02976 千鹿頭神社の御柱祭
長野県松本市
千鹿頭神社
□祭
四本の御柱を立てる。
□汎論
千鹿頭神社は不思議な神社である。松本市の東部にある千鹿頭山の山頂には千鹿頭神社が二社あり、諏訪神社と同じように御柱祭が斉行される。
もともと山頂に一社だった千鹿頭神社が、二社あるのは、かって千鹿頭山が、諏訪の高島藩領と、松本藩領の境になっていたからだという。一応、もっともな説明だが疑問が残る。
その一は、なぜ二社立てる必要があったか? ということである。
長野県辰野町と塩尻市の境に信州二ノ宮である小野神社がある。かってその領有権をめぐって争いがあり、境内を分割してもう一社、矢彦神社をたてそれぞれの主張を解決した例がある。
だが、千鹿頭神社をなぜ二社にしたか? という疑問と前例は事情が異なるようである。推測になるが、神社の性格と、諏訪の高島藩と、松本藩の意思が表れているのではないか?
千鹿頭神は藩の領有権を守る神社としての性格が強く、単に民間の鎮守だったとは言いきれない事情が覗われる。
二つめ、チカツ、チカトの名のつく神社の分布は
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
神奈川県
山梨県
長野県
静岡県
とほぼ、東北南部、関東の西および南部、甲信にみられ、このほか、
滋賀県
兵庫県
福岡県
熊本県
宮崎県
鹿児島
など近畿、九州の一部にみられる。日本全域からみると著しく偏っている。さらに、東北、関東、甲信のチカツ神社の分布は道祖神・庚申の分布にほぼ重なる。
これは同地域において境界を守る神としての性格があったのではないか?
道祖神はムラの入口に祀り、庚申はムラの出口に祀るという地方がある。道祖神は塞の神とも言われるが、「サヘ(サエ)」の神でもある。
三つめに、チカツ神社の祭神はきわめて多様である。
興玉命
天児屋根命
彦火瓊瓊杵尊
味耜高彦根命
事勝国勝長狭命
埴山姫
大物主
面足命
大山祇命
少彦名命
筒胡別命
木花咲耶姫
手力男命
猿田彦命
二荒山神
猿田彦命
経津主神
大己貴命
速玉男命
千賀戸姫
天児屋根命
などで、このほかにもあるが、かなり多様である。これは何を意味しているのか?
おそらく、大和朝廷成立以前に完成した氏族の古代神があり、大山祇、木花咲耶姫などとおなじようにのちに神代巻に一致させるため、祭神を変更したということであろう。
したがって、塩竃神社や、琴平神社とおなじように、延喜式神名帳に記載がなくても、式外社として存在した古代信仰の名残をもつ神社であろうと推測する。
古来、領主や藩主に、義親、長近など「チカ」の名をつけた例が多く見られるのも、領地の支配者、領有権の標榜とも考えられそうである。