オーストラリアの大自然を舞台に、壮大な物語が繰り広げられる。
アメリカ映画だ。
遥かなる異国の地で、ひとりのイギリス人貴族の女性の運命を変える。
バズ・ラーマン監督の、故郷への個人的な思い入れが強い作品だ。
自分の手で、自分の人生を切り開く。
それが、女の運命の旅であった。
「風とともに去りぬ」を、彷彿させるドラマだという評論家がいる。
確かにその面はあるかも知れないが、あの名作とは比較にならない。
第二次世界大戦の勃発前のオーストラリア・・・。
夫を訪ねて、イギリス・ロンドンからはるばるやって来た英国貴族レディ・サラ・アシュレイ(ニコール・キッドマン)は、ようやく到着した夫の領地で、彼が何者かに殺されていたことを知る。
サラに残されていたのは、抵当に入れられた広大な牧場と1500頭の牛であった。
夫から相続した土地と財産を守るためには、現地で出会った野性的なカウボーイ、ドローヴァー(ヒュー・ジャックマン)としぶしぶ手を組んで、牛を引き連れ、美しくも過酷な土地を9000キロも横断するよりほかに手はなかった。
いよいよ、牛追いの旅が始まった。
その一行の後を、影のようについていく、謎めいたアボリジニ(先住民族)呪術師キング・ジョージ(デヴィッド・ガルピリル)の存在があった。
ある夜、仲間を引き連れた牧場のマネージャーのフレッチャー(デヴィッド・ヴェンハム)が、牛の群れを暴走させようと仕掛ける。
その1500頭の牛の暴走を止めたのは、ドローヴァーの活躍であった。
ドローヴァー、サラの一行は、水を求めて、命の危険を冒してまで砂漠を越えるしか道はなかった。
それは、キング・ジョージの道案内があればこそであった。
「こんなひどいことに巻き込んでしまって」と謝るサラに、ドローヴァーは、
「いや、君ほど勇敢な女性はいない」と優しく応える。
二人の気持ちは、いつしか急速に近づいていった・・・。
作品の冒頭で、どたばたしたコミカルなドラマが始まるのだが、これがとても騒々しい。
どたばたコメディなのだ。
この物語にとって、不可欠な要素とはとても思えない。
カットしてもよかったのでは・・・?
物語は、悪徳大牧場主一味との闘いなど、次から次へと危険や危機が怒涛のように押し寄せてくる。
ハラハラ、ドキドキの展開の中で、サラとドローヴァーの恋、アボリジニの少年とサラの絆の深まりを描きつつ、アドベンチャーとドラマとロマンスの融合された作品に仕上がっていく。
英国の貴婦人がカウボーイと出会い、運命的な深い愛に包まれ、人間として成長していく過程を、壮大なスケールで描いている。
神秘に満ちた大地、先住民族アボリジニとの交流、ドローヴァーヘの真実の愛への目覚め・・・。
そして、牛の大群が大暴走するシーンは、手に汗握る圧巻である。
ただし、終盤近く、日本軍によって直接本土を攻撃されたことはあっても、映画に描かれているような上陸作戦はなかったはずで、これは嘘だ。
こういう描き方は、あまり気分いいものではない。
真に人を愛するとは、たとえ離れることはあっても信頼し、まるごとその人の生き方を受け入れることなのだと、映画は語りかける。
3時間近い大作で、オーストラリアへの思い入れの強さがよく分かる。
よくあることだが、その思い入れが強いあまり、どうも独りよがりな、どうでもよい演出まで散見されるのは御免だ。
アメリカ映画「オーストラリア」は、1930年代のオーストラリアの奥地と北部の港町ダーウィンの再現も素晴らしい。
もちろん、壮大でエキゾチックな大自然の映像の美しさは、もうそれだけで特筆ものである。
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いまだに、反日感情のまさに暴力で、ひどいものです。