◆谷口與鹿 黄鶴
唐代の詩人崔こう□(こうは、活字なし)の詩で名高い黄鶴楼は、中国武漢、揚子江傍らの丘の上に立つ五層の高楼である。
谷口與鹿は、橋本香坡に語る。
この黄鶴楼にちなむ黄鶴というのは飛騨の工がつくった木造の鶴だったという。まだ、黄鶴楼もなかったこの地でひとり茶店をひらいている老婆があった。あまりはやらない店であった。この店に立ち寄ったひとりの男がいた。暑い日で、どれひとやすみと酒を所望したのだが、つい度をすごして酒手の支払いができなくなってしまった。
無いものは仕方がない。男は連れていた黄色の妙な鶴をあずけてまた旅立った。
ところがこの鶴は、まれに客がきて酒を飲みついいい機嫌なった歌を歌うと、出てきて歌にあわせて舞うのである。これが評判になって、酒を飲みに来る客で店は大繁盛になった。おかげで老婆はすっかり裕福になった。
十年もたったころ、いつぞやの男がまた立ち寄った。「酒を飲ませてくれるかい」
この男を覚えていた老婆はたいへんよろこんで、一部始終を話して聞かせ「もうお勘定は十分に足りています」といってふくたらふく酒をもてなしたのだった。
いい機嫌になった男は黄色い鶴をよぶと、これに乗っていずこかへ飛び立ったのだった。この地に黄鶴楼が建てれ、ここを訪れた崔□(こう)は「黄鶴楼」を詩によんだ。
昔人己乗黄鶴去
此地空余黄鶴楼
黄鶴一去不復返
白雲千載空悠々
晴川歴々漢陽樹
芳草萋々鸚鵡洲
日暮郷関何処是
煙波江上使人愁
ところで、黄鶴に乗って去った男は、ついに飛騨には帰らず、黄鶴だけが戻ってきた。長旅の疲れからか数日まったく動こうとせず、ついにまったく動きが止まってしまった。これを惜しんだひとたちは、鶴の冥福を祈って高山市内の国分寺に碑をたてたのだった。この男は飛騨の工で、のち木鶴明神として祀られた。列仙伝の費長房は飛騨の工だといいつたえている。
唐代の詩人崔こう□(こうは、活字なし)の詩で名高い黄鶴楼は、中国武漢、揚子江傍らの丘の上に立つ五層の高楼である。
谷口與鹿は、橋本香坡に語る。
この黄鶴楼にちなむ黄鶴というのは飛騨の工がつくった木造の鶴だったという。まだ、黄鶴楼もなかったこの地でひとり茶店をひらいている老婆があった。あまりはやらない店であった。この店に立ち寄ったひとりの男がいた。暑い日で、どれひとやすみと酒を所望したのだが、つい度をすごして酒手の支払いができなくなってしまった。
無いものは仕方がない。男は連れていた黄色の妙な鶴をあずけてまた旅立った。
ところがこの鶴は、まれに客がきて酒を飲みついいい機嫌なった歌を歌うと、出てきて歌にあわせて舞うのである。これが評判になって、酒を飲みに来る客で店は大繁盛になった。おかげで老婆はすっかり裕福になった。
十年もたったころ、いつぞやの男がまた立ち寄った。「酒を飲ませてくれるかい」
この男を覚えていた老婆はたいへんよろこんで、一部始終を話して聞かせ「もうお勘定は十分に足りています」といってふくたらふく酒をもてなしたのだった。
いい機嫌になった男は黄色い鶴をよぶと、これに乗っていずこかへ飛び立ったのだった。この地に黄鶴楼が建てれ、ここを訪れた崔□(こう)は「黄鶴楼」を詩によんだ。
昔人己乗黄鶴去
此地空余黄鶴楼
黄鶴一去不復返
白雲千載空悠々
晴川歴々漢陽樹
芳草萋々鸚鵡洲
日暮郷関何処是
煙波江上使人愁
ところで、黄鶴に乗って去った男は、ついに飛騨には帰らず、黄鶴だけが戻ってきた。長旅の疲れからか数日まったく動こうとせず、ついにまったく動きが止まってしまった。これを惜しんだひとたちは、鶴の冥福を祈って高山市内の国分寺に碑をたてたのだった。この男は飛騨の工で、のち木鶴明神として祀られた。列仙伝の費長房は飛騨の工だといいつたえている。