
RUOKALA LOKKI
2005年/日本/102分
【監督・脚本】荻上直子
【原作】群ようこ『かもめ食堂』(幻冬舎刊)
【出演】小林聡美/サチエ 片桐はいり/ミドリ もたいまさこ/マサコ
**********************************************
「作られた笑顔」ってのは、この歳になってくるとだいたい見抜けるようになってくるものです。あ、この人、心では笑ってないな…ってね。
そこいくと、小林聡美演ずる「かもめ食堂」のオーナー、サチエの笑顔は正真正銘のホンモノの笑顔ですね。ラストシーンで、「いらっしゃい」という言い方の三者三様ぶりが披露される場面がありますが、この映画で何度も出てくるサチエの「いらっしゃい」&笑顔は最高にいい。レストランの外に立つ人に対して向けられるガラス越しの笑顔も含め。
フィンランド語で、"ruokala"はレストラン、"lokki"はかもめということで、「かもめ食堂」です。サチエ(推定年齢35歳??)がなぜフィンランドのヘルシンキで日本食の「食堂」を開くに至ったのかについては、年齢同様推定するしかありません。サチエだけでなく、ひょんな出会いからかもめ食堂を手伝うことになるミドリもマサコも、日本で何をしていたのかは、そう多くは語られない。というより、彼女たちの「過去」なんてどうでもいいのですね、この映画では。
フィンランドといえば、OECDのPISA(生徒の学習到達度調査)で常に上位を占め、独特の「フィンランドメソッド」が注目を浴びる教育の国。また、「森と湖の国」と呼ばれる豊かな自然に抱かれた生活は、ロハス、スローフード好みの日本人にとっては憧れの国の一つでもありましょう。
かもめ食堂は、そんなフィンランドという国にある。なんでフィンランドなのー? なんで日本じゃだめなの? そういう愚問もこの際置いときましょう。フィンランドに「日本のソウルフード」おにぎりをメインメニューとする「食堂」がある。経営するのは、一切のしがらみを海の向こうに置いてきたのであろう、一人の日本人女性。「したくないことはしないだけ」とひょうひょうと語る姿がたまらなく格好いい日本人女性。それだけで十分、の映画だと思います。
確かに映画の作りとしては、ちょっと盛り込みすぎじゃないすか!と感じるシーンもいくつか見られて、鼻につく部分もなきにしもあらず(たぶんそれは私が男だからかもしれません)。でも、まあ、小林聡美自身には全然肩の力が入っていないから許せるかという気持ちにもなります。
ほとんど客が来ないのに、毎日一生懸命グラスや食器を磨き、テーブルを何度も拭く。「第1号」の客となった日本オタクの青年(最初のシーンではニャロメのプリントTシャツを着用。えらい。)には、コーヒーを「永遠に」タダにしちゃう。来る者は拒まず、去る者は追わず。必要以上に他人をうらやんだり、憎んだりはしない。さりとて、決して人が嫌いなわけではなく、おいしいものを食べて人が笑顔になるのを見るのが大好き…。そんなナチュラルな姿勢は、いつのまにかたくさんの人を彼女の周りに引き寄せてしまう。
ある中年男が、いきなり彼女においしいコーヒーの入れ方を伝授する場面が面白い。秘訣は、「コピ・ルアック」というまじないをかけるだけだという。自分で淹れたコーヒーよりも、誰かが淹れてくれたコーヒーのほうがおいしい、というのは、そこに「心」がこもっているからなのでしょうが、そこにもう一押しの「思い」をプラスするだけで、よりおいしく「感じられる」ということ。確かに、コーヒーでもおにぎりでも何でも、料理の味って、「味覚」だけじゃない。そこには、いろんな「フィルター」がかかっているのですね。目に見えないフィルターが。それはもちろん、国の違いや言葉の違いも乗り越えるもの。
フィンランドで「起業」したサチエは、趣味の合気道と同じように、変に「構える」ところがない。だからこそ、「成功」したのです。それはヘルシンキでも東京でも青森でも同じこと。これからも彼女は、カモメ食堂を舞台に、きっとたくさんの人を招き寄せ、人と人とをつないでいくことでしょう。
淡々と、心地のいい映画でした。
2005年/日本/102分
【監督・脚本】荻上直子
【原作】群ようこ『かもめ食堂』(幻冬舎刊)
【出演】小林聡美/サチエ 片桐はいり/ミドリ もたいまさこ/マサコ
**********************************************
「作られた笑顔」ってのは、この歳になってくるとだいたい見抜けるようになってくるものです。あ、この人、心では笑ってないな…ってね。
そこいくと、小林聡美演ずる「かもめ食堂」のオーナー、サチエの笑顔は正真正銘のホンモノの笑顔ですね。ラストシーンで、「いらっしゃい」という言い方の三者三様ぶりが披露される場面がありますが、この映画で何度も出てくるサチエの「いらっしゃい」&笑顔は最高にいい。レストランの外に立つ人に対して向けられるガラス越しの笑顔も含め。
フィンランド語で、"ruokala"はレストラン、"lokki"はかもめということで、「かもめ食堂」です。サチエ(推定年齢35歳??)がなぜフィンランドのヘルシンキで日本食の「食堂」を開くに至ったのかについては、年齢同様推定するしかありません。サチエだけでなく、ひょんな出会いからかもめ食堂を手伝うことになるミドリもマサコも、日本で何をしていたのかは、そう多くは語られない。というより、彼女たちの「過去」なんてどうでもいいのですね、この映画では。
フィンランドといえば、OECDのPISA(生徒の学習到達度調査)で常に上位を占め、独特の「フィンランドメソッド」が注目を浴びる教育の国。また、「森と湖の国」と呼ばれる豊かな自然に抱かれた生活は、ロハス、スローフード好みの日本人にとっては憧れの国の一つでもありましょう。
かもめ食堂は、そんなフィンランドという国にある。なんでフィンランドなのー? なんで日本じゃだめなの? そういう愚問もこの際置いときましょう。フィンランドに「日本のソウルフード」おにぎりをメインメニューとする「食堂」がある。経営するのは、一切のしがらみを海の向こうに置いてきたのであろう、一人の日本人女性。「したくないことはしないだけ」とひょうひょうと語る姿がたまらなく格好いい日本人女性。それだけで十分、の映画だと思います。
確かに映画の作りとしては、ちょっと盛り込みすぎじゃないすか!と感じるシーンもいくつか見られて、鼻につく部分もなきにしもあらず(たぶんそれは私が男だからかもしれません)。でも、まあ、小林聡美自身には全然肩の力が入っていないから許せるかという気持ちにもなります。
ほとんど客が来ないのに、毎日一生懸命グラスや食器を磨き、テーブルを何度も拭く。「第1号」の客となった日本オタクの青年(最初のシーンではニャロメのプリントTシャツを着用。えらい。)には、コーヒーを「永遠に」タダにしちゃう。来る者は拒まず、去る者は追わず。必要以上に他人をうらやんだり、憎んだりはしない。さりとて、決して人が嫌いなわけではなく、おいしいものを食べて人が笑顔になるのを見るのが大好き…。そんなナチュラルな姿勢は、いつのまにかたくさんの人を彼女の周りに引き寄せてしまう。
ある中年男が、いきなり彼女においしいコーヒーの入れ方を伝授する場面が面白い。秘訣は、「コピ・ルアック」というまじないをかけるだけだという。自分で淹れたコーヒーよりも、誰かが淹れてくれたコーヒーのほうがおいしい、というのは、そこに「心」がこもっているからなのでしょうが、そこにもう一押しの「思い」をプラスするだけで、よりおいしく「感じられる」ということ。確かに、コーヒーでもおにぎりでも何でも、料理の味って、「味覚」だけじゃない。そこには、いろんな「フィルター」がかかっているのですね。目に見えないフィルターが。それはもちろん、国の違いや言葉の違いも乗り越えるもの。
フィンランドで「起業」したサチエは、趣味の合気道と同じように、変に「構える」ところがない。だからこそ、「成功」したのです。それはヘルシンキでも東京でも青森でも同じこと。これからも彼女は、カモメ食堂を舞台に、きっとたくさんの人を招き寄せ、人と人とをつないでいくことでしょう。
淡々と、心地のいい映画でした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます