過去は、変えようとして変えられるものではない。
一番幸せな時間は、家族と過ごす今の時間だ。
つまり、ごく普通の一日が最高の幸せをもたらすのだ。
愛する人との何気ない時間がいかに大切か。
親と子の絆、夫婦の絆、きょうだいの愛といった、いろいろな要素を通して、タイムトラベルを題材にした心温まる作品だ。
これが最後の作品となる、リチャード・カーティス監督のロマンティック・コメディだ。
イギリス南西部に位置する、美しい海辺の町コンウォール・・・。
オレンジの髪の毛にひょろりとした体形の、どこか冴えない青年ティム(ドーナル・グリーソン)は、両親(ビル・ナイ&リンゼイ・ダンカン)と妹のキットカット(リディア・ウィルソン)、そして叔父のデズモンド(リチャード・コーデリー)と、浜辺に近い家で暮らしていた。
一家はちょっぴり風変りだったが、家族仲は良く、それなりに幸せな日々を過ごしていた。
ティムは容姿にコンプレックスを持っていて、最愛の女性メアリー(レイチェル・マクアダムス)と結婚まで至るのだが・・・。
ところがティムの21歳の誕生日に、その後の彼の人生を大きく変える出来事が待っていた。
彼はシャイで、女の子の誘いにも躊躇してしまう自分に対して、自己嫌悪に陥っていた。
年越しパーティーの翌日、ティムは父親から正気の沙汰とは思えないことを耳にする。
一家の男たちは、先祖代々、タイムトラベルの脳力を持っているのだというのだった・・・。
人生の機微を見つめた作風で知られるリチャード・カーティス監督は、家族をテーマに、恋をして、結婚して、子供が生まれ、家族を築いていくことの素晴らしさをこの作品で語っている。
ここでは、何気ない平凡な日々の積み重ねが、かけがえのない価値ある人生を積み上げていく。
単なる女性向けの恋愛映画とは違って、すべては移ろいゆく諸行無常を肯定的に見つめる。
そして、過ぎ去った時間は宝物のように思えてくる。
タイムトラベルといっても、映像には全くSF的な要素は施されていない。
どこまでも物語はシンプルだ。
リチャード・カーティス監督自身、両親や妹を相次いで亡くした経験を持ち、それがこの映画には大きく反映されているようだ。
イギリス映画「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」は、センチメンタルなロマンスと、愛にあふれたコメディの要素がほどよく溶け合った人生讃歌だ。
もし、あの時に戻れたら・・・。
そう思うことは誰にもある。
それが、この物語の中で実現する。
ごく普通の日々が、実は多くの奇跡に彩られている。
難しい理屈抜きの、愛に満ち満ちた楽しい作品だ。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
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あの時に戻れたらとか、叶わぬ夢がかなったりとか、ロマンティックなファンタジーも悪くはないですね。
人生、ときにはあまやかに過ごしたいって、思いませんか。