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カクレマショウ

やっぴBLOG

「阪急電車 片道15分の奇跡」─それは「奇跡」だろうか。

2011-08-29 | ■映画
2011年/日本/119分
【監督】三宅喜重
【原作】有川浩 『阪急電車』(幻冬舎刊)
【脚本】岡田惠和
【出演】中谷美紀/高瀬翔子  戸田恵梨香/森岡ミサ  南果歩/伊藤康江  谷村美月/権田原美帆  勝地涼/小坂圭一  宮本信子/萩原時江
(C) 2011 映画「阪急電車」製作委員会
Aug.2011,@青森松竹アムゼ
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原作者の有村浩(ひろ)って、わざと男みたいなペンネームにしたらしいのですが、私もてっきり男だとばかり思っていました。この本読んでいる途中で、あれもしかして女性かなと気付いたしだいで。文庫本の帯に、映画の宣伝で中谷美紀とか戸田恵梨香の写真がばっちり載っているので、もう完全に「翔子=中谷美紀」で読んでしまいました。これって、純粋なる読書活動の妨げですよね。イメージ先行しちゃって。ま、もちろん、映画を見れば中谷美紀が適役だってことは否定できないのですが。

阪急電車。まずこの響きがいい。「阪急線」とか「阪急電鉄」ではなくて、「阪急電車」。それから、あの「えんじ色」というのか「あずき色」というのか、正式には「マルーン色」というそうなのですが、あの色がいい。この映画に出てくる「今津線」ではなかったのですが、私も何度か阪急電車に乗ったことがあります。宝塚市立手塚治虫記念館に行った時、関西大学で何かの大会があった時…。関西大学(この映画に出てくるのは「関西学院大学)です)に行った時は、大学の最寄り駅とは思えないほど駅が質素でこじんまりしているのに驚いて、思わず写真を撮ったくらいでした。

宝塚と西宮北口(正確にはその先の今津まで)を結ぶのが、阪急電鉄今津線。この映画は、原作と同じように、ある秋の日に宝塚駅を出発した阪急電車が、西宮北口に着くまでの15分間が舞台で、途中6駅で乗り降りする乗客が主人公です。いったん西宮北口に着いて、「折り返し」の宝塚駅までの再びの6駅については、約半年後の春のとある日という設定。

…きわめて日常です。あまりにも日常の光景。

でも、「日常」っていったい何だろう? 外からこうやって駅や車内の景色を切り取ってみれば、確かにいつもと変わらない「日常」がそこにある。いつものように電車は時間通りに走ってて、その電車に乗っていつものように会社や学校に向かう人たちがいる。

でも、電車に乗り降りする人々は、毎日違っている。うきうきした気分の日もあれば、会社に行きたくないと憂鬱な気分の日もあるでしょう。一人で乗るときもあれば、恋人同士で乗る時もある。個人個人の内面をちょっと覗いてみたら「日常」でも何でもなく、日々激しく違っているのかもしれない。この映画は、そんな日常っぽいけど、日常じゃない世界を覗かせてくれます。映画に取り上げるのは、ここに登場する何組か、何人かでなくてもいいのです。別の人たちを選んでも、それなりに電車の中のストーリーならいくらでもつくれる。

だけど、同僚に婚約者を寝取られた翔子(中谷美紀)が、純白のロングドレスを着て(髪にはティアラまでつけて)二人の結婚式に参列した帰り、という光景は、あまりにも日常を超えていますね。そもそも、あんな格好で普通は電車に乗らないし。その異質感が、まず観客をスクリーンに釘付けにする。そして、この映画のもう一人の主役ともいえる、時江(宮本信子)の登場。伊丹十三の妻として彼の映画で、チャーミングで溌剌とした演技を見せてくれた宮本信子も、いつのまにかこういう老け役をやるような年になったのだなあ。いや、チャーミングなところは、この「時江」役でもそのまま生きています。チャーミングで、それでいて、強い女性。孫娘に向かって、「自分で涙を止められる女になりなさい」なんてセリフ(原作にはなかった…と思う)、さまになるのは、この人くらいですね。



圭一(勝地涼)&ゴンちゃん(谷村美月)のほのぼのカップルはご愛敬としても、南果歩演ずる「伊藤さん」もいい感じです。

みんな少しずつ「無理」しているのですね。少しくらいの無理だから大丈夫だなんて思っていると、それが積もり重なって、いつしか背負いきれないほどの重さになってしまうから。適当なところで下ろしていかないと大変なことになる。それに気付かせてくれるのは、いつも一緒にいる人、ではないのかもしれませんね。電車の中でふと気になった人、なのかもしれない。

ここでもやっぱり「プランド・ハプンスタンス」がありました。確かにそれは「偶然の出会い」かもしれない。1本電車を遅らせたら出会えなかった人だから。ことによったら本当に「奇跡」なのかもしれない。でも、それは決して偶然ではなく、出会うべくして出会った人たちなのだと信じたい。出会いを呼び込む力をみんな持っていたのです。

これも「偶然」にも同じ「翔子ちゃん」だった女の子との出会いにも、なんだかひどく考えさせられました。翔子は、この子に「ちゃんとかっこいいなと思って見てくれる人がいるから」としびれることを言う。この子は、そんなことを言ってくれる「お姉さん」との出会いがなかったら、あんな吹っ切れたような笑顔は見せることはなかったでしょう。明日も明後日も、つらい思いで学校に通っていたのかもしれない。出会いが必要なのは、大人だけではないのです。子どもたちにとっても、自分をちゃんと見てくれる人、がいなくちゃいけない。それは一生にたった一人、でもいい。彼女は、きっと、いつか同じような言葉を誰かにかけてあげることでしょう。「私はあなたをちゃんと見ているよ」と。

人との出会いは、決して「奇跡」なんかじゃない。


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2 コメント

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Unknown (23)
2011-08-31 00:48:45
有川さんは「図書館戦争」が有名でライトノベル作家のイメージが強いんですが、「阪急電車」「フリーター、家を買う」など実写するような作品もあって素敵な作家さんですね。

私は「レインツリーの国」しか読んだことないので彼女の作品たくさん読もうかなぁ。
まずは「県庁おもてなし課」あたりから笑
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Unknown (やっぴ)
2011-09-01 23:41:19
23さん

「図書館戦争」ね。一時本屋で平積みされてましたが、その当時は全然興味が湧かなくて。「自衛隊三部作」もしかり。

最近の「植物図鑑」と「県庁」は、読んでみたいと思っているんだけどね!

ちょっと気になる作家ではあります。
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