徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「アンナ・カレーニナ」―極寒のロシアの大地に燃え上がる禁断の愛の物語―

2013-03-31 19:00:00 | 映画


 1873年から76年にかけて執筆された、レフ・トルストイの長篇小説が原作だ。
 カレーニンの若き妻アンナと、貴族将校のヴロンスキーの不滅的な恋を主軸に、当時のロシア地主階級の不安と農民生活をリアルに描き出したイギリス映画だ。
 原作は 「戦争と平和」「復活とともに、トルストイ三大傑作といわれる。

 恋愛小説の金字塔といわれる、ロシアの文豪トルストイ不朽の名作を、「プライドと偏見」「つぐない」名匠ジョー・ライト監督が映画化した。
 これまでも幾たびか映画化されたが、ここにまた豪華絢爛なラブストーリーが、斬新な映像とともに現代に甦った。







       
19世紀末ロシア・・・。

政府高官のカレーニン(ジュード・ロウ)の妻アンナ・カレーニナ(キーラ・ナイトレイ)は、サンクトペテルブルグ社交界の花であった。
ある日アンナは、兄オブロンスキー(マシュー・マクファディン)の浮気が原因で壊れかけた、兄夫婦の関係を取り持つためモスクワを訪れ、そこで若き将校ヴロンスキー伯爵(アーロン・テイラー=ジョンソン)と出会った。
二人は、一目で惹かれあった。

兄の妻ドリー(ケリー・マクドナルド)の説得に成功したアンナは、ドリーの妹キティ(アリシア・ヴィキャンデル)に頼まれ、舞踏会に出席することになる。
かねてからヴロンスキーに想いを寄せているキティは、彼からのプロポーズを固く信じており、そのために田舎の地主リョーヴィン(ドーナル・グリソーン)からの求婚も断っていた。
ところが、そのヴロンスキーはもはやアンナしか目に入らず、平常心を保とうとする彼女もまた、燃え上がる情熱を抑えることができなかった。

お互いの思いをぶつけ合うかのように、ヴロンスキーとマズルカを踊ったアンナは、自身の心に言い聞かせるようにモスクワ発の夜行列車に飛び乗る。
平和で安全な家で、夫と息子が彼女を待っている筈だった。
だが、列車が途中停車した駅で、気持ちを鎮めるために外の空気を吸いに出たアンナの前に、何とヴロンスキーが現れたのだった。
・・・アンナは、欺瞞に満ちた社交界や家庭を捨て、ついにヴロンスキーの愛に生きる決意をするのだったが・・・。

アンナの夫は政府への忠誠心が強く、世間体を重んじる彼は、家庭では一見冷やかに見える。
だが、ヴロンスキーはどこまでも自分の気持ちに素直に、自由に生きようとする。
ヴロンスキーは若くて貴公子だし、アンナが彼の虜になり、不倫に走る気持ちが手に取るようにわかる。
19世紀の後半というと、近代化の波が人々の生活に影響を及ぼし、いろいろな問題や矛盾をはらみながら世の中は動いていたし、そうした中で、アンナはあまりに形式的な夫婦生活からの脱却をはかろうと、自ら真の愛を求める女としての生き方が描かれる。

映画は、画面に映る舞台の幕が開いたところから物語が始まり、ジョー・ライト監督はこの作品で、徹底した舞台劇の要素を取り入れている。
冒頭の劇場の舞台でも、それはほかのセットとつながっていて、たとえば競馬場であったり、登場人物が行き来するシーンであったりする。
舞踏会の振り付けは非常に現代的で、カット割りやシーンの転換も、映画というよりは舞台を観ている感じで、臨場感たっぷりだ。
リョービンの田舎のシーンと、アンナの登場する壮大なロケ撮影の現場を見せられると、華麗な虚飾社会と自然と人情に包まれた社会の対比が、作品のテーマを分かりやすくしているようだ。

劇場のセットや舞踏会のシーンといい、豪華絢爛たる夜会服の衣装といい、オスカー受賞の美術というお膳立てには目を見張る想いだ。
それに、比類のない映像の美しさも、文句のつけようがない。
「アンナ・カレーニナ」といえば、これまでもグレタ・ガルボヴィヴィアン・リーソフィー・マルソーといった、錚々たる女優陣が演じ、カトリーヌ・ドヌーをして一度は挑戦してみたかったと言わしめた、世紀のヒロイン“アンナ・カレーニナ”の難役を、今回はキーラ・ナイトレイが素晴しく、圧倒的な演技力と存在感でスクリーンを彩っている。

ジョー・ライト監督イギリス映画「アンナ・カレーニナは、トルストイの大長編を2時間10分で観せるとあって、かなり無理をしたとも思われるが、そこは著名な劇作家トム・ストッパードの脚本に負うところが大きく、的確な描写とともに、原作をよく生かした作品となっている。
まあ、観るだけの価値は十分で、女性の心を魅了する作品かも知れない。
世界中で愛読される傑作小説の世界を、映像の説得力と、しかも今回はわかりやすい現代的な手法で料理した、大型の文芸作品として好感が持てる。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点

  
  * * * * * 追  記 * * * * *  

このほかの鑑賞作品では、「チチを撮りに」「マリア・ブラウンの結婚」の二作を取り上げたい。


日本映画学校出身の新進中野量太監督「チチを撮りに」は、「死にゆく父の顔を写真に撮る」ことを依頼された先で待っていた修羅場で、奮闘する姉妹を通して、家族の絆を描こうとした作品だ。
湿っぽい話をユーモアに包んで、明るいドラマになっている。
映画は母親の心情を丁寧に描いて、作品自体に監督の誠実な人間観察を感じる。
伏線を生かしたラストも悪くはない。
ただ、ドラマに奥行きが乏しく、単調な場面もあって、物足りなさも・・・。(★★★☆☆)





一方、1982年に36歳の若さでこの世を去った、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督「マリア・ブラウンの結婚」(ニュープリント版は、もちろん旧作(1979年)だが、彼の名を一躍世界にとどろかせた最高傑作といわれる。
ベルリン映画祭でも、銀熊賞受賞した作品だ。
第二次大戦でひとり身となったヒロインの女性が、生きるために幾多の男性と関係を結ぶが、やがて精神の異常をきたすという物語だ。
戦後ドイツの、社会学的な考察とともに映像化した作品で、大きいタイトルの「ファスビンダーと美しきヒロインたち」は、ファスビンダー没後30年ということで、「マリア・ブラウンの結婚」は愛を求め、愛に裏切られ、愛を信じた女たちを描いた特集三部作のうちの1本である。
まあ、作品の古めかしさは気になるとして・・・。(★★★☆☆)