徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「レヴェナント 蘇えりし者」―死の淵から生還した男の凄まじい執念―

2016-05-05 17:00:00 | 映画


 極寒の土地に放置され、過酷なサバイバルの果てに待っていたものは何であったか。
 アカデミー賞主演男優賞受賞した、レオナルド・ディカプリ渾身の一作である。
 メキシコ出身アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督は、本物のフロンティアの再現に強くこだわり、氷点下20度という極寒の地でロケを敢行した。

 映像はクリアで美しい。
 人工的な照明を一切使わず、自然光のみの撮影で、今までにないスケールで映し出している。
 音楽は日本の坂本龍一が担当し、主演・監督・音楽三人の異色のコラボレーションによる映画体験も興味深い。
 話題性も満点に近いドラマが、重厚で壮大な愛憎物語のかたちをとって、未開の荒野を舞台に展開する。







1820年代、アメリカ西部の未開拓地・・・。
ヘンリー隊長(ドーナル・グリーソン)の率いる毛皮ハンターの集団は、ミズリー川沿いを進んでいた。
先住民族の女性との間に生まれた、息子ホーク(フォレスト・グッドラック)を連れたヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオも現地のガイド役を務めていた。
陸路を進むうち、グラスがハイイログマに襲われ、瀕死の重傷を負った。
グラスは、即席の担架に乗せられて丁重に運ばれるが、山越えは不可能とみると、隊長は余命わずかに見えるグラスを残して北へ進むことを決断する。
ホークとグラスを慕うジム・ブリジャー(ウィル・ポーター)、金に釣られて居残りを志願したフィッツジェラルド(トム・ハーディ)の3人にグラスの身を預け、臨終をみとるように命じた、

しかし隊長の予想に反して、グラスは粘り強く、生の世界にとどまり続けた。
早く砦に戻りたいフィッツジェラルドは、自らの手でグラスをあの世に送ろうとするが、それをホークが目撃する。
ブリジャーに知らせようとして大声を上げたことから、フィッツジェラルドに殺されてしまう。
その光景を、身動きすることも声を上げることも出来ずに、父親グラスはただ地面に横たわって見つめているほかなかった。
一方、ホークの死体を隠したフィッツジェラルドは、先住民のアリカラ族が襲ってくると偽って、ブリジャーを急き立て、グラスを置き去りにして行ってしまう。
たった一人残されたグラスだったが、最愛の息子を失った悲しみと絶望、フィッツジェラルドに対する怒りと悲しみを原動力に、奇跡的に死の淵から蘇える。
しかしそこから、想像を絶する苦難がまた始まるのだった・・・。

ディカプリオは心身ともに深い傷を負い、愛する者への想いと執念を、躍動する肉体でぎりぎりなまでに表現し、凄まじい存在感を見せている。
鬼気迫る、演技だ。
セリフは少なくても、沈黙で男の情念をにじませ、さすがにアカデミー賞主演男優賞をもぎ取るほどのエネルギーに納得だが、聞こえてくるのは荒々しい苦痛の溜息ばかりで、ここは観ているほうが辛いところだ。
ディカプリオは初ノミネートから22年、5度目にして悲願のオスカーに彼の青い瞳は潤んだ。
まあ、熊に噛みつかれ、ひっかかれ、投げ飛ばされ、断崖から落ちたらとてもではないが命はないはずだが、このディカプリオは不死身だ。
険しい森、凍てつく雪原に展開するスペクタクルは、ダイナミックで息をのむシーンの連続だ。
映画の撮影は、カットを割らずに長回しが続く。

しかし物語の筋立てといい、力演のディカプリオといい、どうも固い一本調子なところは観ていて疲れる。
ドラマの中で起きる出来事は細かく描写されているのだが、グラスをはじめとする登場人物たちの何者たるか、「人間」が描き切れていない気がする。
人間描写が手薄である。
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督アメリカ映画レヴェナント 蘇えりし者」は、息子を想う男の執念の復讐、極限状況下のサバイバルドラマとしては、臨場感あふれる壮大な映像に一応見応えはある。
主人公と魂の旅をともにするだけの、強烈な映像体験と娯楽性は、この作品にはある。

死の淵から生還した男ヒュー・グラスは、ずっと語り継がれてきた実在した伝説の人物だそうだ。
この作品、主演男優賞とともに監督賞撮影賞アカデミー賞三部門受賞に輝いた
またイニャリトウ監督は、昨年の「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」に続いて2年連続の監督賞受賞となった。             
      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は日本映画「蜜のあわれ」をとりあげます。