徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「追 憶」―25年の歳月を経て交錯する7人の愛の行方―

2017-05-13 16:00:00 | 映画


 哀切のヒューマン・ドラマである。
 「駅 STATION」1981年)「鉄道員」(1994年)など日本映画に数々の名作を送り出した、降旗康男監督木村大作撮影監督の名コンビが組んだ、9年ぶり16作目の話題作だ。

 少年時代の記憶を封印した、3人の男に訪れる悲劇を描いた人間ドラマだ。
 ミステリー仕立てだが、この作品は謎解きを楽しむいわゆるミステリーではない。
 重い過去を背負った者たちが、その後の人生をどう過ごしてきたかを描く贖罪のドラマでもある。



1992年、冬の能登半島・・・。
親に捨てられた13歳の少年四方篤は、同じような境遇の田所啓太、川端悟の2人とともに、軽食喫茶“ゆきわりそう”を営む仁科涼子(安藤サクラ)と、店の常連客山形光男(吉岡秀隆)を慕い、ここに集まってきては家族のような日々を送っていた。
しかし、かつての涼子の男貴船(渋川清彦)が現われた日から、幸せな日々は崩壊し始める。
貴船は涼子のもとを頻繁に訪れるようになり、その度に篤たちと涼子の楽しい時間を、ずたずたに引き裂くのだった。
篤は涼子のささやかな幸せのため、ある決意をする。
彼は金属バットを手に、啓太や悟と一緒に、店の2階から降りてくる貴船を待ち構えた。
富山の漁港での殺人事件はこうして起きた・・・。


・・・3人は、事故のあともう二度と会わないことを決めていた。
その25年後、大人になったかつての親友たち3人が再会することになる。
(岡田准一)は刑事、啓太(小栗旬)は容疑者、悟(柄本佑)は被害者として・・・。
幼い頃に負った傷のせいで、篤は母の清美(りりイ)とも妻の美那子(長澤まさみ)ともうまくいかず、苦悩する。
不幸な幼少期を過ごした啓太は、出産間近な妻の真理(木村文乃)と幸せな家庭を築こうと願い、悟は自分を拾ってくれた恩人のために人生を捧げる覚悟でいる。
3人の心には、親に捨てられた自分たちの面倒を見てくれた、“ゆきわりそう”の店主涼子の思い出が封印されていた・・・。

涼子を中心に集まってきた仲間たち、その妻たち、彼女に好意を寄せる男・・・、彼ら彼女ら7人のそれぞれの愛が、25年の時を経て交錯し合う。
ドラマが扱っている事件は、確かにミステリアスである。
ひとつの殺人事件をきっかけに、それぞれに家庭を持ち、歩んできた人生が交錯し、運命の歯車を回し始める。
運命に翻弄される男たちの25年の軌跡を、能登や富山の美しい風景の中に、木村大作のカメラが詩情豊かに綴っていく。
哀切な詩情が全編に漂っている。
それに、日本のマリアを想わせる安藤サクラの寡黙な演技が印象的だ。
ドラマは、濃密な内容に満ちていて飽きさせることはない。

全編フィルム撮影の作品だ。
ただ残念に思うのは、降旗康男監督のこの映画「追 憶」で問題になるのは、ドラマにどうも十分な説得力がないことではなかろうか。
起こった事件の取り扱いにしてもあっさりしているし、真相もあっけない。
作品自体に、とくにドラマとしての新味というのは感じられない。
キャストはそれぞれ人気どころの演技派揃いで、個性的な演技を披露している。
本編に登場する男優陣はもちろん、女優陣はみんなノーメイクだそうだ。
メイクすることで、顔の色が一定になり、色気がなくなることを降旗監督が嫌うらしい。
女優は自分の肌の色で演じることで、それだけ表情が豊かになるというのが持論で、この作品でも彼女たちは魅力的に映っている。
映像、音楽、舞台背景、撮影と、全スタッフの意気込みの感じられる作品となった。
まあ、観て損のない作品には仕上がっている。
        [JUILENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日本映画「八重子のハミング」を取り上げます。