徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ラビング 愛という名前のふたり」―肌の色が違うだけで逮捕された夫婦の物語―

2017-05-07 19:00:00 | 映画


 1950年代の終わり頃のアメリカで、実際にあった話にもとずく物語である。
 当時のアメリカには、白人と黒人の結婚は認められないという、古い法律が残っている州があった。
 これは、一組の夫婦が国を動かした愛と憤りのドラマだ。

 ジェフ・ニコルズ監督は、純粋な愛を育む当たり前の夫婦の真実を、丹念な映像と物語の積み重ねで描いて見せた。
 この作品には、大げさなセリフや声高な弁論はなく、あくまでも静けさの中に多くを語らせている。
 本人の逮捕とか、十年近い裁判闘争にあっても、当事者は冷静で、あからさまに怒りを見せることもない。
 それでも、人間の残酷さと愛の強さが伝わってくる。



1958年、アメリカ・バージニア州・・・。
煉瓦職人のリチャード・ラビング(ジョエル・エドガートン)は、黒人の恋人でミルドレッド(ルース・ネッガ)から妊娠を告げられる。
リチャードはミルドレッドに結婚を申し込むが、バージンニア州では異人種間の結婚は禁止されていた。
二人は、法律で許されるワシントンD.C.で結婚し、その後バージニア州に戻って暮らし始める。
そんな二人に、州外退去の危機が訪れる。
夜中に突然現れた保安官に逮捕され、離婚するか、故郷を捨てて25年間戻ってきてはならないと、どちらかの選択を迫られることになったのだ・・・。

結論はこうだ。
1967年に、アメリカ連邦最高裁は、異人種間の結婚を禁止する法律を違憲としたのだった。
それまでは、白人と黒人の結婚は罪となりえたが、そんな状況下で二人は自分たちの愛を形にするために結婚し、法律に立ち向ったのだ。
時のケネディ司法長官への直訴ともとれる手紙も、功を奏した。
だからといって、とくに二人は社会的な活動を展開したわけではない。
あくまでも、普通の夫婦として一緒に暮らしたいと、粘り強く訴え続けたのだ。

アカデミー賞主演女優賞ノミネートされた、ルース・ネッガの多彩な感情をにじませた演技が冴えている。
実に静かな、2時間余りの作品だ。
主人公二人の、好ましい人柄と互いの気遣いが自然体で描かれ、息の合った静謐な演技が気取りや誇張もなく存在感にあふれている。
二人は劇中ではあまり感情を表に出さないが、結果的には好印象だ。
リチャードはもともと寡黙な煉瓦職人で、理不尽な目にあっても耐え、ミルドレッドといえば、普段はとても控えめな女性だが、家族を守るために毅然とした態度を見せる一面もあって、情感がにじみ出ている。

ジェフ・ニコルズ監督アメリカ・イギリス合作映画「ラビング 愛という名前のふたり」では、公民権運動が高まった1963年を挟んで、全ての異人間結婚に対する法律に違憲の判決が下されたことから、少々大げさに言えば、ラビング夫妻が憲法を変えたともいわれるゆえんだ。
広大なアメリカ南部の大自然の中で、リチャードが家の土台の煉瓦をひとつずつ手作業で積み上げていくのを、子供たちが見守り、それを妻のミルドレッドがじいっと見つめているラストシーンがヒューマンな感動を呼ぶ。
これは、法廷闘争などの物語ではなく、夫婦の強い愛の物語だ。
人種や国籍をめぐる差別が、世界中で激化している昨今、こんな映画が誕生したことに共感の拍手を送りたい。
        [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回はアメリカ映画「カフェ・ソサエティ」を取り上げます。