風塵社的業務日誌

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N氏松本へ

2018年01月06日 | 出版
旧友のN氏から賀状をいただく。見れば、「おみくじ」なるシールが貼られている。早速はがしてみたら、大吉げな。「金運アップ/臨時収入がありそう」。ホーゥ、こいつは春から縁起がいい。こういう細かいことが昔から好きな男ではあるが、わざわざおみくじシールなんて買いに行ったのだろうか。それとも、彼の細君は優秀な方なので、そういう遊びをしたがったのだろうか。そういえば、最近N氏から電話がないなあと思っていると、正月明けの某日に早速彼から電話がかかってきた。
「いやあ、腹巻さん、明けましておめでとうございます」などと、殊勝な調子で挨拶をしてくるから、借金の申し込みかいなと思ってしまう。「あなたからもらった年賀状のシールをはがしたら大吉で、臨時収入がありそうなんて書いてあったから、あなたがお金でも貸してくれるのかと思った」と先制攻撃を仕掛けることにする。「ところで、正月はどこか行ったの?」と冗談はさておいて、たずねると、「いやあ、それがさあ、忙しくて」となんだか歯切れが悪い。
「忙しいって、なんで?」
「実はぁ、この週末に松本に行くんですよ」
「はあ?」
「S大で発表があってねえ」
「へえ?あんなとこに法学部なんてあったっけ?」
「経済学部に組み込まれているのかな。そういう大学、たまにありますよ」
「そう?いやあ、S大だけには進学するつもりがなかったから、どういう学部があるのかも知らないのね」
「地元なのにねえ」
「だって、お互いに家から一歩でも遠いところの大学に行こうと思っていたんだから、あんな文化果つる地まで流れちゃうわけでしょ。それよりも、あんなところでなんの発表するの?」
「S大にポルトガル語の得意な先生がいらっしゃって、ブラジルの某大学からも招いて、合同発表会のような感じなんだよね。ブラジルで裁判官をされている日系の方がぼくの大学に来ていたことがあって、その方がぼくのところに所属していたんだよ。その人の紹介なので断るわけにもいかないんだよねぇ」
「へえ、それでなんの発表をするの?」
「ぼくは相変わらずのADR」
「alternative direct revolutionか」
「おっ、うまいこと言うね。そのADRの発表を英語でしないといけないし、ブラジルの方も来ているからずっと英語をしゃべっていないといけないのかなあ。ぼくは無口になっちゃいそうだよ」
「それで、年末年始にずっと英語で発表原稿を書いていたわけ?」
「そうそう。頭がおかしくなりそう」
「宿とかは取ったの?」
「そういうのはS大の方で手配してくれていて、松本駅の近くだったかな。それでさあ、松本駅からS大までどのくらいあるの?ぼくはこれまで松本に行ったことがないんだけど、都会なんでしょ?」
「あんなのただのクソ田舎で、都会なわけないじゃん。だいたいね、この季節に松本なんか行ったら、死ぬほど寒いだけだよ」
「天気予報見たら、氷点下だもんねえ」
「そうそう。なめていると凍死するよ。それで松本駅からお城まで20~30分くらいかなあ。直線距離でS大までその1.5倍くらいの感じだから、駅から歩いていけば1時間くらいのものだと思う。駅前からS大方面を回るバスもあって、これはうちの高校の裏を回っていくんだけれど、なにせ田舎だから本数は少ないだろうなあ。だいたいさあ、S大に行くのになんで駅前の宿なんか取るんだろうね。浅間温泉に宿を取れば、そこからS大まで歩いて20分くらいかなあ」
「ええ~、そうなの?」
「そうだよ。温泉に入れてさあ、しかも市内では高台になるから北アルプスの眺望もいいし、朝、一っ風呂浴びながら雪の積もった山を見れば、朝焼けで真っ赤に染まっているんだよね」
「なんだ、そっちの方がよかったなあ。それにしてもスケジュールが過密のうえ、しばりもきついし、本当に気が重いんだよ。自由時間が全然ないっていう感じ」
「な~んだそりゃ。ついでに言っておくと、長野県は条例でソープがないから、女の柔肌がほしくなったらデリ呼ぶしかないよ」
「そっちはいいよ!」
ということで、簡単に市内の観光ガイドを説明しておくことにした。まず、駅を背にして左斜めに進んでいけば松本城がある。ただ古いというだけで、歴史的ストーリーは皆無という城である。その裏手にはなんかの教科書にも出ている開智小学校、そしてさらにその裏の坂道を登っていけばF高校があり、そのF高校の校舎もなんたら文化財に指定されているそうなので、歴史的建造物をそこそこ見学することはできる。右手方向に進めば、なんかのドラマの舞台となった深志神社があり、さらに進むと市立美術館があって草間彌生の作品が常設されている。そしてもっと歩いていけば、北杜夫の『どくとるマンボウ青春記』で著名な旧制松本高校へといたる。
そういう一般的な観光コースなんかこの際どうでもよろしい。せっかくN氏がS大の松本キャンパスに行くのだから、その正門前(だったっけ?)に鎮座ましますピカドンなるお店に行かずしてS大を語ることなかれ、てなもんだ。しかし、それよりもなによりも、N氏が凍死しないことだけを祈っておくことにしよう。とにかくクソ寒いはずだ。

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