風塵社的業務日誌

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ブタ箱物語(11)

2017年02月04日 | ブタ箱物語
回覧用に入れられた新聞は読売新聞の朝刊であったように記憶している。おそらくは、勾留者がらみの記事がないか検閲してから入れているではないかと想像する。そういう記事があれば、墨塗りされるのかな。しかし、世のなか、とんでもないことが起こったものだ。この新聞をゆっくり読みたいけれど、他の人も新聞を読みたいことだろう。そのうえこちらは新入りなので、一番最後に新聞をゆっくり読むことにしようと考える。しかもそこに、「6番、弁護士面会」と警官から声がかかり、トビラが開錠された。
オッ、ようやく順番が回ってきたかと、ウキウキした気分でトビラを出る。そして、留置所エリア入り口のすぐ脇にある面会室に通された。これまで、何十回となく、拘置所や刑務所の面会に行ったものである。しかし、面会されるのは生まれて初めての経験だ。そのうえ、おのれがされる側に回るとは、想像したこともなかった。きまりの悪いこと、このうえない。
通された面会室は、これまでに小生が見知っているものと、構造的にはたいして変わらない。中央がアクリル板で仕切られ、その前にパイプ椅子が置かれている。奥行きは意外に広くて、面会される側だけで6畳ほどのスペースだろうか。そして、後ろに警察官立会いの面会に備えて、警官用の椅子が用意されている。弁護士面会だと秘密権保持のために警察官は立ち会えないのであるけれど、家族や友人との面会ならば警察官が立ち会うことになっている。そして、警官用の椅子はパイプ椅子ではなく少々立派なものであったから、庶民としてはいささか腹が立つところだ。
こちらは警官用の椅子に腰をおろし、「だれが来るのかなあ?」といささか不安な気持ちで待っている。すると、面会者用のドアがガチャッと開いた。当然ながら、収容者が入るドアと、面会者が入るドアとは別ものだ。見れば、知り合いの弁護士さんのSさんではないか。まさに地獄に仏という気分だ(地獄と呼べるほどひどい状態でもないけれど)。おそらくその瞬間、小生の顔には満面の笑みが浮かんでいたことだろう。手を振っている小生を見て、Sさんも笑い出した。
「(救援連絡)センターから弁選(弁護士選任)が入ったんだけど、はらわたさんが公妨(公務執行妨害)でパクられたと聞いたんですね。それでここに来たら、はらわたさんという人はいないけれど、はらまきさんならいるって言われて、じゃあ、僕の知っているはらまきさんかなあと思ったら、ほんとにそうなんだ。アハハハハ」
「いやあ、わざわざ来ていただいて、本当に申し訳ないです。しかも公妨じゃなくて、公選法違反なんです」
「それもさっき、お巡りさんから聞きました。酔っ払っていたって?」
「そうそう。泥酔していたみたいで全然覚えていないんです」
こうして、ようやく知人と会えて、本音で話すことができるようになり、とても晴れ晴れした気分だ。事件の話に入る前、筆頭懸案項目であった妻への連絡をお願いしておく。そして、うろ覚えで自信のない自宅の番号をSさんに伝えた。「わかりました。ここを出たら真っ先に奥さんに連絡しておきます」との返事をいただき、いささか肩の荷が下りたような気がする。Sさんも、逮捕者の家族への連絡なんて慣れたものなのだろう。あとは、これからどういう対策を取るのかという話である。こちらはそういうことに不慣れなので、Sさんの方針に従いたいと考えている。
するとやはり、「腹巻さんは自身の政治信条をどのようにお考えですか?」とたずねられた。政党ポスターを破った以上は、そこに政治性を見てしまうだろうとは、小生も予想していたことである。しかしなあ、こちらは酔っ払っていただけなのだ。「政治信条とか政治思想とかって言われてもねえ、Sさんもご存知のとおり、私はただの外道左翼ですよ」と答えたら、Sさんは爆笑しつつ「そうですよねえ」とうなづく。
そこから、これからどんなシミュレーションが描けるのか、大まかなレクチャーを受ける。おそらくSさんは、最悪の事態まで想定に入れて話をされたのだろう。それまで小生は、酔っ払いのしでかしたどうでもいいような事件とたかをくくっていたけれど、Sさんの説明を聞いてそうそう甘くはないようだと認識を改めることになった。
また、Hさんも心配して、署まで一緒に来ていたという話もあった。パンツとTシャツと靴下を差し入れしてくれたらしいが、靴下は足首以上の長さがあってハネられたらしい。「それでHさん怒っちゃって、プンプンして帰っていきましたよ」とSさんから聞かされた。小生の知らないところで、外の人は気を配ってくれているのだ。ありがたい話である。お気楽なのは、小生一人なのかもしれない。
一般面会とはちがい、弁護士面会の場合は時間制限がない。M署には面会室が一つしかないから、おそらくSさんもずいぶんと待たされたことだろう。「留置所に逮捕者の接見に行って、他の弁護士に先に入られちゃうと、あ~、やられたという気分になる」とは、別の弁護士さんの語っていた話であった。

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