徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ハゲタカ」―近未来を暗示するのか―

2009-06-11 05:00:00 | 映画

ハゲタカとは、コンドルやイヌワシの俗称で、転じて、瀕死の企業を買収し、高い利益を上げる投資ファンドの総称として用いられている。
要するに、カネの力にまかせて、弱者を飲み込むアレだ・・・。

2007年に、NHKで放送された同名のドラマは、‘失われた10年’と言われた、バブル崩壊後の日本が舞台だった。
それは、きわめて斬新で、ついこの前にも再放送されたけれど、その画面に食い入るように釘付けになった。

時を同じくして、世界の経済が未曾有の危機を迎える。
まさに、このドラマに呼応するかのように・・・。
この映画は、いわばそのテレビドラマのパートⅡで、その出来は思った以上で、素晴らしいの一言につきる。
実力派キャストをしたがえ、テレビドラマを演出した大友啓史監督が、極限の人間ドラマに仕上げた。

こんな日本に誰がしたのか。
何のために働くのか。
何のために戦うのか。
混迷と不安の時代・・・、日本人が見失いかけた答えが、ここにあるかも知れない。
現実社会で起きている、金融危機問題を盛り込んで、その巧みな構成には今回も釘付けになった。

企業買収ビジネスは、企業の再生を意味するものでなくてはならない。
「ハゲタカ」は、企業再生というビジョンを通して、登場人物たちの“心の再生”を描く。
単なる経済ドラマの枠に収まるものではない。
人間の再生と救済(?)の物語として、胸にずしんと来る感動作だ。

この作品を観るのに、とくに新しい金融や経済の知識なんて必要はない。
そんなものは解らなくても、ぐいぐい引き込まれていく。
真山仁の原作を得て、林宏司の脚本が冴える。

日本を代表する、ある自動車会社の落日が近い。
巨額資本を背景に、その乗っ取りをたくらむのは、赤いハゲタカ劉一華(玉山鉄二)だ。
それを、阻止しようと立ち上がる鷲津政彦(大森南朋)・・・。
この両者の凄まじい攻防に、派遣工の悲哀をからめて、単なるヒーローものとは一味も二味も違ったドラマになっている。
世界の、暗澹たる近未来を暗示しているような、展開だ。

野望、裏切り、挫折、そして希望・・・。
人間の背負った業や哀しみを描きつつ、映画「ハゲタカ」ワールドはさらなるクライマックスへとのぼりつめていくのだ。
激しい買収決戦の果てに、彼らの見たものは何だったのか。

出演者は、他に柴田恭平、中尾彬、遠藤憲一らの豪華陣だ。
「ハゲタカ」とともに、日本の経済を見つめなおす好機だろう。
ドラマは、どこまでも重厚で、リアルだ。
スクリーンに映らない部分まで、徹底したリサーチを重ねて、作品のリアリティを追求している。
物語の主役の一人である劉を、もう一段骨太の人物に描いてもよかったかも知れない。
シャープな存在感が光る。
伏線は、やや難解だが、いくつも絡み合う展開の中で、NHKの大友監督の腕は冴えている。
実にうまくまとめあげている。
この人、来年の大河ドラマ「龍馬伝」も演出する、NHKのエースだ。

救世主なのか。破壊者なのか。
ドラマの中で、火花を散らす男たち・・・。
劉と鷲津が向かい合うシーン・・・。
短いが、印象的なセリフだ。
 「お前は、誰なんだ?」
 「俺は、あんただ」
・・・そして、ふたりの勝負は・・・?

大友啓史監督映画「ハゲタカのラストシーン、鷲津がひとり荒涼とした大地に立つ。
その先に見えたものは、何だったのだろうか。
これから、一体何が起きようとしているのだろうか。