風塵社的業務日誌

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ブタ箱物語(8)

2017年02月01日 | ブタ箱物語
先客の若い男性が体をタオルで拭きながら小生の顔を見るなり、「アレッ、初めてお会いする方ですよねえ」と声をかけてきた。「そうなんですよ、夕べぶち込まれたところです」「そうですか。僕はここ長いんで、だいたいの人は見知っているんです」「へー、長いって、どのくらいですか?」「30日以上ですよ」「エーッ! なんでそんなに長いんですか?」「オレオレ詐欺でパクられたんですけど、件数が多いからそうなっちゃったんです」「ああ、そうなんですか。大変ですね。こっちはまだここに不慣れなんで、わかんないことがあったら教えてください」というような会話をして、その男性と交代して風呂場に入ることになった。
これまで聞いてきた話では、留置所の浴槽は水アカが浮いていて気持ち悪かったとか、ひどい場合になるとウンコが浮いていたなんてのもあった。そのため、どうせ不衛生なところだろうと覚悟を決めて浴室に入ってみたのであるけれど、あにはからんや、お湯はステンレスの浴槽に流しっぱなしで明るい日差しが外から入っているし、なかなか快適な環境だ。そのうえ、我が家の風呂場よりも数段は広い(と説明してみても、だれも我が家の風呂場の狭さを知るわけがない)。まずは軽く体を洗ってから、ザッポーンと浴槽に飛び込んでみる。流しっぱなしであるから、ジャバーとお湯が浴槽からあふれ出す。ザッポーン・ジャバーなんて久しぶりの経験だ。まさか留置所で味わえるとは想像もしていなかった。
釈放後、逮捕経験のあるNさんと留置所のお風呂の話をしていたら、「僕の入ったところの風呂なんか桧作りだったよ」と自慢げに語られていた。どこの署だったかを聞き忘れちゃったけれど、お風呂の作りは各警察署によってヴァリエーションがあるのだろう。もう一度しっかり体を洗い直し、再びザッポーン・ジャバーを味わってから風呂を上がることにする。おそらくは入浴時間も規定があるのだろうけれど、小生は基本的に早上がりなのである。
外で待機している警察官に終わった旨を告げて房にもどると、すでに小窓に昼食用の弁当が用意されている。見たら、朝食べたものと同じものだ。「なんだよ、芸がないなあ」とは思うものの、ヘンに鳥のから揚げ弁当なんて出されたら、肉嫌いの小生には食べるところもない。飯の部分は食べると気分が悪くなりそうなので、白身魚のフライだけ食べておくことにする。下げる弁当の回収を警察官が始めたので、お茶だけ一杯追加をいただくことにした。
警官の回収作業が終わったら、M署6番にお呼びがかかった。なんじゃら、ほい。また取り調べなのか、それとも微罪なので釈放かと、トビラを開錠した警官の後ろについていったら、風呂場の横にある小部屋に通された。そして、中年の警察官が座っているテーブルの向かいに座らされる。まさか、ここで取り調べをするんじゃなかろうといぶかしんでいると、次の参院選での投票をどうするのかとたずねられた。またまた意味がわからない。
「つまりそれは、参院選の投票日まで私はここにいるということですか?」と質問してみる。「そういうことではなくて、もしも、その日まであなたがここにいた場合、不在者投票をどうするのですかということです」とその警官がぶっきらぼうに答える。仮定の質問における二者択一を迫られているようだ。投票しなくてもさほどの不都合もあるまいが、ここは投票しますと答えた方がよさそうなので、そう答えておく。すると、その警官は用紙になんだか記入し、小生に指印を求めたのだっけな。ここは正確に覚えていない。その話がすんだところで、脇に立っていた警官(警察官というのは、おおむね二人一組で行動するものである)が「それじゃあ、あなたはこれから房が変わりますので」と小生を別の房に案内することになった。
そして、奥から2番目か3番目かの房を開錠し、「これからはここに入ってください」とそのなかに押し込められることになった。そこには20台後半かなという若者が二人いた。「あっ、どうも。腹巻と申します。これからよろしくお願いします」とお二人にあいさつをする。すると一人が「中国人の××です。よろしくお願いします」と流暢な日本語で話される。これから彼をAさんと称す。もう一人の方(こちらはBさん)が「きのう選挙ポスターを破って逮捕されたんでしょ」と指摘された。これには驚いて「エッ、なんで知ってるんですか?」とたずねたら、「その隣りで僕は取り調べを受けていたんですよ。そうしたら、大きな声で刑事さんをからかっているのがよく聞こえてきて、なんだこの人はと思ったんです」
その話を聞いて、まさに穴があったら入りたいと深く深く恥じ入る思いを噛みしめることになる。しかし一方で、取り調べの刑事さんと世間話をした記憶はあるけれど、からかったような物言いをした記憶はないぞ。これもブラックアウトのなせるわざなのか、そもそも小生のしゃべり方がそういうものなのか。ガキのころから生意気な物言いしかできなかったけれど、そういう問題なのかもしれない。

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