山の記憶 (百名山・二百名山・三百名山)

山スキー、その他の山行もあります。

 百名山の記録(その3) 宮之浦岳(2007年)

2014年08月23日 | 日本百名山

2007年3月28日 屋久島から開聞岳へ

  4時30分 新高塚小屋をスタート。星空が見える。予報通り良い天気となりそうだ。昨日確認しておいた道を行く。ヘッドランプの明かりを頼りにしばらく行くと、暗がりの中に光るものを見る。ライトの明かりかと思ったら、何とシカの目玉だった。夜、動物の目が光るのは知っていたが、突然のことでなのでビックリする。シカも驚いたらしく何処かに行ってしまった。明るくなってきた頃、平石岩屋というところに出、間もなく日の出を迎える。
  時計は、6時を少し回っていた。雲の中から、太陽が顔を出す様は雄大そのものだ。雲がなければどんな日の出だったのだろう。新高塚小屋から宮之浦岳繋がる道は、宮之浦岳歩道と呼ばれ、ほぼ尾根筋の見晴らしのよいコースだ。暗闇の中、ひたすら登ってきたのでそれまで何も見えなかったが、いよいよ宮之浦岳らしきピークや永田岳の岩峰が現れはじめた。歩道には、薄い氷が張り足もとが危うい。昨夜はかなりの冷え込みがあったようだ。屋久島が亜熱帯から亜寒帯までの気候を持つことを、身をもって体験させられた。 永田岳を右に見ながらヤクザサの中の道を進むと、分かれに出る。焼野三叉路というそうな。ここで荷物を降ろし、空身で永田岳へ。
                                                                

   ヤクザサの中の道は、水による浸食が進んで歩きづらい。頭上に見上げる岩の上には、すでに数名の登山者が休んでいる。白っぽい岩肌が、青空をバックに美しく、早く、早くと気がせかされる。息を継ぎながらやっとの思いで大岩の上に立つ。 7時50分であった。風は強いが、快晴そのもの。眼下に、永田港であろうか、集落が見え、その向こうは、果てしなく広がる青い海だ。月に35日も雨が降るといわれる屋久島で、こんなに素晴らしい天気に恵まれたことは運が良いとしかいいようがない。ただ感謝。 
 
 頂上での憩いを終え、下山にかかる。しばらく下りた辺りで、窪みを飛び越えて着地した瞬間、足首が「グギッ」と鳴った。しまったと思ったが、その時はもう遅い。あまりの痛さにその場にしゃがみ込んでしまった。痛みが遠ざかるのを待ちながら、足がどうかなってしまったのではないかという不安に襲われた。しばらくの後、恐る恐る足を動かしてみる。骨折はなさそうだが、足首が痛む。ストックで何とか立ち上がるが歩くのはどうだろうか。軽く左足に体重をかけてみる。ゆっくりなら何とか歩けそうだ。
 焼野三叉路まで帰り着き一安心。ゆっくりなら何とか歩くことはできそうだ。一歩一歩と宮之浦岳を目指す。9時20分頂上着。

   先ほど登った永田岳は目の前だが、そちら方向の海は見えない。反対方向に遠く開聞岳が見えると、後から来たパーティーのガイドらしき人が説明しておられたが、目の悪い私にはボヤッとかすんだ島影らしきものを認めたに過ぎない。こんなに天気が良いのも珍しいとのこと。痛い足を引きずりながら花之江河を目指す。気温も上がってきたらしく、凍っていた登山道に水が流れはじめる。
 基盤が花崗岩だから、降った雨はそのまま流れ下り、ある沢では滝となって飛沫を飛ばし、ある沢では河岸を大きく浸食し、青く澄んだ流れはついには大海原へと流れ込むのだろう。名山、名瀑の島、屋久島といったところか。
 宮之浦岳1935mから、栗生岳1867m、翁岳1860m、安房岳1860m、投石岳1830m、そして黒味岳1832mと続く1800m級の山々を登ったり、巻いたりしながら11時50分花之江河に到着する。足の方は思ったほど傷んではないらしく、なんとか歩くことができた。

 
  花之江河とは、変わった名前だと思っていたが、こじんまりとした湿地帯だ。黒味岳を背景に絵はがきのような風景を形ちづくるこの楽園は、シャクナゲの咲く頃に華麗に美しい姿を見せてくれるに違いない。
 木道の上でお茶を沸かす。小屋を出てから、食べ物らしきものを口にしていないのでここで休憩とする。シカの親子がこちらの様子をうかがいながら草を食べていた。のんびりとした午後の一時を過ごした後、淀川小屋に向け出発する。尾根歩きから、原生林の林の中を歩くことになる。13時40分、淀川小屋に着く。足が痛む。淀川小屋も無人小屋だが、宿泊者のザックが幾つか置かれていた。
 
     最後の一頑張りで、ついに車道に出る。淀川小屋登山口だ。時計は14時30分。しかし、バス停まではもうしばらくの歩きだ。これでもう歩くのは終わりと張り切って下ると、何ということだろう、すぐ目の前をバスが発車して行ってしまった。もう数分早かったら間に合ったのにと後悔する。次の駐車場まで歩くが、観光客を乗せた貸し切りバスばかりで乗せてもらえそうにない。仕方なく、近くに止まっていた予約済みタクシーの運転手に、タクシーを一台呼んでもらうことにする。
 ここの駐車場前には、紀元杉の巨木があり、それを見物するために多くの観光客がやってくる。年を経た古木の例に漏れず、その体には何種類かの異なる木々を根付かせている。何やら、「八岐大蛇」を連想させる。見物客にお年寄りが多いのは、バスを降りてからほとんど歩く必要がないからだろう。
 ガイドの説明を聞き、ぐるりと巨木の周りを巡り、記念写真を撮っては帰っていく。そんな、光景を見るとはなしに見、ガイドの話を聞くとはなしに聞きながら車を待った。
 しばらく待たされたが、タクシーが来た。案内慣れした運転手さんに宿泊所をきめてもらい、屋久島の自然や歴史のお話を聞きながらお宿に直行。途中、猿の親子を見る。本土のサルに比べるとちょっと小柄で、おとなしい。これは、観光客がエサを与えないからだと運転手さんのは言う。なるほどと思った。
 

     この日は、安房の民宿「杉の子」に泊まる。したたかに地酒の焼酎を飲み眠り、翌29日、宮之浦港より鹿児島港へ帰る。
 屋久島では、結局3泊したことになるのだがさすが世界遺産登録の島のことだけあって気持ちのよい山旅ができた。もしまた訪れる機会があればその時は花の時期だろうか。
 駐車場の支払いを済ませ、一路開聞岳を目指す。夕方遅く、開聞岳登山口の駐車場に到着。車中泊とする。

                                                              (その3)

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