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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

ナット・キング・コール/ピアノ・クラシックス

2007年10月05日 23時29分57秒 | JAZZ-Piano Trio
 こちらは先日とりあげた「ヴォーカル・クラシックス」のディスクの後半にはいっているもの。原題は「インストゥルメンタル・クラシックス」だが、何故か邦題は「ピアノ・クラシックス」となっている、きっと発売元ではそっちの方が分かりやすいと思ったんだろうな....ちょっとばかり余計なお世話だと思ってしまう(笑)。それにしてもこれが録音された頃、つまり40年代中盤~後半の頃のコールは、ヴォーカルとピアノどっちがメインだったのだろう。元々はコールは30年代にジャズピアニストとしてデビューして、ピアノ、ギター、ベースからなるピアノ・トリオというフォーマットをつくりあげた人という知識は一応あるのだけれど、40年代なかばともなればヴォーカリストとしてもかなり売れていたハズで、一体どくらいの時期にヴォーカルとピアノの比重を反転させたかよく分からないのである。

 ともあれ、ここに収録された12曲はピアノ・トリオ時代をコールを伝える作品ばかりである。私はピアノ・トリオというとどうしてもドラムが欲しいと思ってしまう人なので、ここに収録された作品のうち、例えば14曲目の「恋とは何でしょう」とか16曲目「ジス・ウェイ・アウト」、20曲目の名曲「スイート・ジョージア・ブラウン」などのどちらかというとアップテンポでスウィンギーな作品は、あまりに古色蒼然とした古くささを感じてしまうのだが(コンガの入る「バップ・キック」とかになると、多少は緩和されるのだから)、それでも聴きこんでみると、当時としてはここで聴かれる音楽の名技性とそこから来る爽快感のようなものは、やはり凄いものだったのだろうなとは思う。また、音楽的にはもうこれの後にすぐオスカー・ピターソンのテクニカルさにつながっていくのもよくわかる(トリルのようなフレージングとか、左手を時にフィルインのようにガツンといれるところなどまさにそう)。

 ちなみに比較的なスローなバラード系の作品群は素直に楽しめる。当時はとても現代的な都会的センスに満ち満ちた演奏だったんだろうけど、そのブルージーなセンスにせよ、アーシーな暗さにしたところで、今聴くとしっとりとしたとても上品なセンスにくるまれている感じがするのは、まさに時代の流れなんだろう。13曲目の「ザ・マン・アイ・ラヴ」とか17曲目「ボディ・アンド・ソウル」などぼんやり流していると、その古くささがかえって気持ちよくなってくるから不思議だ。
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トリオ・モンマルトル/ローマの思い出

2007年09月29日 23時15分58秒 | JAZZ-Piano Trio
 ニルス・ラン・ドーキー弾きいるトリオ・モンマルトルの確か第2作。なにしろこのバンド名だし、アルバム名が「ローマの思い出」だから(ちなみに第1作のタイトルは「カフェ・モンマルトルからの眺め」)、これはもうどこをどう見ても「ニッポン発欧州ジャズ」の香りである。具体的にいえば、ちょっとオシャレにジャズを聴いてみたいOLのような人をターゲットにして制作されたのは多分間違いないところだ。いや、だからといって悪い訳じゃない、音楽が良ければ、否、自分の好みであれば、「モンパルナスの窓」であろうが、「カンヌのそよ風」であろうと、とりあえずタイトルやジャケはなんでもいい。では、この作品の場合はどうか?。

 音楽的には絵に描いたようなヨーロッパ型のピアノ・トリオである。本作では選曲にイタリア系のものが多くとられたためのせいもあるが、非常に叙情的なメロディーを実にしっとりとラプソディックに歌っている。また、音楽をインプロで拡散させながら、陰影の深いロマン性や思索的なムードを繰り広げていくあたりは、例によっては初期のスタンダーズの影響が強い感じがする。ニルス・ラン・ドーキーはヨーロッパの中堅として、ゲイリー・ピーコックを向かえたピアノ・トリオ・アルバムなども作っているようだから、この仕上がりは当然ともいえかもしれない。特に1曲目の「素直なあなた」など、ラン・ドーキだけではなくトリオ全体がアラ・スタンダーズであるし、オリジナル作品である8曲目の「KS」などもスタンダーズ風なゴスペル&ロック的な風味がある。

 とはいえ、全編スタンダーズ調という訳ではなく、5曲目の「ひとりで」などは軽快に4ビートをスウィングさせているし、印象派的なセンスをみせる4曲目「プレリュード~カルーソー」などもあるし、ジョアン・ジルベルトなども歌っているスタンダード「エスタテ」(3曲目)はストレートにメロディを歌い好感がもてるところだ。決してエピゴーネンではない。また、これもオリジナルだが、10曲目の「ホーム・スイート・ホーム」あたりの米欧混合なセンスなどもなかなかおもしろい。この人はむしろこういうところに個性があるのではないかと思う。という訳で、このアルバム、悪くはない仕上がりだと思う。実はこのアルバム、数年前に購入して一聴して後、印象が薄くて放置してあったのだが、あの時より遙かに好印象をもった。これを機会にWalkmanにでもいれてリピートして聴いてみようか。
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ハービー・ハンコック・トリオ `77

2007年09月19日 21時32分31秒 | JAZZ-Piano Trio
 ハービー・ハンコックはそのヴァーサタイルな活躍振りからすると、ことピアノ・トリオに関してはほとんど拘りがないのか、数えるほどしか作品を残していないが、このアルバムは多分彼が残した最初のピアノ・トリオ・アルバムだ。1977年、VSOPの勢いを借りて日本CBSソニーからの要請で制作されたと思われるため、メンツは当然のことながらトニー・ウィリアムス、ロン・カーターという「いつもメンツ」とも「鉄壁の布陣」ともいえる組み合わせになっている。ただし、音楽的にはグレート・ジャズ・トリオのハンク・ジョーンズがハンコックに替わったようなオーソドックスな4ビート・ジャズではなくて、4ビートと8ビートが交錯し、インプロとスコアリングされたパートの境界が曖昧な....つまり、60年代後半以降の新主流派の流儀で作られたアルバムになっている。

 1曲目の「ウォッチ・イット」は13分に及ぶ作品で、典型的な新主流派の音楽。込み入ったリズムを伴ったややシリアスなムードを持つ作品で、ハンコックのピアノもかなりアブストラクトなソロを展開しているし、ドラムもベースもある意味でラディカルなプレイである。2曲目の「スピーク・ライク・ア・チャイルド」はブルー・ノートに残した同名アルバムのタイトル・トラックの再演だが、茫洋とした印象派風なムードといった点では原曲に劣るが、この曲の思索的な面をストレートかつシンプル、そしてクリアな雰囲気で演奏していして、これはこれでなかなか気持ち良い。3曲目「ウォッチング・ウェイティング・フォー」は1曲目と同様なコンセプトで作られたに違いない後期新主流派の音楽。4曲目の「ルック」はアルバム中で一番リラックスして、奇をてらわない4ビート風の音楽。私の好みからすると1曲目や3曲目のようなギクシャクした作品よりこちらの方が数段楽しめる。5曲目はお馴染み「マイルストーン」で、こちらは期待通り、マイルス~VSOPの線でパワフルに演奏している。

 という訳で、ピアノ・トリオ・アルバムとしては今一歩という感じ。新主流派の音楽というのはモードとフュージョンの狭間にあって、フリー以外の方向性を模索した動きだったように思うけれど、ジャズ自体が袋小路に入ってしまっていたあの時代、破壊でも回帰でもない新しい音楽を作ろうとして、これ自体、絵でいったら新印象派みたいなもので、よりテクニカルで複雑、高度でプロフェッショナルな音楽ではあったけれど、一種のマニエリスム的なものだったと思う。このアルバムもそういうところが色濃く感じられ、私には少々「考えすぎ」のように感じられるのだ。
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シェリーズ・マン・ホールのミシェル・ルグラン

2007年08月30日 23時19分37秒 | JAZZ-Piano Trio
 ミッシェル・ルグランというと、私にとってはなんといっても名作「シェルブールの雨傘」の音楽で一躍有名となり、その後母国フランスはおろか、ハリウッドまで活躍の場を広げた、フランシス・レイ、モーリス・ジャールあたりとならぶ、国際派のフランス映画音楽のコンポーザーみたいなイメージがあるのだけれど、ジャズの方面でも指揮編曲、そしてピアニストとしてけっこうな傑作を残していることは周知の通りだ。前者にはマイルス・デイヴィスその他の一流ミュージシャンを擁した「ルグラン・ジャズ」という名作があるし(私は未聴なのだが)、後者は本作「シェリー・マンズ・ホールのミッシェル・ルグラン」をもってトドメをさすといったところだろうか。

 このアルバムはルグランが映画音楽の仕事で訪米した際に、シェリー・マンの誘いに応じて、彼のドラム、レイ・ブラウンのベースというピアノ・トリオで収録されたライブ盤である。ルグランはコンセール・ヴァトアールで音楽を学んだせいのかどうか知らないが、編曲はもちろんだが、ピアノもかなりうまく、名うてのリズム・セクションを相手に堂々たるパフォーマンスを展開している。おそらく、ルグランはレイ・ブラウンやシェリー・マンといった相方や場所柄から判断したのだろうが、そのパフォーマンスはオスカー・ビターソンも真っ青といった感じの、やたらと手数の多い、饒舌にスウィングするプレイになっている。彼のピアノ・トリオのアルバムは何枚あるのかしらないが、おそらく彼の盤歴の中ではけっこうな異色作になるのではないだろうか。

 収録曲では、1曲目の「ザ・グランド・ブラウン・マン」、続く、そしてスタンダード・ナンバー「ザ・タイム・フォー・ラブ」あたりが、ルグランの器用なアラ・ピターソンぶりがハマって快適なスウィング感と華麗なフレーズが横溢した演奏となっている。また、スキャット・ボーカル入りの「マイ・ファィニー・バレンタイン」(そういえば彼の姉妹はスウィングル・シンガーズのソロとっていた人だと思うのだが、それと歌い回し似ているような気がしないでもない)や「ウィロウ・ウィープ・フォー・ミー」といった有名曲ではさすがに、フランス的な香りを漂わせてひと味違う雰囲気を味合わせる。またラストの「ロス・ゲイトス」はフリー・インプロらしく、フリー・ジャズという訳ではないが、この曲だけはこれが録音された68年という時期を思い出させる演奏になっている。
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エディ・エギンス・トリオ/愛の語らい~ジョビン作品集

2007年08月19日 23時07分01秒 | JAZZ-Piano Trio
 1999年にお馴染みヴィーナスで制作されたエディ・ヒギンス・トリオによるジョビン集である。ヴィーナスでエディ・ヒギンスとくると、例のセンスが良いんだか、単にオヤジクサイんだか、よくわからない女の肢体をフィーチャーしたジャゲが思い浮かぶけれど、こちらは題材が題材なだけに、いつもとは違ったファッショナブルなイラストがあしらわれている(ひょっとすると若い女性層をターゲットしたのかもしれない)。メンツはベースはジェイ・レオンハート、ドラムがテリー・クラークという布陣で、タイトル通り、ジョビンの作品ばかり取り上げているが、「イパネマの娘」とか「ワン・ノート・サンバ」とかいう超有名曲はほとんど出てこないで、比較的地味というか、渋い曲ばかりが選ばれているのは、なかなか通好みなセンスを感じさせる。

 アルバムはさすがに1曲目から渋く迫るのは「ジョビン集」というタイトルでアルバムを購入してくる、非ジャス系リスナーに慮ったのか、比較的有名な「ファベラ」からスタート(あと有名なのといったら「フェリシダージ」くらいか)。マーチ風なドラムのイントロに続いて、ヒギンスがオスカー・ピーターソン張りに豪快にドライブするピアノを披露する、なにしろヴィーナス特有の音圧上げまくりの音質なのもあいまって、購入して一聴した時は、「なにこれ、全然ボサノバじゃないじゃん」と一瞬コケそうになったものだが、ヴィーナスってのはなんでも1曲目にぶちかますのが好きなレーベルなので、これもその線でアルバム冒頭ということになったんだろうし、パフォーマンスそのもの悪くはないのだけれど、少なくともアルバムを象徴するような曲とはいえないだろう。

 そんな訳で、このアルバムの真骨頂はやはり渋い曲が続く2曲以降からだ。やや沈み込んだようなムードがロマンティックな「アイ・ワズ・ジャスト・ワン・モア・フォー・ユー」「愛の語らい」「ボニータ」といった曲は夜聴いているて、得も言われぬ心地よさがあるし、軽いサンバのリズムにのって、ヒギンスらしい明るい上品さが満喫できる「ファイツ・ネヴァー・モア」「トゥカイツ」といった曲も楽しめる。前述したようにこのアルバム、1曲目がけっこうストロングな出来なもので、割と敬遠してきたところがあったのだが、久しぶりに聴いてみたら、「なんだ、1曲目が終わってしまえば、あとはけっこういいじゃん」という感じで再認識した。この数日、毎日楽しんでいるところである。
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WARREN BERNHARDT / Heat of the Moment

2007年07月08日 22時47分02秒 | JAZZ-Piano Trio
 ウォーレン・バーンハートはフュージョンとオーソドックス4ビートの二股をかけるピアニストだ。最近はあまり聞かないが、確か80年代にニューヨーク系のフュージョン・シーンではトップに君臨するキーボード奏者のひとりとして、けっこうな作品に顔をだしていて、その後、90年代になるとビル・エヴァンス系のピアニストとして、オーソドックスなピアノ・トリオ作品を出しはじめるようになっていったように思う。確か93年のスティーリー・ダンの日本公演ではキーボードを弾いていたはずだ。このアルバムは89年にアメリカのハイファイ・レーベルDMPから発表されたピアノ・トリオ作品で(DMPでは3作目になるらしい)、夏が来ると良く聴きたくなる作品だ。何故に夏になると聴きたくなるかといえば、別段このアルバムが全面的にボサノバをやっている訳でも、サマー・フュージョンのピアノ・トリオ版的な音楽をやっているからでもなく、アルバムの2曲目「Bodas de Sangue」が何故かとても夏向きの作品で、個人的に大好きな曲だからである。

 先ほどこのアルバムについて、ピアノ・トリオ作品と書いたけれど、この「Bodas de Sangue」は実はピアノ・トリオではなく、ギターとパーカスを加えた5人編成で収録されている。曲はさざ波のようなモチーフをピアノとアコギのユニゾンで奏で、それを繰り返しつつ、しっとりした情感を漂わせたスローなサンバに発展していくというものだ。トロピカルな中に妙に静謐で厳かなムードを湛えたテーマは素晴らしいし、ギター~ピアノと進むソロのスウィング感も気持ち良く、なにやら、賑わっていた夏の海岸が夕暮れを向かえて人がまばらになっていくような夏の定番ともいえる光景を思い出させるのもいい。個人的には至福の7分間ともいえる曲なのである。
 ちなみにこのアルバム、この曲の他にもギターとパーカスを加えた夏向きな「Pali Lookout 」という曲が入っているのだけれど、こちらも悪くはないものの、ちょっとギターのデミーコの色が強すぎでまるでドルフィンズみたい音楽になってしまっていて、まぁ、それなり、とても「Bodas de Sangue」のようなぐっと引きつけるようなものはないのが残念である。

 あと、ピアノ・トリオによる作品は、基本的には極めてオーソドックスな4ビート・スタイルだが、フュージョン出身なだけあって、全編に渡ってスポーティーな感覚があり、良い意味で現代性を感じさせて、とても聴きやすく、しかも勘所をおさえた充実した演奏となっている。1曲目の「Love Walked In」や9曲目「Ni en Broma?」などなど快調そのものだし、アースキンのドラム相変わらず良い。ただし、良く言われるようにこの音楽がビル・エヴァンス的かといわれると、ビル・エヴァンスの曲なども沢山やっているものの、個人的にはどうも違う気がする。ビル・エヴァンス的というには耽美より、スポーティーな明るさというものが、この人の場合強すぎるような気がするからだ。ともあれ、このアルバムを通して聴くのは実に久しぶりだが、2曲目はもちろん、意外にもアルバム全体を楽しくきけたので、Walkmanにでもいれてみようかと思っているところである。
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ティエリー・ラング・トリオ/リフレクションズ1

2007年06月24日 16時44分49秒 | JAZZ-Piano Trio
 久々のティエリー・ラングです(前回もこんなイントロだったな-笑)。関東では6月14日に梅雨入りした訳ですが、当日こそけっこうな雨を降らせたものの、その後は梅雨とは名ばかりの雨のあの字もない、それこそ「もうすっかり夏ですなぁ」的な日が続いていた訳ですけど、日曜でお休みの今日は朝から曇り空で、今にも雨が降りそうな按配で、これを聴き始めたあたりから、そろそろ雨音が聴こえててまいりました。ラングの音楽を聴くには、まさにぴったりのタイミングです(笑)。ヨーロッパ系のジャズ・ピアノはおおまかな特徴として、だいたいにおいて低め温度感に支えられた妙に気持ち良い湿度感、憂いを帯びたムードにクラシカルな美的感覚みたいなものを全面に出してくる人が多い訳ですけれど、この手の音楽を私の場合、雨の日とか深夜とか聴きたくなるので、これといって雨とか梅雨とか考えないで取り出してきた訳ですけど、無意識に呼んでいたのかもしれませんね。

 さて、このアルバムですがリフレクション・シリーズの第1作ということになります。このシリーズがいったいどんなコンセプトなのか私にはよくわからないのですが、とにかくアルバム単位ラングが様々なジャズ的フォーマットを展開しているもののようです。私は第3作までもっているのですが、この第1作は彼の出発的で音楽的基盤ともいえるピアノ・トリオで演奏しています(その後の作品は管を入れたり、ハーモニカ、ヴァイオリンとの共演当編成をどんどんフレキシブルに拡大している模様)。2003年の作品ですから、比較的新しい作品となりますが、制作はヨーロッパのマイナーらしく、前2作を発売したブルーノートとはどうやら縁が切れてしまったようで(単発契約だったかもしれませんが)、ワールドワイドな存在には今一歩届かず....といったところですかね、残念です。

 音楽的には「ラングらしさ」が全編に漂う、例によってアンニュイなな美しさに満ちた作品ですが、ブルーノート・レーベルの経験が生きたのか、彼自身の円熟なのか、初期の頃にあったような、耽美的なピアノの美感のみで音楽を作っているようなところがなくなり、全体にトリオ・ミュージック的な一体感、ジャズ的なスウィング感のようなものも強くなっているように感じました。従来から作品としては、「スリー・ラインズ」「ウーンズ」「ウァイティング・フォー....」「ムーン・プリンス」あたりが、まさに雨の午後にぴったりのしっとりした作品。一方、再演となる「ユア・ノーツ」はシンコペを多用したちょいファンキーなムード、「プライベート・ガーデン」のフリージャズ的なインプロを展開して、けっこう新基軸を狙っているような感じです。 
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ビル・エヴァンス/トリオ64

2007年06月12日 00時30分04秒 | JAZZ-Piano Trio
 このアルバムのユニークさは良くも悪しくもベースがゲイリー・ピーコックであることだろう。ゲイリー・ピーコックといえば、現代のピアノ・トリオの最高峰であるスタンダーズのベーシストでもある訳だけれど、その彼が60年代のフリー時代に突入する直前にビル・エヴァンスと残した唯一の記録という点だけでも価値があろうというものである。それにしても、この時期のエヴァンス・トリオにおけるレギュラーのベーシストはチャック・イスラエルだったという理由を考慮しても、どうしてピーコックとの共演はこれだけで終わってしまったのだろうか?。もちろんその理由は素人の私でもいろいろ考えるられる、いわく、これはヴァーブの企画で集めたメンバーであって、エヴァンスはあくまでもイスラエルが好みだった....とか、フリーの方に傾斜していたピーコックが今更こうしたオールドタイムな音楽に興味を示さなかった....などである。全く個人的な推測だが、おそらくその真相は前者であるまいか?。

 このアルバムを聴くと、ピーコックはラファロほど攻撃的でもないが、イスラエルほど寡黙でもないという、一見、エヴァンスの音楽にぴったりのベーシストであるように思える。ところが聴こえて来る音楽には何故か生彩がないように感じるのである。それは何故といえば、エヴァンスとピーコックの音楽的資質があまりに似ているからではないだろうか。白人的にエレガントな美意識と、抑制された美しさみたいなものを身上にしている点で、両者はあまりに共通していたのだと思う。なのでセッションではお互いが触発されるというよりは、遠慮しあってしまい、出方をうかがっているうちに音楽を終わってしまっているようなところがあるのだ。こう書くとイスラエルも似たようなセンスではないかといわれるかもしれないが、彼の場合、あくまでもエヴァンスに寄り添っているようなスタンスが基本であり、ある種うなずきクンのようなところが、エヴァンスの音楽を邪魔していないという点で違っていたと私は思う。

 ともあれ、このアルバムの音楽はある種スタティックな美しさはあるものの、「ムーンビームス」のように耽美的に沈み込むというではなく、どことなく低回したまま、最後まで音楽高揚しない憾みがあると思うし、一方で「リトル・ルル」とか「サンタが街にやってくる」みたいな、スウィングというよりは単なる空騒ぎに終わったような作品が重要ポジションに配置されているのも、なんとなく釈然としない思いも残る。
 そんな訳でこのアルバム、何年に一度かは、決まって「このメンツなのだから、今度こそ....」と、期待を新たにして聴いてはみるものの、実はその度に肩すかしをくらう作品でもある。もちろん今回もそうなのであった。
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ローランド・ハナ・トリオ/ミラノ、パリ、ニューヨーク

2007年05月17日 23時46分58秒 | JAZZ-Piano Trio
 ローランド・ハナ晩年(2003年)の作品。ヴィーナスより発売されたアルバムで、ジョン・ルイスに捧ぐというサブタイが示すとおり、ジョン・ルイスやミルト・ジャクソンの作品をメインに据えた作品集となっています。ローランド・ハナは50年代の正統派パップの流れを汲み、美しいタッチとメロディックなフレージングに特徴があるピアニストで、人によっては私の大好きなトミー・フラナガンやハンク・ジョーンズと並び称する人もいるくらいなのですが、個人的にはこの人のピアノ、以前にも書いたとおりやや生真面目というかある種の律儀さみたいなものがあり、ついでにクラシック的な整合感がやや鼻につくところもあって、個人的には今一歩印象が薄い人になっています。

 ただし、このアルバムは、ドラムはルイス・ナッシュで、ベースがジョージ・ムラーツというこれまたオーソドックスな布陣が効を呈したのか、ヴィーナスというレーベル・カラーが強力に作用したのか、はたまたジョン・ルイスというテーマが彼に合致したのか、少なくとも次のクラシックのアダプテイションばかりでアルバムよりは楽しめる作品です。メンツからして、雰囲気は大体想像がつくと思いますが、全体にジョン・ルイス的な陰影はあんまりなく、オーソドックスな4ビートを土台にハナの明るくクリアなピアノがフィーチャーされた「しごくまっとうなピアノ・トリオ」という印象。以前の記憶だと、もう少し硬質でおもしろみないアルバムという感じでしたけれど、改めて聴いてみたら「スケーティング・イン・セントラルパーク」のメロディックさ、「アフタヌーン・イン・パリ」のスウィング感、あと「ミラノ」のトリオになってからのlリラックスしつつも次第にブルージーになっていくあたりの味わいといったところが、なかなか良かったので思わず取り上げちゃいました。
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JACQUES LOUSSIER / plays Debussy

2007年05月02日 18時09分03秒 | JAZZ-Piano Trio
 バッハをジャズのピアノ・トリオにアレンジして演奏することで有名なジャック・ルーシェですが、近年はむしろバッハ以外のクラシックの作曲家を手がけることが多く、2000年に収録されたこのドビュッシー集もそうした一枚です。ルーシェはフランス人ですし、いつものファッショナブルな音楽のたたずまいからして、フランスの印象派などはおそらく得意だったんでしょう(というか制作サイドはそう思っているに違いありません)。これの他にもサティ集や当然のようにラベルも手がけていますが、じゃぁ、これがバッハのように楽しめるかというと、けっこう微妙なんですね。

 ここで取り上げられた曲は、当たり前といっては当たり前ですが、ほとんど原曲がピアノ曲なのですが、あまりに原曲のイメージに忠実過ぎて、いつもの意外性はないし、ジャズ的なインプロビゼーションの感興といったものも希薄だという気がするんですね。その理由のひとつとして、こに収録されたピアノ曲はそもそもピアノの独奏曲として、完璧に世界が出来上がってしまっていているということがあると思います。これを全く違った楽器やアンサンブルで演奏するならともかく、同じピアノでアプローチするには原曲の完成度が高すぎるんじゃないかと思うんですよね。そもそもドビュッシーのピアノ曲は、技術的も高度なものを要求しつつ、フランス的としかいいようがない独特の雰囲気をもっていていますから、オリジナルを敷衍しつつ、ジャズっぽいインプロに移行すると、とたんにドビュッシーの世界から浮き上がってしまうように感じました。

 あと、素材が素材だけにいたしかたないともいえますが、バッハの時にみせるような豪快にスウィングする場面がないのも少々さびしいです。5曲目「喜びの島」がいくらかそれっぽいところを開陳していますが、後はオリジナルの雰囲気を尊重するばかり、結局、ドラムとベースにはほとんど存在感がなく、背景でうっすら鳴っているだけみたいな曲も多く、おフランスの音楽をおシャレなBGMとして楽しみたいというムキにはいいかもしれませんが、私には少々退屈でむしろ原曲聴きたくなっちゃいました。
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エリック・リード・トリオ/クレオパトラの夢

2007年04月16日 00時32分34秒 | JAZZ-Piano Trio
 このアルバムのライナー・ノーツはかの寺島靖国さんが書いているのですが、途中で出てくる「ジャズ・ポリス」というのがおもしろいです。いわく「ジャズの純血性を信ずるあまり、少しでもファンに迎合したようなジャズを見ると「商業主義」だ、「コマーシャル」だと決めつける一派」ということですが、笑っちゃいました。こういうのはジャズに限らず、クラシックでも、ロックでもいて、何かにつけて、アンチ・コマーシャリズムで、小難しいのが偉いみたいに思考パターンは、なんていうか「純文学」という形容がまかり通る日本では特に強いものなのかもしれせんね....いやぁ、他ならぬ自分もそうなんですが(笑)。

 で、このアルバムのライナーになぜ「ジャズ・ポリス」という言葉が出てくるのかというと、何しろあまりに絵に描いたような選曲だからなんですね。「ジャンゴ」、「ティー・フォー・トゥー」「ラッシュ・ライフ」「ワルツ・フォー・デビー 」「ラウンド・ミッドナイト 」「アイ・ラヴズ・ユー・ポギー」「クレオパトラの夢」....とくれば、私がよく形容する「日本発洋楽ジャズ」の匂いがぷんぷんしますから、まぁ無理もないですが....(笑)。ちなみに肝心の演奏ですが、エリック・リードのピアノはオーソドックスそのものですし、ベースはロン・カーター、ドラムスは私の大好きなアル・フォスターですから、全体としてはそつなくまとまってとても聴きやいものとなっています。ただ、エリック・リードにもう少し個性が欲しいかなとは思いました。そつがないのはいいのだけれど、彼のピアノはあまりに汎ジャズ的なイメージに埋没してしまい、これがエリック・リードだ....というところが見えてこないの感じなのです。どうしてそうなのか、それはエリック・リードが日本の営業サイドの意を組んだ演奏をしたからなのか、それともエリック・リード自身の個性の問題なのかは、よくわかりませんが....。うむ、私ってば、やっばり「ジャズ・ポリス」かな(笑)。
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The Tommy Flanagan Trio / Moodsville #9

2007年03月28日 23時20分42秒 | JAZZ-Piano Trio
 トミー・フラナガンが60年代に残した数少ないピアノ・トリオ作品。この時期のフラナガンのピアノ・トリオといえば、50年代だが「オーバー・シーズ」という大傑作があって、こちらはその陰に隠れがちだし、内容的にも「オーバー・シーズ」のような豪快にドライブ感、はりつめたテンションといったものがある訳でもなく、ある意味BGMになりそうなジャズ的なリラクゼーションが全面に出た「ぬるい演奏」をしているせいで、いきおい地味な評価が多いのだが、私はこちらの作品も大好きだ。なにしろ、トミー・フラナガンといえば、上品なメロディックさ、タッチが美しさ、格調高いムードといったところが彼らしいと思っている私としては、むしろ「オーバー・シーズ」以上にフラナガンらしさが横溢した作品として、これを愛好しているのである。

 ちなみにこのアルバムのタイトルである「Moodsville」というのは、プレステッジのシリーズ物らしく、同タイトルを冠したアルバムとして、レッド・ガーランドやフランク・ウェス、オリバー・ネルソンなどがあるようで(末尾の番号は9番目に出たということを示しいるらしい)、多分、プレステッジのアーティストによる肩の凝らない、それこそカクテル風なジャズというようなコンセプトで録音されいたんじゃないかと思われるんだけど、トミー・フラナガンの資質はそういうコンセプトにまさにぴったりだった訳で、別に妥協した訳でも、妙な演出を施した訳でもなく、ごくごく自然なパフォーマンスの結果こういう音楽になったという感じがいいのである。つまり音楽に嘘がない訳で、そういうものはやっぱり自然と人に伝わるんじゃないと思ったりもするのだが....。ともあれ私にとってこれは極上の音楽だ。

 ついでにいうと、これは先日も書いたことなのだけれど、ロレツ・アレキサンドリアの「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ」というアルバムでトミー・フラナガンはジョージ・ムラーツとアル・フォスターと組んで、実に絶妙な歌伴をしていて、私はあれをフラナガンの傑作のひとつだと信じて疑わないのだけれど、こるアルバムは調度あれの雰囲気にかなり近い。もっといえばあれのカラオケを聴いているような気さえしてくる作品でもある。いや、時系列からすると、当然ロレツ・アレキサンドリアのアルバムを「Moodsville」の雰囲気で作ったというべきなんだろうけど(笑)。
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David Hazeltine / The Clasic Trio

2007年03月24日 18時54分03秒 | JAZZ-Piano Trio
先日レビュウしたデビッド・ヘイゼルタインのシャープ・ナイン・レーベルでのリーダー作。メンツはベースがビル・チャーラップのレギュラー・トリオの一角、ピーター・ワシントン、ドラムが大ベテランのルイス・ヘイスというもので、このヘイスが入ってメンツ的にも箔がついてこうなったのか、単にやっているスタンダードなスタイルだからそうなのか、よくわかりませんが、アルバムのタイトルはすばり「ザ・クラシック・トリオ」となっています。
 制作は1996年ですから、前回取り上げた「ワルツ・フォー・デビー」の2年前ということなりますね。ひょっとすると、このアルバムで披露した腕前を買われて、ヴィーナスからのオファーかかったんじゃないかと思えるほど、王道ジャズというか、タイトル通りのオーソドックスなピアノ・トリオとなっています。

 アルバムはだいたい前半と後半にスタンダード、中盤にヘイゼルタインのオリジナルを配した構成となっています。スタンダード・ナンバーでは1曲目の「You Make Me Feel so Young」がちょっとモダンなリフを挟んだ都会調、2曲目の「The Fruit」はバド・パウエル作なせいか、オーソドックスなパップ・スタイルで料理、3曲目の「Sweet and Lovely」は、曲が曲なだけにブルージーなムードが一杯で、ベースのワシントンも含めソロ・スペースもふんだんに用意され、前半の聴きどころとなってます。
 9曲目の「These Foolish Things」は8分を超える作品で、ちょうど前回レビュウした「ワルツ・フォー・デビー」のタイトル・チューンを思わせるスポーティーなスウィング感と小気味よいフレージングでもって、ヘイゼルタインをらしさをたっぷり味わえる作品になっています。10曲目「Midnight Waltz」はタイトル通りジャズワルツですが、全体に洗練されたムード仕上げていて、これまたアルバムでは聴きどころのひとつといった感じでしょうか。

 一方、オリジナル作品ですが、4曲目の「Concentration」は軽快にスウィングするヘイゼルタインらしい作品、5曲目の「Catherine's Fantasy」はモードっぽい音運びのバラード等々、6曲目の「One for Peter」はピパップ、8曲目の「My Stuff's on the Street Blues」はブルースといった具合に、とにかくいろいろなスタイルに挑戦し、どれもそつなくこなしているという印象で、全体に調子よく聴けることは確かなですが、スタンダードに比べると、曲としてどうもいまひとつ決め手に欠ける感もなくもないです。
 ちなみにピーター・ワシントンは、ビル・チャーラップの時の同様、非常に端正で隙のないエレガントといいたいようなプレイを展開して、個人的にもかなり好感度が高いのですが、ルイス・ヘイスという人のドラムは、例によってとっ散らかった感じがどうしてもしてしまい、個人的にはいまひとつ好きになれないので、トリオとしての魅力はプラマイゼロといったところですかね。
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デヴィッド・ヘイゼルタイン・トリオ/ワルツ・フォー・デビー

2007年03月05日 00時28分51秒 | JAZZ-Piano Trio
 ヴィーナス・レーベルでビル・チャーラップと並ぶ看板ピアニスト、デビッド・ヘイゼルタインの同レーベル第1作。ヴィーナス・レーベルは海外のマイナー・ジャズ・レーベルの中堅アーティストをよく引っ張ってきますが、ヘイゼルタインもそうでシャープナインというレーベルで活躍しているところをつれてきたようです。もっとも、彼の場合、どうやらシャープナインだけではなく他のレーベルからも様々なフォーマットによる作品を出しているようで、非常に多作、しかも内容もかなりバラエティに富んでいるため、逆に個性が拡散してしまい、そのあたりで逆に損しているような気もします。

 このアルバムでは、ビル・エヴァンスが作った曲に焦点をあて、ヴィーナス・レーベルらしい、ハードパップ~モード期のジャズをモデルにした演奏スタイルをとっています(ベースはジョージ・ムラーツ、ドラムスがビリー・ドラモンドというあたりで大体音楽が見えてくる人も多いでしょうが-笑)。ヘイゼルタインもその意向を汲んでか、オーソドックスでスタンダードなスタイルを守りつつ、今時のジャズ・ピアニストらしいリズムのシャープさ、様々なスタイルを縦横に駆使する秀才らしさを発揮しているという感じです。また演奏時間も7分,8分にも及ぶ比較的長い曲も多く、そこではピル・エヴァンス・トリオ的なインタープレイもほどよく取り入れ(ただし、ビル・エヴァンス的な陰影のようなものはあまりないです)、よどみないインプロビゼーションを繰り出しているあたりは、なかなかのものです。

 曲としては、タイトル曲にもなっている「ワルツ・フォー・デビー」がまずは素晴らしい出来です。このエレガントなパラードを妙にあっけらかんと演奏しているところに違和感を覚える向きもあろうかとは思いますが、そのピアノの小気味よさ、トリオ全体がきっちりとまとまって進んでいく、ある種の爽快感のようなものは、ヘイゼルタインらしい魅力なんだろうと思います。また4曲目の「ショー・タイム・チューン」もほ同様な美点ある演奏。一方7曲目の「ファィンカレロ」では、モード風な演奏を展開して、この人の器用さを感じさせますし、8曲目の「ザ・トゥー・ロンリー・ピープル」のしっとりとしたムードもなかなかです。という訳で、実はこのアルバムけっこうな愛聴盤です。このアルバムの何曲かと、彼の参加したワン・フォー・オールの曲を併せた作った自家製コンピレーションは、ここ数年車やiPodの常連となってます。
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エンリコ・ピエラヌンツィ/チャント・オブ・タイム

2007年03月03日 01時31分43秒 | JAZZ-Piano Trio
 97年の収録でエンリコ・ピエラヌンツィが日本のアルファ・ジャズに残した2枚のうちのひとつです。ちなみにもう一枚の方は一昨年取り上げた「ザ・ナイト・ゴーン・バイ」ですが、両作品ともに彼らしからぬスタンダード・ナンバーが多くメロディアスで、そしてフリー・ジャズ的要素が希薄をあまり全面に出さず、オシャレなジャズBGMとしてもいけそう....といった特徴があるのは、おそらく日本からのリクエストに応えたものだったんでしょう。ただし、「ザ・ナイト・ゴーン・バイ」のドラムスがポール・モチアンだったのに対し、本作のドラムはジョーイ・バロンであるせいか、より「素のピエラヌンツィ」に近いような気配が感じられます。

 内容をざっとさらっておきましょう。1曲目は「チアキ」というオリジナル作品ですが、メランコリックな風情を湛えた冷たく美しい旋律をもった曲で、さざ波のようなアルペジオが寄せては返しつつ、何度もテーマを繰り替えすという構成も印象的で、いかにもピエラヌンツィらしいエレガントさが楽しめます。2曲目の「セプテンバー・ワルツ」は前曲と似たような雰囲気ですが、もう少しジャズ的なインタープレイを全面に出しています。4曲目の「ネフェルティティ」はご存じショーターの名曲ですが、正直いってオリジナルは意味不明としか思えないあの曲が、ピエラヌンツィが弾くと理知的な響きをもった印象派風な作品として楽しめるのはやはり彼の審美眼故といったところでしょうか。6曲目のタイトル・チューンはピアノ・ソロとなっています。

 7曲目の「ジター・バック・ワルツ」はピエラヌンツィらしい、有名なスタンダードを奇妙な形で解体してしまう彼のセンスがよく出た作品ですが、独特のシャープなリズムでもって、あまりフリージャズという感じがしないのが、この人の真骨頂といえるかも。8曲目の「ベリー・アーリー」はお馴染みビル・エヴァンスの作品ですが、無調風にあのテーマを演奏した後、いかにもビル・エヴァンス・トリオ風な音楽から徐々にフリーな感じに変貌していくあたりはなかなかスリリングです。9曲目の「フール・オン・ザ・ヒル」はかの名曲を印象派とゴスペルが入り交じったようなソロで展開。12曲目の「サプライズ・アンサー」はブルージーかつファンキーなリズムでもって、トリオが比較的フリーな展開をしていきます。アーシーな感じと冷たい彫像を思わせるタッチが共存しているのは、いかにもピエラヌンツィ....といったところです。
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