証明しようと戦う法定小説の趣き・・・と、全編エンターテインメントとの要素が満載だ。
三部作を通して観てみると、スウェーデンの現代史の暗部だけではなく、現代社会の最も深い闇と思われる、大きなテーマを含んでいるように見える。
スウェーデンは高福祉の国だ。
その国でさえ、こうした問題は顕在しているといわれる。
とことん堪能できる面白さが、この作品にはあふれている。
まことに稀有なシリーズである。
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ピカレスク・ロマンともまたひと味違った楽しみがある様ですね。
今回は、「パート3」がどうもちょっとという感じでしたね。はい。
三部作として、面白いことは面白い作品だったと思います。