風塵社的業務日誌

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『陸軍登戸研究所』

2012年09月10日 | 出版
弊社から『読むドキュメンタリー映画 2001~2009』を著されている楠山忠之さんが、長年をかけて制作されたドキュメンタリー映画が完成された。題して『陸軍登戸研究所』。弊社もそのパンフ作成のお手伝いをしたところから、映画上映会にご招待された。そういうわけで、9/8(土)、明治大学のリバティ・タワーへとのこのこ向かう。会社の近くでの上映会というのは、大変に助かる。
しかし、問題はそこにはない。その映画の長さが、実に4時間という殺人的なものなのだ。これまでに観たもっとも長い映画といえば、小生の場合、おそらくエイゼンシュタインの『イワン雷帝』だと思うけれど、いまネットで調べてみると、これは1部、2部合わせて190分。240分まではまだまだである。
ウ~ム、耐えられるのだろうかと心底から心配になってくるけれど、しかし、途中で寝始めたとしても4時間も椅子の上で爆睡できるわけがない。テーマ自体は、小生にも多大な関心がある。最近、暑さの疲れか、腰が痛くなる時があるけれど、そんなことはどうでもいい。なにごとも経験あるのみなのだ。
開演時間をうっかりしていて、上映間際に会場到着。さっそく上映が始まる。大学の教室って、いまじゃパワポやビデオが上映できるように、プロジェクターがついているわけね。へー、進んでるんだなあと少し感心。頭の上を飛行機が飛び、何を話しているのかも聞こえないような講義にしか出たことがなく、しかも毎回居眠り三昧だった小生の学生時代とは隔世の感がする。
この映画のテーマの登戸研究所であるが、中野学校の流れをくむ陸軍の秘密研究所で、殺人光線(現在の電子レンジの原理を応用)、毒薬、生物兵器、偽札、風船爆弾などの研究を秘密裡に行っていたところだ。小生もその名前は知っていて、関連書も何冊か刊行されているという知識だけはあるけれど、具体的な内容にはそれほど詳しくはない。
映画はおおよそ3部構成になっている。1部は1時間弱で全体の総論的な話、2部は1時間半くらいで風船爆弾について、3部も1時間半くらいで偽札作りに関して、と分かれている。ありがたいことに、その部が終わるところで少し休憩が入るようだ。観客には、映画でもインタビューに答えている、当時、登戸研究所に勤めていた高齢のかたもご来場されているので、合間合間に休憩を入れないと救急車が出動する事態となるだろう。
途中、意識が冥界にさまよってしまったところもあったけれど、一応、全部鑑賞した。この場面はカットされてもいいのではないかという箇所も、正直なかったわけではないけれど、おそらく作り手にすればカットできなかったのだろう。小生にしてみれば、文献では知っていたけれど、具体的にどういう姿をしていたのか知らなかったものが時折映し出され、すごく勉強になった。例えば、731部隊の石井四郎が開発した浄水器というものは有名だけれども、もちろん、実物を見たことなんてあるわけがない。その写真を眺める機会というのは貴重なものだ。
艦砲射撃を受けるとドラム缶のようなものが飛んでくるというのも(日立艦砲射撃での話)、目から鱗のような体験談だ。戦艦から発射された砲弾がヒューと飛んできて地面に当たればボーンと爆発するのだろうくらいに漠然と想像していた。でも実際には、直径40センチくらいの砲弾であるから、それなりに横幅も感じられるわけだし、数キロから数十キロの距離を飛んでくるわけである。飛んでくるというよりも、落下してくるというイメージの方が正しいのだろう。なるほど、文献だけでは伝わってこない話だ。
この映画では風船爆弾の話も重要であるが、個人的には偽札作りのほうが面白かった。いま現在、小生としては大量に偽札を作りたいと願っているからというだけでなく、印刷技術の話は身近なものでもあり、親近感もある。映画の中である人が、「偽札を作るのなんて簡単ですよ」と前置きをして、簡単にやり方を説明してくれた。まず、あるお札を畳一畳分くらいに拡大する。そこでボケてしまったところなどをレタッチで修正する。汚れを落としてそれをまた元の大きさに縮小すれば、偽札の版面が出来上がりということなのだ。もちろん、そのレタッチの技術は最高レベルでなければならない。美大の先生が呼ばれてその作業にあたっていたというから、さもありなんというところだ。
大蔵省印刷局や凸版からも技術者が集められていたというから、まさに官民一体のもと、当時の日本の技術の粋を集め、壮大な規模で偽札を作っていたことが想像される。しかもその技術はのちにアメリカに接収され、朝鮮戦争の折に北朝鮮軍や中国軍の軍人手帳の作成に応用されていたようなのだ。アジア太平洋戦争は1945年8月15日に終わったわけでなく、その後も続いていたことを如実に示している例である。
貴重な歴史の証言集として、この映画が多くの人々の目に触れてほしいものであるけれど、やはり4時間ずっと見続けているのは確かに苦痛だろう。登戸研究所の各テーマごとに編集し直し、それぞれを独立した内容とすることも一つの手かもしれない。
もう一つ述べておくことがあった。インタビューをしている若い女性が、後半になればなるほど可愛く見えてくる。これこそが映画のマジックにちがいない。その女性が可愛くないという意味ではなく、映画の進行につれてどんどん魅力的に感じていくのだ。嘘だと思うのならば、4時間にトライするしかないだろう。

(カラー、240分、アジアディスパッチ製作)

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