徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

風変わりな「和紙夢絵展」ー鎌倉芸術館にてー

2007-11-30 07:00:00 | 日々彷徨

朝から、冷たい木枯らしが舗道の枯葉を舞い上げている。
雨かと思ったが、頬に当たったのは、白い雪片のようであった。
鎌倉芸術館一階のギャラリーで、一風変った「和紙夢絵展」なる個展が開かれていたので、立ち寄ってみた。

手漉きの和紙に、顔料で写真をプリントした、絵とも写真とも異なる独自のアートなのである。
それを、「夢絵」と呼んでいるのだ。
この「夢絵」作家は、何と驚くなかれ、地球の四周分十六万キロを、たったの一人で行脚したと言う、久楽迎古゛(くらーく・げーぶる)氏だ。

会ってみると、久楽氏は、京都出身の66歳、気さくなロマンスグレーの好紳士だった。
お名前からして、大変ユニークなこの人、世界を股にかけて、自らの瞳に焼きついた、自然と人間の圧倒的な瞬間を撮り続けて、その「美」を和紙に再現するという、前人未到の試みを実現したのだった。
久楽氏が、試行錯誤を繰り返しながら創り上げた、どこにもない極上の芸術作品であることがうかがえる。

世界の雄大な自然、愛しい生き物たちの風景、安らぎの山河・・・。
そこには、人間の忘れかけた原風景がある。
新しいジャンルの、癒しの芸術がここに誕生した。
それが、「和紙夢絵展」だ。

「印象派モネを思わせる」と話題になり、ボストン総領事館に飾られた代表作『森の妖精』を、新たに『畳サイズ』に創作、新作小品『地球のかおり』など約40点が、ここに展示されている。

機械や薬品を使用しない、古式方式で処理した寒漉きの純楮和紙、その和紙を得るために、何年も時間とお金をかけて確保し、備蓄した。
現在所蔵している和紙だけ、夢絵創作が可能だそうだ。
京都黒谷の職人に依頼して、漉き舟を使う古いやり方で、一枚一枚漉いてもらって、美しく染まる、不純物のない、冬に漉かれた寒漉和紙だけを使って、「夢絵」を制作する。
そこに、作家の心の景色が、そのまま写しこまれている。
作品のひとつひとつが、愛おしく、幽邃な、癒しの感動を与えてくれる。

北鎌倉の円覚寺に仕事場を持って、常にこころの原風景を求めてやまない久楽氏の作品群は、彼が、その身ひとつで体感した、生生しい「地球のかおり」そのものである。
そこに写し出された時間と空間は、異次元のようなきらめきを放っているのだった。

芸術家への夢挑戦を始めて14年、忘れかけていたもの、心の豊かさを求めて、松尾芭蕉の「おくのほそ道」を脳裏に描き、・・・以来訪ね歩いた国は三十余国となった。
久楽迎古゛さんは、私にこう言った。
 「夢は創られるものではありません。夢は咲かせるものなのです。」

古来、自然と言えば、日本では「花鳥風月」である。
花は視覚、鳥は聴覚、風は触覚と嗅覚、月は視覚と心で受けとめる。
自分探しの旅とも思える、地球行脚で彼の見出したものが、作者渾身の「夢絵」に凝縮されているようだ。
日本の伝統文化である和紙に、和魂の芸術を託して、異彩を放つ夢絵の世界の登場をみたことは、いささか驚きでもあった。

会場には、他に世界の旅日記や多くのスナップ、資料なども展示され、閲覧することも出来る。
プライベートブランドの、日本酒「久楽酒」まで置いてあるのには、おもわず苦笑した・・・。
久楽氏は、会期中、来館者の質問にも気軽に応じてくれている。
鎌倉芸術館で、12月4日(火)まで、午前10時から午後8時まで開催中。
( 最終日のみ午後4時まで。 入場無料。 後援/鎌倉市教育委員会 )