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カクレマショウ

やっぴBLOG

「SOMEWHERE」─ゆっくりとゆったりと。

2011-07-11 | ■映画
“SOMEWHERE”
2010年/米国/98分
【監督】 ソフィア・コッポラ
【製作総指揮】 フランシス・フォード・コッポラ
【脚本】 ソフィア・コッポラ
【撮影】 ハリス・サヴィデス
【音楽】 フォニックス
【出演】 スティーヴン・ドーフ/ジョニー・マルコ  エル・ファニング/クレオ  クリス・ポンティアス/サミー
(C)2010-SomewhereLLC
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ソフィア・コッポラの映画って、いつもゆったりした時間が流れていて、それがとても心地よかったりするのですが、この映画はその極めつけのような感じですね。

さんさんと陽光が降り注ぐプールサイドで、ビーチチェアに寝そべるジョニー(スティーヴン・ドーフ)とクレオ(エル・ファニング)。カメラは、二人のツーショットから、ゆっくりとゆったりとパンアウトしていく。あるいは、部屋のソファに座ってぼんやりしているジョニー。タバコに火をつけ、それを吸い終わり、ビールをひとくち口に含み…というシーンを、カメラは目をそらさずに丹念に追う。そうしたワンカットの長さは、この監督ならではですね。そもそも、冒頭のクルマのシーンもそうです。テストコースらしい道路の一部をカメラにとらえさせといて、フェラーリが爆音と共にフレームインしてきてはカーブを曲がって消えていく。それが何度も繰り返される。カメラはずっと固定。3回でそろそろ終わりかなと思ったら、もう1回出てきました。負けた(^^;)



そういうシーンの積み重ねなので、下手すると飽きる。でも、たぶん、どのシーンも、ソフィア・コッポラが「絶対必要」だと思っているシーンだと思うと、もったいなくて寝たりなんかしてられない。きっと、彼女にとっては、大切な大切なワンカットなのです。

ジョニーは、ハリウッドの売れっ子俳優ですが、人生に魅力を感じていないというか、生活はかなり退廃的。言われるままに作品に出て、フェラーリを乗り回し、仲間と一緒に夜ごとのパーティに明け暮れ、女性関係も事欠かない(それにしても、ポール・ダンスの出前ができるなんて! さすがハリウッドは何でもありなんだ!)。出演した作品について記者に問われて、ほとんど何もまともに答えられなかった時のジョニーの表情がとてもおかしい。

離婚した彼が一人で住んでいるのは、ハリウッドのセレブたちの御用達ホテル、シャトー・マーモント。



このホテル、なかなかいいです。格式張ったところがなくて、部屋のつくりも普通のマンションみたいだし、何より、住んでいる人々との関係が、近すぎず遠すぎずというちょうどいい距離が心地よさそう。とはいうものの、ホテルに「住む」という感覚に疎い私には、とても不思議な世界ではあるけれど。まったく、金持ちだからこその世界ですよね。

ジョニーが、いきなり、仲間と遊んでいる最中に階段からこけて腕を骨折するという設定が面白い。おそらくですが、娘のクレオが初めて登場するシーンで、彼女がギプスに“I love you,Cleo”とかサインするのですが、そのシーンを入れるためにそういう設定にしたのではないでしょうか。あのクレオの登場シーンはそれほど印象深い。あのシーンだけで、離れて暮らす父と娘の関係が理解できちゃいますもんね。

クレオを演じたエル・ファニング、こういう子はいずれきっといい女優になるのでしょうね。ナタリー・ポートマンの成長した女優の姿を見るにつけ、「レオン」を思い出さずにいられないように、成長したエル・ファニングを見るたびに、この映画を思い出すことでしょう。

これもおそらくですが、この父娘の関係は、ソフィアと、父フランシス・フォード・コッポラの関係と近いのではないでしょうか。父コッポラは、言わずと知れたハリウッドの巨匠。ソフィアは、なんと、父が監督した「ゴッドファーザーパートⅢ」(1991年)に出演してるのですね。ただし、例のゴールデンラズベリー賞のワースト助演女優賞とワースト新人賞をダブル受賞といううれしくないおまけ付きで。女優としては開眼しなかったソフィアですが、やはり父の血を受け継いでいるのか、「ヴァージン・スーサイズ」 (1999年)、「ロスト・イン・トランスレーション」 (2003年)、「マリー・アントワネット」(2006年)、そしてこの映画と、彼女にしか作れない作品を次々と発表してくれています。

ソフィアが、この映画のクレオと同じ11歳だった頃、父は、「地獄の黙示録」(1979年)でカンヌ国際映画祭グランプリを獲得し、その地位を不動のものにしていたのですが、「ワン・フロム・ザ・ハート」(1982年)で興行的に大失敗、破産までしています。しかし、「アウトサイダー」(1983年)とか「コットンクラブ」(1984年)、そして「ゴッドファーザーPARTⅢ」といった名作を世に送り出して見事に復活。そういう浮き沈みの激しい父の人生を、ソフィアはどんなふうに見ていたのか。「父」のタイプは違えども、この映画でソフィアはひそやかにそれを伝えたかったのかもしれませんね。父も、この映画を全面的にバックアップしていたようです。父としても、娘にこんな映画を撮ってもらえて、至極の喜びであることは間違いないところでしょう。

主人公ジョニーのセリフは、極端に少ない。自分の気持ちをオモテに出すのは、ほとんどたった一度きり、娘が去った後、離婚した妻に電話をかけるシーンだけかもしれない。何も言わなくても、彼の気持ちは十分に伝わってくる。娘との束の間の一緒の生活で、彼はきっと、「こんなんじゃダメだ!」と感じたのです(ちょっとベタすぎな言い方ですが、彼の場合、それが一番ふさわしいと思う)。居心地のいいホテルも、愛車も捨てて、彼は荒野に足を踏み出していく…。

そこに待っているのは「幸せ」とは限らないと思うのだけれど!

エンドクレジットで流れるのは、ブライアン・フェリーが歌う、スタンダードナンバー“Smoke Gets In Your Eyes”(煙が目にしみる)。これって、実は「タバコの煙」じゃなくて、「恋の炎」の煙が目にしみてるっていう歌なんですけどね。ま、いいや。この映画のエンディングにふさわしい、心にしみる曲でした。


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