徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「セントアンナの奇跡」―戦争の悲惨と愚かさ―

2009-07-27 06:00:00 | 映画

封印されていた史実が、いまここによみがえる・・・。
二つの大陸、二つの時代を結ぶ、実話から生まれた物語だ。
1944年8月12日、イタリアのトスカーナにあるサンタンナ(アメリカではセントアンナと発音されている)を、反ナチパルチザンの掃討作戦をしていたドイツ軍300名が襲撃、市民600名近くを皆殺しにした。
その多くが、女性や老人、子供であった。
世にいう、セントアンナの大虐殺である。
この事件を中心に、スパイク・リー監督が初めて戦場を舞台とした作品として完成させたアメリカ・イタリア合作映画だ。

ここに描かれる世界は、戦争を支持する者、支持しない者の対立・・・、人の命が奪われることに涙する者たちが、ひとつになる姿だった。
美しいイタリアの自然を背景にして、リアルな戦闘シーンが切なく胸に迫る。
折りしも、今年アメリカ史上初の黒人大統領が、誕生した。
リー監督は、オバマ氏の熱烈な支持者だし、彼はアメリカ社会における黒人の姿を描き続けてきた。
その「CHANGE」するアメリカと共に歩む、スパイク・リー監督の新たな挑戦を、この作品に見ることができる。
この物語は、そんな黒人部隊を描いた戦争映画だ。

・・・1982年、ニューヨークの郵便局員(黒人)が、窓口でいきなり客を射殺する。
犯人は第二次大戦の英雄で、自宅に、ある彫像を大切に隠し持っていた。
一体、何があったのか。
その謎を解く鍵は、1944年のトスカーナにあった。

ここから、スクリーンは長い回想シーンに入っていき、一気に激しい戦闘の場面となる。
延々と続く交戦シーンは、迫力満点だ。
白人士官の理不尽な命令や、リー監督が得意とする人種差別問題が描かれる。

本隊とはぐれた4人の黒人兵士は、途中で助けた少年と、小さな村へ入った。
戦士たちは、まさか言葉の通じない土地で、人種の壁を越え、村人たちと強い絆で結ばれるとは知らずに・・・。
そして、その絆が、彼らの運命を大きく変えるとは、思いもよらぬことであった。
やがて、セントアンナの大虐殺、パルチザンなどが絡んできて、ドラマは、それからどんどん待ったなしの複雑な盛り上がりと展開を見せていく。

二つの大陸、二つの時代を結ぶのは、敵や見方、人種や言葉を越えて、一人の少年を救おうとした人々が生んだ‘奇跡’でもあった。
長い回想シーンから、現代アメリカに戻るシーンは、混迷を極める今日でもなお、‘人間の絆’に限りない開放と希望を感じさせて、胸を打つ。

郵便局殺人事件、1944年フィレンツェで消えた女神像、謎が明らかにされるこれらの重要な伏線は、一人の少年アンジェロにあったのだ。
・・・そして、1983年のアメリカ、この物語の最後に、あらたな‘奇跡’が起きようとしていた・・・。

登場する大勢の黒人兵は、一体誰が誰だか見分けもつかないくらいだ。
大虐殺の行われた、トスカーナの村のシーンでは宗教論までとび出して、やたらと長い。
村人たちの平和な暮らし、黒人兵士たちとの交流などあれもこれもで、挿話としては大事な部分なのだが、シナリオをもう少しすっきりと推敲できなかったのか。
この部分だけ切り取っても、立派な一編の映画になる。
物語には、ファンタジックな要素も盛り込まれているが、スパイクリー監督のメッセージは十分に伝わってくる。

一般公募で5000人の中から選ばれた、少年アンジェロを演じる子役マッテオ・シャボルディは、役にぴったりで素晴らしかった。
出演はほかに、デレク・ルーク、オマー・ベンソン・ミラー、マイケル・イーリーら著名ではない俳優陣が多い中で、戦場の村に住む女性を演じるイタリアの女優ヴァレンティナ・チェルヴィ、その父親役のオメロ・アントヌッティの存在感が際だっていた。
力作だが、上映時間163分はいかにも長いか。
それでも、アメリカ・イタリア合作、スパイク・リー監督のこの映画「セントアンナの奇跡は、大いに見応えのある、インパクトの強い感動作だ。
ハリウッド戦争映画の、集大成的な作品だ。

この映画のタイトルバックに、作品のイメージを集約しているかのように、黒い画面に浮かんだ小さな白い十字架が、赤(血の色)に染まるのが見える。
この十字架が、死者の眠る墓地のイメージとも、鎮魂の象徴のようにも見え、そのシンプルさが生と死を暗示していて印象的だ・・・。