家族の愛と絆を描く、一応壮大なドラマである。
名匠と称えられる、ジュゼッペ・トルナトーレ監督のイタリア映画だ。
トルナトーレ監督は、自らの故郷を舞台に、自身の生い立ちを重ね、たくましく生きる家族の絆を綴っている。
親子三代の人生を、1930年代から80年代にかけて追った、物語だ。
かなりの駆け足で時空をひた走るのだから、少しばかりか、いや結構忙しい。
20世紀、激動のイタリアで何があったか。
貧しくとも楽しい生活に、第二位世界大戦が襲いかかった。
シチリアの街で生まれ育ったトルナトーレ監督は、27歳の時に、映画の都ローマでの成功を目指して、バゲーリアの街を後にしたのだった。
あまりにもイタリア的な、現代シチリアの時代絵巻が繰り広げられる・・・。
1930年代、イタリア、シチリアの田舎町に、牛飼いの息子として生まれたペッピーノ(フランチェスコ・シャンナ)は、決して裕福ではないが、家族や愉快な街の人々に見守られて、充実した少年時代を送っていた。
チーズ3つと引き換えに農場に出稼ぎに行ったり、教科書をヤギに食べられたりもする、豊かな自然の中で過ごす楽しみ、時たま父親に連れて行かれる映画館で無声映画を観ることは、ペッピーノにとってかけがえのない時間であった。
第二次世界大戦が始まって、アメリカ軍が上陸し、村人は解放感に浸って、喜びに溢れるまでの時代・・・、そんな社会背景は、彼の人間形成に影響を及ぼしていき、終戦直後の混乱期に青年となったペッピーノは、共産党の政治活動に参加するようになった。
貧しい家庭で育ち、地元の地主がいかに冷酷であるかを見て育ったペッピーノは、社会主義こそが、世の中を正義へ導く公平で正当な道だと信じるようになっていたのだ。
やがて、成長したペッピーノは、運命の女性マンニーナ(マルガレット・マデ)に出合い、燃えるような恋に落ちるが、家柄の違いや、ペッピーノの政治活動のせいで、それは引き裂かれてしまうのだった。
しかし、それでもなお愛し合う二人は、許されぬ恋であったが、自分たちの夢に向かって歩き出すのだ。
折しも、世の中は不穏な時代に突入していた。
そんな中で、ペッピーノは、その激動の時代を、変わらぬ愛と絆とともに力強く生き抜こうとするのだった・・・。
家族の愛を受けて、故郷の風がきらめく・・・。
主人公ペッピーノは、監督の父がモデルだそうだ。
イタリア映画「シチリア!シチリア!」は、豊かな自然をふんだんに取り入れた映像美と、日本人にどこか懐かしさを思い起こさせる、当時のイタリアを完全に再現するため、撮影に1年半を費やし、莫大な製作費は言うに及ばず、スタッフ500人を超え、何とエキストラは3万人以上というから、それだけでも一大叙事詩の趣きである。
おなじみの、映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの、叙情的な音楽の素晴らしさが、群衆の叫びにかき消されてしまうのはまことに惜しい気もするが、彼自身もまたトルナトーレ監督の賛美者であることを思うと、全編に流れる映画音楽への思い入れは、うなずけるというものだ。
壮大な群像劇の様相を呈したこの作品は、懐古的でロマンティックな一面と、人間の内在的な世界へ踏み込もうとする芸術性(?)が、渾然と溶け合っている。
作品に描かれる、時空感覚は、かなり騒がしくて慌ただしく、心理的に参ってしまうほどだ。
センセーショナルな場面も多々あり、そのほとばしるほどの奔流に、ややもすれば呑み込まれそうになる。
それだけに、このドラマの畳みかけるようなテンポの絶妙さが、流麗なカメラワークでとらえられるとき、太陽と地中海で灼けた大地の匂いを嗅ぐ思いで、頭がくらくらになる。
少年が突然青年に成長していたり、異なる時代が過去とこの時代とが入れ替わり、時間軸にとらわれない自由な発想の編集になるところが、これも「時間の不在」というものを描き切った、トルナトーレ監督の強い意図によるものだ。
だから、一瞬にして現在と過去が混ざり合い、あるいは過去も未来もなく現在が続く。
作品に、何もかも、沢山のことを詰め込みすぎていて、肝心の焦点が定まらない。
人間賛歌として、実に力強い反面、登場人物のあまりに誇大な騒擾に圧倒され、そのエネルギッシュにいささかグロッキー気味である。
この映画の、唯一の(?)救いであろうか。