徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」―粗筋のないモザイク模様の都市の断片―

2014-09-09 11:00:00 | 映画


 大都市ローマの、幹線道路沿いに暮らす人々の日常を点描する、ドキュメンタリーである。
 車から見えない都市の、ひそやかな息づかいが生む叙情は、硬質なものだ。
 カ メラはひたすら観察に徹し、この映画にはナレーションもない。

 ジャンフランコ・ロージ監督は、撮影対象を決めてカメラを回すまで1年半をかけ、半年で撮影したそうだ。
 台本もテーマも用意せず、名もない人々の人生の断章を切り取って見せる。
 映画は脈絡のない詩のようだが、その風景の中に、生活する人々の喜び、怒り、悲しみ、そして夢が見えてくる・・・。
 ここに描かれているのは、‘観光都市’ローマではない。
 ジャンフランコ・ロージ監督は、ときに沿線の住民たちと暮らしながら、カメラを回した。





ヤシの木を食べる害虫を防ぐことを研究する、植物学者がいる。

資産家を装う没落家族がいる。
世間話から高尚な話まで、とりとめなく語り合う老紳士と娘がいる。
環状線を巡回する、救急隊員がいる。
漁業政策に文句をつけながら、ボートでウナギを捕まえる漁師がいる。

これらの映像も、登場人物の間につながりがあるわけではない。
全編を貫くストーリーがあるわけでもない。
それらの間に、道路近くで草をはむ羊の群れや、路側帯で空の写真を撮る修道士などの映像が、ふいに挟み込まれる。
こうしたスクリーンに、戸惑いを感じる。
特別なことは何も起こらないからだ。

そこに人はいるけれど、何故いるかは示されない。
解釈される自由は、観客に委ねられる。
それぞれの場面が、環状線のどのあたりなのか、説明もないしわからない。
他愛のないおしゃべりや独り言の連続に、もどかしさも感じる。
イタリア・フランス合作映画「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」は、登場人物たちのそれぞれの生態は興味深いものもあるが、モザイク的な編集方法や雑駁な構成には疑問と物足りなさが残る。
そもそも、まとまりに欠けた映像をもともと集めた作品なだけに、もっと上手いまとめ方があってよいのではないか。
ドキュメンタリーとしては、従来の映画の文法にとらわれない革新性が、感じられないことはないが・・・。
ヴェネチア国際映画祭では、金獅子賞受賞した作品だ。    
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点