暗く、重い過去を、十字架のように背負う青年が、新たな人生を歩みはじめる。
イギリスの若手作家、ジョナサン・トリゲルの同名小説を映画化した。
ヒューマンストリーである。
新鋭ジョン・クローリー監督のこのイギリス映画は、痛ましい現実を背景に、贖罪についての、小さいがそれでいて偉大な、心を奪われるような物語だ。
未来のために、もう一度生き直すために、本当の名前を失った青年の心の傷、希望、孤独を、痛くなるほどにエモーショナルに描いている。
まるで幼い少年のように、青年ははにかんで笑顔を見せていた。
彼は、生まれ変わって、“新しい自分の名前”を選ぶ。
名前は、ジャック(アンドリュー・ガーフィールド)だ。
親からも愛されず、学校でいじめられ、「BOY A」となった主人公の青年の心には、大きな傷あとがある。
彼は、決して消せない罪を背負っている。
そのジャックに、ふとした出会いから、いま愛する人ができた。
仲間もできた。
それでも、彼は自分に問いつづける。
「ぼくは、ここにいてもいいの?」
主人公を世話するソーシャルワーカー(ピーター・ミュラン)は、ジャックと父子のような関係を築きながら、実の息子とは心を分かちあえない、難しい役柄を演じて興味深い。
物語がすすむにつれて、少しずつジャックのことを知り始めるときに、衝撃の結末が訪れる・・・。
どんなにやさしい子供でも、ちょっとした偶然の重なりで、不幸な人生を歩んでしまうことがある。
人間の過去と罪、さらには先入観を問う深刻なテーマを投げかける作品だ。
イギリス映画「BOY A」は、みずみずしいリアリズム溢れる、ささやかな感動作となった。
重いテーマを扱っているのだが、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で審査員賞に輝いた。
人は、自分の生涯において、過去におかした罪とは決別しえないものであろうか。
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