五月は素敵だ。
いきなり真夏日から始まり
雹が降ったり 台風のような雨風があったり
まるでティーンエイジど真ん中の をとめの心
空に 新緑のレースのカーテンを引いている
桜の若葉の間から 射し洩れる陽光は
無数のダイアモンドの煌めきのよう
とびっきりのお気に入り
そんな五月のダイアモンドがきらきらする日
ナヲコと公園のベンチに腰かけていた
話題は たわいもない クラスメートの噂
遠くで 売出し中の歌手が
カメラを前に ポーズをとっていた
ナヲコからは 見えていなかった
「わたし、 妾の子なの」
一瞬の沈黙の後 ナヲコが 話し始めた
「母は 元神楽坂の置屋の娘で
家業が左前になった時に 芸者になった」
「どうして家は お父さんが週に一度しか
帰ってこないのかって 小さいときは思ってた」
妾 めかけ?
15才の私にはすぐにはピンとこなかった
ふと目をあげると
撮影が終わったらしく 件の歌手が
こっちに歩いてきた
私はとっさに 国語のノートを取り出し
最終ページを開き ボールペンを挟んで
その歌手に駆け寄った
泣いているナヲコを残して
別に その歌手のファンでもないのに
五月は残酷だ
車のフロントガラスにひびが入るほど
思いがけない大きさの氷の塊を降らせたりする
by 風呼