愛と友情を絡めた、スケールの大きな人間ドラマだ。
パキスタンのある村で起きた実話をもとに、10年の準備期間を経て完成した作品だ。
パキスタンに生まれ、アメリカで映画を学んだ女性監督アフィア・ナサニエルが、ダイナミックな映像と繊細な心理描写で全編を綴った。
これまた非常に珍しい、日本初公開のパキスタン映画である。
そして、アフィア・ナサニエル監督のデビュー作でもある。
世界最大の山岳氷河地帯を抱くカラコルム山脈は、パキスタンとインド、中国の国境にまたがってそびえていた。
その山の麓には、数多くの部族が暮らし、絶え間のない衝突と融和が繰り返されていた。
そんな一部族に属する若く美しい母アッララキ(サミア・ムムターズ)は、10歳になる娘(サーレハ・アーレフ)と過ごす時間を生き甲斐にしていた。
ある日、他部族との紛争が起こり、それぞれの仲間、親戚が殺し合いに巻き込まれる。
だが、その部族間のトラブルを解決するために、ザイナブと相手部族の長老との結婚が決められる。
自らも、年の離れた老部族長の妻として差し出されたアッララキは、ザイナブの人生を守るために、母娘二人で逃げようと決心するのだった。
もしとらえられたら、己の命をもって償わねばならないことを覚悟の上だった。
幼いザイナブは、結婚が意味することをまだ理解していなかった・・・。
娘を思う母の心が、映画の核心にある。
自由を求める魂をめぐっての、普遍的なドラマだ。
殺害を企てる追手から逃れ、パキスタン流の「デコトラ」で、カラコルム山脈の息をのむような絶景の中を駆け抜ける、サスペンス・アドベンチャーだ。
壮大な自然と文化に彩られた緊迫のドラマは、世界中で数々の映画賞を受賞した。
観客は、観ているうちに自然と物語に引き込まれていく。
この国が持つ家父長制とか、部族社会の因習も語られるが、決して堅苦しい感じはしない。
アッララキを演じるムムスターズの、意思の強い凜とした美しさが際立っている。
逃走する母親を助けようと、スリリングなカーチェイスを繰り広げるトラック運転手ソハイル役のモヒブ・ミルザーもなかなか魅力的だ。
メッセージ性の豊かさといい、しなやかな詩情もたっぷりと、エンターテインメントとしては上出来の作品である。
部族間に決して抗うことのできない鉄の掟があり、この掟に背く者には死が待っている。
知られざるパキスタン人の日常生活を描きながら、山岳地帯の部族間の一触即発の危機を孕んだ撮影はもちろん、目も眩むような切り立った岩壁など、スクリーンを通して伝わってくる緊張感はさすがだ。
無名の役者たちが多数出演し、治安が極度に悪化している中で、安全を確認しながら、全てのキャスト、スタッフで山道での撮影は困難を極めたそうだ。
冒頭の、夢と現実、希望と絶望の背中合わせに存在する主人公のクローズアップが、主人公の世界を象徴的に表している。
アフィア・ナサニエル監督のパキスタン映画「娘 よ」では、パキスタンの声なき女たちの強い思いと尊敬が、哀しい歴史を重ねあわせ、この物語を紡いだ。
ドラマの中に、メロドラマ的な偶然が重なるなどご都合主義も散見されるが、大胆にして繊細な演出は冴えている。
冒険映画といってもよいが、作品には清々しい壮大さが溢れている。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回は台湾映画「台北ストーリー」を取り上げます。