徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「最高の花婿」―異人種他民族が一緒に暮らすフランス社会の現実をユーモラスに―

2016-04-23 21:00:00 | 映画


 フランスという国は、異人種間の結婚率が世界一なのだそうだ。
 欧州を揺るがしている移民問題は、大きな社会問題となっているが、この作品はフィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督がユーモアいっぱいに切り込んだ映画だ。

 今や誰もがその中にいる多文化的状況を、いかなる偏見や固定観念にもとらわれることなく、笑いの世界へと誘う粋なコメディなのだ。
 差別的な偏見や不寛容さえも抉りだし、それを見事に笑いへ昇華させて見せた。
 ここでは、4人の姉妹が次々と国際結婚した一家の騒動を描いている。










フランスのロワール地方に暮らす、クロード(クリスチャン・クラヴィエ)とマリー(シャンタル・ロビー)のヴェルヌイユ夫妻には、他人には相談できない悩みがあった。
長女イザベル(フレデリック・ベル)、次女オディル(ジュリア・ピアトン)、三女セゴレーヌ(エミリー・カーン)の3人の娘たちが、次々とアラブ人 、ユダヤ人、中国人と結婚し、様々な宗教儀式から食事のルールまで、異文化への驚きと気遣いにほとほと疲れ果てていた。

そんな時、最後の希望だった末娘ロール(エロディ・フォンタン)が、カトリック教徒の男性と婚約した。
ヴェルヌイユ夫妻は敬虔なカトリック教徒で、これまで異教徒の男と挙式した娘への落胆を隠せないでいた。
しかし、大喜びの夫妻の前に現れたのは、コートジボワール出身の黒人青年だった。
しかも、これにはフランス人嫌いの彼の父親の方が大反対であった。
果して、色とりどりのこれらの家族に、愛と平和が訪れる日は・・・?

いやはや賑やかな映画だ。
大らかなユーモアの中に、大胆なスパイスを効かせた脚本と演出で、フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督はエンターテインメント界に新風を吹き込んだ。
異人種間結婚世界一のフランスで、監督自身もアフリカ系の女性と結婚したという実体験があり、この作品にもその時のエピソードを盛り込んでいる。
フランスでは、市役所の中に結婚式を行うスペースがあり、書類提出と一緒に市長が「祝福」の式を行うことで結婚が完了する習慣がある。
一般的には、カトリックの場合、新郎新婦のどちらかが信者でなければ式を挙げることはできないとされる。

映画のオープニングから、3人の娘たち全員が外国人と結婚したという設定は、ちょっと奇抜だ。
こういう作品を、笑って泣ける作品というのだろう。
登場人物たちの会話の端々に、文化や宗教、見た目をめぐるタブーすれすれのネタが散りばめられており、その底には愛情と笑いがある。
不愉快な気分になるということはなく、むしろ父親同士が本音でぶつかり合ったりして、世界の国際的縮図を眺めているようで楽しい。
まあ、現実の社会はこんなに甘くはないだろう。
設定だって、わざとらしいところがある。
痛快なユーモアセンスも、ことあるごとにフランス人を敵視する花婿の父親の言動も爆笑ものだ。

笑いと涙の異文化バトルが面白い。
敬虔なカトリック教徒の夫妻と、娘が結婚を決めた黒人青年との騒動を描いたフランス映画最高の花婿」は、異文化問題という複雑な側面.にまで踏み込んでいる。
それでも映画はリラックして観られるし、フランスでは1240万人を動員し、世界145カ国に配給された。
少なくとも、5人に1人は観たという国際的なヒット作品だ。
家族、友人、宗教、会社、国家・・・、地球に存在する、大小様々なグループのそれぞれが幸せであるための一番の方法は、それぞれの国の〈違い〉を認め合い、理解し合うことなのだけれど、そこで初めて確かな愛が生まれる。
ヴェルヌイユ家と異人種花婿たちの新しい絆に、強い愛の力(パワー)を感じる。
それは、力強い感動の物語となる。

この作品では、差別と偏見が正面衝突することがコメディとなって笑わせる。
しかし、笑っているうちはまだいい。
そもそも、国籍や民族の違いに、どんな意味があるというのか。だからといって、多民族、多種族がひとつの国に群れ集まったとき、何が起きるか。
それは、必ずしも平和な歴史を刻むことを約束するものではない。
振りかえれば、凄まじい戦争の歴史だからだ。
映画を観て、笑えるうちはいいのだ。
くどいようだが、世界は、そんなに甘くはない。    
       [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点