徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「星の旅人たち」―生きる歓びと新しい自分との出会いを求めて―

2012-07-27 03:30:00 | 映画


 人は巡礼の旅に出る。
 目ざすは世界遺産のサンティアゴ・デ・コンポステーラで、そこは“星の草原”と呼ばれている。
 エルサレムやローマと並ぶ、キリスト教三大聖地にひとつだ。
 聖地まで800キロメートル・・・。
 何と遠いことか。
 世界から、年間20万人が、この地を目指して巡礼の旅に訪れる。

 それは、未知なる自分自身との邂逅の旅であった。
 人は、人生を選べない。ただ、生きるのみである。
 アメリカ・スペイン合作の、エミリオ・エステヴェス監督によるこの作品は、実の父親を主演に迎え、愛情あふれる家族の物語として祖父に捧げた・・・。






       
カリフォルニア州の眼科医トム・エイブリー(マーティン・シーン)のもとに、突然一人息子ダニエル(エミリオ・エステヴェス)の訃報が届く。

サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の初日に、ピレネー山脈で嵐に巻き込まれ、不慮の死を遂げたというのだ。
ダニエルは、、妻の死後父親とは疎遠になっていた。
ダニエルは何を想い、、旅に出る決意をしたのか。
トムは、その真実を探るべく、亡き息子のバックパックを背に、サンティアゴ・デ・コンポステーラへと旅立つ・・・。

その旅の途中で、旅を共有する見知らぬ巡礼者たちと出逢い、別れを繰り返すが、互いに励まし合い、語り合い、それぞれの宿願を果たすべく、聖地での再会を誓う。
トムの喪失感を埋めるのもまた、旅をともにすることになった初対面の友人たちだ。
オランダ人のヨスト(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニング)はダイエットを、カナダ人のサラ(デボラ・カーラ・アンガー)は禁煙を誓い、アイルランド人のジャック(ジェームズ・ネスビット)は作家としてスランプ脱出を願って、巡礼の旅に出た。
はじめはすんなりとなじめなかったトムも、やがて彼らとの間に芽生える温かな親密感によって、息子を喪った心の痛みを、穏やかに癒やしていくのだった・・・。

トムは、荼毘に付された一人息子の遺灰をリュックに収め、彼が志半ばで断念せざるを得なかった旅を継ぐ決意をする。
60歳を超える老体に鞭うって、、800キロに及ぶ長旅は、決して容易ではない。
そして、ひたすら歩み続ける人生の“道”の果てに、人はいままで知らなかった自分を発見し、さらに進むべき道を見出し、現代生活では決して満たされることのない、確かな魂の充足を感じるのである。

巡礼ときくと、どちらかというと禁欲的なイメージに囚われがちだが、その道のりは、経験しなければ味わえない、至福の旅なのであった。
ドラマの中、トムはヨストと旅の同伴者となるが、道すがらトムが息子の遺灰を巻いていることを知り、それまで陽気だったヨストもさすがに衝撃を受ける場面が印象的だ。
かつて、夫からドメスティックバイオレンスの被害を受けていて、離婚して赤ん坊だった娘を手離したことを打ち明けるサラの言うセリフが効いている。
「世の中、嫌な奴ばかりだ。敢えて敵を作ることはない」
トムの息子は40歳だが、でも彼にとってはそれでも子供(ベイビー)だ。
サラはサラで、自分が重い過去を背負っている。
みんな、誰もがそうなのだ。

映画の最後、800キロの巡礼の旅の終わりで、登場人物たちは、‘変化’するために、何故こんなに壮大な旅に出る必要があったかに気づく。
ひたすら歩き続けるロードムービーであり、このアメリカ・スペイン合作映画「星の旅人たち」は、主人公マーティンエミリオ・エステヴェス監督の共有する感受性へのオマージュなのだ。
静かな瞑想のような、どこまでも心優しい、物語だ。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点