徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「マルタのやさしい刺繍」―遅咲きの乙女たち―

2009-08-29 09:00:00 | 映画

新作ではないが、これはまためずらしい、スイスの映画だ。
遅咲きの乙女たちが紡ぎだす、どことなく心あたたまるハートフルストーリーだ。

スイスという国は、多くの公用語があって、映画のヒットしにくい国なのだそうだ。
そのなかにあって、この作品は、同じ年に公開された「ダ・ヴィンチ・コード」「パイレーツ・オブ・カビリアン」を次々と抜いて、観客動員数NO.1に輝くなどの社会現象まで起こした作品だそうだ。
スイスの“グレート・レディ”こと、88歳になるお茶の間の人気女優・シュテファニー・グラーザー主演、新鋭ベティナ・オベルリ監督の作品だ。

スイスの小さな村トループに住む80歳のマルタ(シュテファニー・グラーザー)は、最愛の夫に先立たれて、生きる気力をなくし、意気消沈の毎日をただ何となく過ごしていた。
そんなある日、彼女は、忘れかけていた若かりし頃の夢を想い出すのだ。
その夢とは、自分でデザインして刺繍をした、少しでも華やいだランジェリーの店をオープンさせることだった。

しかし、万事に保守的なこの村では、そんなものは破廉恥だと大騒ぎになり、マルタの夢は、ただ周囲から冷笑され、軽蔑されるだけだった。
それでもマルタは、そんなことにはくじけてはいない。
3人の友だちと一緒に、夢を現実のものとするために動き出すのだ。

スイスの、伝統的な小さな村に、マルタとその仲間たちの夢と希望の輪が広がっていく。
夢に向かって頑張るマルタの刺繍が、人々の心を、やさしく、あたたたかく紡いでゆく・・・。

この作品を彩るのが、スイスの豊かな自然と、可愛い小物たちだ。
物語の舞台は、穴あきチーズで有名なエメンタール地方の小さな村である。
大きな屋根、美しい花々で飾られた小さな窓という、この地方独特の農家が立ち並ぶ、のどかで豊かな牧歌的な風景は、観ているだけでどこかほっとさせて、心を癒してくれる


弱冠33歳のベティナ・オベルリ監督は、この作品で、エメンタール地方に住む自身の祖母の生活からヒントを得て、小さなコミュニティが抱えるいろいろな問題を風刺しながら、心あたたまる作品に仕上げた。
映画は、少々滑稽で大げさな部分もあるが、大して気にはならない。
実際は88歳で、ヒロインのシュテファニー・グラーザーは、意外にもこれが初主演だそうで、老いてなお、そのキュートな演技は穏やかでヒューマン、それでいて存在感もある。
珍しい役者だ。

作品は、ほんわかと、しかしどこか可笑しくて、スクリーンを越えて、老いてますます盛んな、人生の輝きと歓びを教えてくれているようだ。
よみがえる思い出と未来が、ランジェリーに紡がれるマルタの刺繍・・・、夢と希望があれば、人生の晩年も捨てたものじゃない!
遅咲きの乙女たちは、いつまでも健在で、知的なのだ。
女性監督の感性が、細部にまでゆきとどいている。
このドラマでは、男たちは誰もが脇役だ。
おろおろする男たちをよそに、どうしてどうして、乙女たちの、老いてもなお生き生きとしていること!

80歳を超えても、人生はまだこれからだ。
いまから何かをしようとしても、決して、決して遅くはない。
ただし、生きていればの話だが・・・。
ここに登場する、お年寄りたちの、それも女性のエネルギーは大したものだ。
何ら臆することなく、元気一杯、堂々と大らかにいつまでも輝いていて・・・。
夢みるパワーとは、何事もあきらめないで、前向きに生きるココロのようで・・・。