徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ゲーテの恋~君に捧ぐ『若きウェルテルの悩み』~」―現代に蘇る傑作恋愛小説―

2011-11-09 17:45:00 | 映画


     ゲーテは、ドイツの詩人、小説家、哲学者、科学者、政治家、法律家という数多くの肩書きを持つ。
     ゲーテは、そんなに多くの才能に恵まれながら、自らも人を愛し、傷つき、成長していった。
     そのゲーテ若かりし頃の、代表作『若きウェルテルの悩み』を執筆するきっかけとなった、自らの恋愛体験を綴った作品だ。

     ドラマには、爽やかな青春の香りが漂っている。
     ここでは、男はピュアで、女の方がしたたかなのである。
     文豪ゲーテの青春を綴って、フィリップ・シュテルツェル監督の、近頃めずらしいドイツ映画だ
     


     
20世紀の男女は、『若きウェルテルの悩み』を誰でも一度は読んだことだろうし、タイトルを知らない人はまずいない。
時代は変わっても、小説には確かな青春の残影があるし、そこに歓びも悲しみもある。
天才ゲーテの恋愛秘話が、自分の体験をもとに、おおよそ事実にもとづいて書かれた。
1774年に刊行された時、若きシャルロッテへのかなわぬ想いを綴ったこの書簡体小説は、ヨーロッパの大ベストセラーとなった。
この作品を読んで、自殺する若者が一時急増したという、嘘のような本当のような話もある。
そんな社会現象を起こす中で、かの有名なナポレオンが、戦場まで持って行ったという逸話まである傑作だ。

23歳になったばかりのゲーテ(アレクサンダー・フェーリング)は、作家になることを夢見ていた。
しかし、才能は認められず、父親に命じられて、田舎町の裁判所で実習生として働くことになる。
ある日、ゲーテは友人と出かけ、舞踏会で酔った若い女性とぶつかり、服にワインをかけられる。
ゲーテは、何てがさつな女だと思ったが、礼拝堂のミサで歌う、別人のように気高く美しい彼女を見て、たちまち心を奪われる。
その女性こそ、シャルロッテ(ミリアム・シュタイン)だった。
のちに分かるが、シャルロッテはゲーテの文才の最初の発見者となる。

・・・だが、シャルロッテには、父親の決めた結婚話が進んでいた。
大家族を養うために、裕福な相手ケストナー(モーリッツ・ブライトロイ)との婚約を承諾しなければならなかった。
事実を知り、打ちのめされるゲーテ・・・。
さらに、人妻に恋してしまった友人のイェルーザレム(フォルカー・ブルッヒ)の拳銃自殺が、ゲーテを追い詰めるのだった。
だが、絶望の果てにゲーテが握ったのは、拳銃ではなく、ペンであった。
ゲーテは、一心不乱に書き始めた。
それは、ウェルテルと名付けた、自らの分身とシャルロッテとの、胸を締めつけるような恋の物語だった・・・。

・・・あの人が私を愛してから、自分が自分にとって、どれほどの価値のあるものになったことだろう。(ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)・・・

一度は絶望したゲーテに、再び生きる希望を与え、才能を花開かせたもの何だろうか。
ドイツ映画「ゲーテの恋~君に捧ぐ『若きウェルテルの悩み』~」(公式サイト)は、熱く魂に触れるようなゲーテの詩句と、流麗な音楽と映像に乗せ、そこはかとない切なさをにじませるラブストーリーだ。
終盤近く、恋人と婚約者が同席することになる夕食会で、居心地の悪そうなシャルロッテの心の痛みはよく伝わってくるし、ケストナーはそもそもゲーテから求愛のハウツーを教えられていたあたり、間合いの悪さといい、おかしみと切なさのこもった演出が笑わせるシーンもあるのだが・・・。

原作はゲーテの青春そのものであり、映画もそれを忠実に追っている。
甘やかな悲しみとともに、どこか頼りなげなところなど、現代から見れば、何とももどかしい恋の顛末だが、当時は男女が同じ部屋に一緒にいるだけで、スキャンダルとみられる時代であった。
しかし詩人ゲーテは、失われたわが恋を乗り越えて、25歳の時に発表したこの『若きウェルテルの悩み』の成功で、一躍有名作家となった。
その後も、幾たびか愛の遍歴を繰り返すが、長く生きて、晩年に不朽の名作『ファウスト』(1831年)を、着手以来58年にして完成させ、82歳で永眠した・・・。

小説はクラシカルでも、文学作品としても、青春小説としても傑作の誉れが高いものだ。
映画の方はどうかというと、全編とくに波乱(?)らしき波乱もなく、やや単調すぎて、どうも拍子抜けの物足りなさが残る。
詩人ゲーテの苦悩や悲しみが、もっともっと強く描かれてもよかったのではないか。
鋭い突っ込みもないし、上滑りの感は免れない。
ところどころの見せ場に、演出に多少工夫はあるが、浅すぎて不満だ。
それでも、ロケーションの、絵画のように美しい映像の素晴らしさは、特筆ものである。