カクレマショウ

やっぴBLOG

「今宵、フィッツジェラルド劇場で」─音楽はかくも楽しい。

2007-06-27 | ■映画
昨年11月20日に亡くなった名匠ロバート・アルトマンの遺作となった作品です。アルトマンお得意の群像劇。「群像」すべてが魅力的な映画というのはなかなかお目にかかれないものですが、この映画がまさにそれでした。本当に、いい映画を残してくれたなと思います。

原題の“A PRAIRIE HOME COMPANION”とは、米国で実際に放送されているラジオ番組の名前だそうです。もう30年以上も続いている、毎週土曜日放送の人気番組。日本でも日曜日の午後4時から、AFN(American Force Network=極東米軍放送局)で聴くことができるのだとか。

その番組で、放送開始以来、原案・脚本、そして司会を務めるのが、ギャリソン・キーラー。彼はこの映画でも本人役で登場しますが、実は、この映画自体の原案と脚本も、彼自身が書いているのです。キーラーはアルトマンにこの企画を持ち込み、かくして彼の番組名を冠した名作が生まれたというわけです。映画では、公開生放送の、その番組の舞台裏が描かれるというわけです。

そういう意味では、この映画の真の主役は、キーラー自身なのではないかと思っています。顔は確かに「ラジオ向け」(失礼!)かもしれませんが、その軽妙なしゃべり、番組進行の巧みなテンポ、そして歌のうまさは、これぞエンターテイナーという感じがします。ところで、「AFN」といえば、私が大学生の頃聴いてた「FEN」なんて言い方はもうしないのですね。目をつぶってキーラーのしゃべりを聴いていると、あの頃よく聴いていた全米トップ40のパーソナリティだったチャーリー・ツナの声がよみがえってきました。

実際の番組は、ハウスバンドをゲストとして招いてカントリーやフォーク、ゴスペル、ジャズといった「アメリカン・ミュージック」の演奏を中心として、映画にも登場する「ガイ・ノワール」氏主演の探偵ドラマとか、「ダスティ&レフティ」が登場するドラマによって構成されているらしい。そして、キーラーお得意の「架空のCM」! 映画を観ているときは、ほー、ラジオだからCMまで司会がしゃべるんだ、と思っていたのですが、どうもふざけているとしか思えないCMが多くて、あれ?と思っていました。で、帰ってからパンフレットを見たら、あれはすべて実際のCMのパロディだという。どうりでおかしいと思った…。というより、キーラーの才能に改めて脱帽させられる思いでした。

キーラーとかつて恋仲だったという設定にされているのが、ジョンソン姉妹による「ジョンソン・ガールズ」の妹の方のヨランダ。演ずるのは、あのメリル・ストリープです。彼女があんなに歌がうまいとは知りませんでした。アルトマン監督は、とにかく「歌える」俳優を集めたというだけあって、「古き良きアメリカ」の音楽を十分に堪能できるのもこの映画の魅力の一つでしょう。バックで演奏するメンバーも一流どころのミュージシャンらしい。「ダスティ&レフティ」のお下品カントリー・ソングも、日本人向けのギャグではないにしろ、お下劣で楽しい雰囲気は、字幕からでも十分伝わってきます。

カントリーにしろ、フォークにしろ、ここでは「古い」音楽という感じは全くしません。古びた劇場、年期の入った楽屋、舞台で歌われるのは昔の歌、と来れば、いったいいつの時代の話?と錯覚してしまいがちですが、これはれっきとした現代の物語なのです。それだけ、そういう音楽が今でもアメリカ人にとっては愛すべきものだということなのでしょう。考えてみれば、現代の「ポップ」と呼ばれる音楽だって、すべて、そういった音楽の積み重ねの上にあるわけですから。もっとも、日本の音楽シーンでも同じことが言えるのでしょうけど。

歌そのものも感動モノですが、やっぱりこういう映画を観ると、「歌っている姿」の魅力にはまりますね。とにかく、歌うことが楽しくてしょうがないという感じがびしびし伝わってきます。「ジョンソン・ガールズ」なんか、その最たるものです。姉役のリリー・トムリンが楽屋でしみじみと音楽について語るシーンも印象的でした。

音楽の話ばかりになってしまいましたが、もちろん、彼・彼女が迎える「フィッツジェラルド劇場」最後の一日こそ、この映画のメインテーマです。それぞれがこの劇場に対する思いを抱えつつ、舞台に立つ。老ミュージシャンの静かな死やヨランダの娘のエピソードもいい。そして、この映画の最大の成功は、「デンジャラス・ウーマン」を登場させることによって、ファンタジックな雰囲気を醸し出していることでしょう。天使?それとも死神?いずれにしても、「定めの時と霊を心に受け入れれば、この世の生きる支えになる」という彼女のセリフこそ、この映画の登場人物すべてに共通する思いだったのではないかと思います。

さて、この劇場の名前、「フィッツジェラルド」が、実はこの劇場のあるミネソタ州セントポール出身の作家、スコット・フィッツジェラルドの名前に由来していることが、映画の後半で明らかにされます。劇場の特別貴賓室には、この劇場を愛して通ったという彼の彫像まである。その像は、翌朝、劇場が取り壊された時に、ガイ・ノワールが大事そうに抱えて持ち去るのです。スコット・フィッツジェラルドが関係しているなんて、私にはとても思いがけず、大きな驚きでした。

フィッツジェラルドといえば、「グレート・ギャツビー」。ロバート・レッドフォードとミア・ファローによる映画「華麗なるギャツビー」をもう一度見たくなりました。原作そのものは、これまで野崎孝訳が定番でしたが、最近、フィッツジェラルドの大ファンである村上春樹の翻訳が出ています。読み比べたくなって、そちらの方もつい買ってしまいました。

この映画については、まだまだ語り尽くせないことがたくさんあります。それだけ心に残る映画でした。


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4 コメント

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Unknown (しおね)
2007-06-30 08:35:02
こんにちは。この記事のタイトルを見てびっくりしました。この映画は最近見た映画の中で一番好きな映画だったからです。私は3月の封切り時に見ましたが、60才を越えた我らが夫婦には心にしみる、そしてなんとも楽しい忘れられない映画になりました。
でも悲しいかなギャリソン・キーラーも「プレイリー・ホーム・コンパニオン」も日本人には馴染みが無くて友人に話してもなかなか理解してもらえません。(まあ私も夫に説明してもらうまで知らなかったんですけど)
アルトマン監督の新作ということで、内容も知らないまま一癖も二癖もある出演者の顔ぶれを見て昨年から日本公開を楽しみにしていました。その間に彼の最後の作品になってしまいました。その最後の作品がこんなに素敵な映画なのが嬉しいです。
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Unknown (やっぴ)
2007-07-03 00:33:30
しおねさん
コメントをありがとうございました。

こういう映画はなんだかほっとさせられますね。
アルトマン監督には、そんな映画をもっともっと作って欲しかったとつくづく思いますね。

この映画は、心の中にずっと生き続けることでしょう。積み重ねた年齢にしか作ることができないものっって確かにありますね。
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Unknown (ころう)
2007-11-10 18:53:00
テレ東の“SHOWBIZ COUNTOWN”という外国での映画ランキングの番組で見てから、この映画をずっと見たいと思っていたのですが…結局見られませんでした。

10月にDVDが出てやっと見ることができました!

カントリーミュージックが素敵でした。
出演者の方達も好きな俳優さんばかりで…!!
“赤い河の谷間”は小学生の時に歌ったことがあったので一緒に歌ってしまいました(笑)


ゆっくり時間が流れていて落ち着く気持ちと、音楽を聴いてどきどきする気持ちが混ざって新鮮でした。

“the day is short”が印象に残っています。
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Unknown (やっぴ)
2007-11-12 00:52:55
ころうさん こんばんは。

「赤い河の谷間」って、音楽の教科書に載ってましたからねー。
 サボテンの花咲いてる砂と岩の西部
 夜空(よぞら)に星がひかり
 おおかみなく西部
私もなつかしいです。カントリーって口ずさやすいメロディが多いですよね。

ほんとに、いい映画です。
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