UGUG・GGIのかしこばか日記 

びわ湖畔を彷徨する独居性誇大妄想性イチャモン性前期高齢者の独白

裁判官もマスコミも、あの「スプリング8」という印籠の威光に目がくらんでしまった?・・・

2013-09-02 00:51:29 | 日記


今夜は冤罪についての話です、面白いといった類のものではありません。お暇でしたら、しばらくおつき合いください。

8月の末、9月26日、京都の深草というところにある龍谷大学の会館(紫光館)で公開シンポジウムがありました。主催と後援は龍谷大学法科大学院や同大学の「矯正・保護総合センター」などでありました

タイトルは「刑事裁判と科学鑑定-和歌山カレー事件における科学鑑定の意味-」、台湾出身の米国人学者(専門:毒性学、生物兵器)、再審弁護団の弁護士、蛍光X線分析に詳しい京大の先生などがパネリストを務め、会場の参加者のなかには再審に関わっている、死刑囚の弁護を数多く経験されている安田好弘弁護士や弁護側の鑑定人を務めた専門家もおられました

参加者は60人ほど、議論の内容は抽象的な法律論ではなく、和歌山カレー事件に関連した実際の科学(化学)的なデータ(分析結果を示す図表、グラフ、生データなど)に基づいた極めて具体的なものでした、科学的なデータに基づいてのこの事件における冤罪の可能性の有無が議論されました

事件の概要は以下の通りです

1998年7月25日、みかんの産地で知られる和歌山県園部の夏祭り会場で提供されたカレーを食べた住民が、つぎつぎと嘔吐などの症状に苦しみ、被害者67名のうち死者4名を出す事件が起きました 
同年10月4日、Hさんが別件で逮捕され、12月9日にこの事件の被疑者として再逮捕され、12月29日に起訴されました
Hさんは逮捕当初から一審まで完全黙秘を貫き、控訴審から現在に至るまで否認を続けています

裁判の経過は以下の通りです
裁判では、被告人の有罪を立証する直接証拠は存在せず、検察側は、間接事実によって犯人であることを立証しようとしました 
2002年12月11日、和歌山地裁判決:有罪・死刑
2005年6月28日、大阪高裁、控訴棄却
2009年4月21日、最高裁、上告棄却(死刑確定)
2013年現在、再審請求中

この裁判の核心は毒物として使用された亜ヒ酸(ヒ素化合物の一種)に関する科学鑑定でした。すなわち、被疑者とされたHさん宅の台所にあったプラスチック容器に付着していた亜ヒ酸と毒物が入れられたカレー鍋の近くで発見された紙コップに付着していた亜ヒ酸とカレー中に含まれていた亜ヒ酸が同一の物質であるか否かが焦点となりました(Hさんが台所から青色紙コップに入れて現場まで運びカレー鍋に投入後、この紙コップがゴミとして捨てられたと考えられています)。この三つの亜ヒ酸がまったく同一の物質でなければHさんを犯人として特定できないからです

ここでお手数ですが写真をクリックしてご覧ください。この三つの亜ヒ酸の関係が示されています

使用された亜ヒ酸の元となったのは、天然物である鉱石から分離して中国の工場で製造された工業製品である、亜ヒ酸を主な成分としてヒ素剤です。ヒ素剤には、亜ヒ酸以外に様々な化学物質が不純物として含まれています。このため鑑定に際しては、これらの不純物の組成や量が同じであるかどうかが大きな問題になりました。不純物の組成や量が異なれば、たとえ亜ヒ酸が主成分として含まれていても、異なる物質であるということになるからです。同一物質であるかどうかを判定するには、その異同を明らかにするができる精密な方法による化学分析を行うことが必要とされます。

この分析のために検察側が採用したのは当時の最新鋭の分析施設「スプリング8」(Super Photon ring-8 GeV)でした。これは兵庫県の播磨科学公園都市内に1300億円をかけて建設された世界最高クラスの、X線を用いた大型放射光施設であり、「蓄積リング」と称される円形加速器の円周が1400メートル以上もあるという巨大な施設です

この施設の使用開始は1997年のことでしたが、和歌山カレー事件の資料(試料)の分析がこの施設を用いて行われたのは使用開始直後のことでした。このため、「スプリング8」はマスコミで大きく取りあげられ、当時大きな話題となりました。

スプリング8を用いた分析の結果、Hさん宅の台所にあったシロアリ駆除剤(亜ヒ酸)に含まれていた微量の不純物元素(モリブデン、スズ、アンチモン、ビスマス)のパターンとカレー鍋の傍で見つかった紙コップに付着していたヒ素剤中の微量元素のパターンが一致していることが示されました。そしてこの微量元素の分析結果が決め手となって、Hさんに死刑判決が下され、事件が解決されたものと思われました。

この分析の鑑定書は、鑑定を行った中井泉氏の弁によれば「最高裁判所で最重要証拠として採用」されたとのことです。しかしながら、裁判に提出された鑑定書の解説をしてほしいとの依頼を再審請求弁護団から受けた蛍光X線分光学の専門家である京都大学教授の河合潤氏は、鑑定資料(試料) の生データを解析し直したところ、「実はスプリング8の果たした役割は大きくなく、また鑑定の結果は被疑者の死刑判決を確定づけるに十分ではなかった可能性が出てきた」(「現代科学」2013年6月号、東京化学同人刊)と判決に疑義を呈しています。

河合氏は「X線分析の進歩」誌第43号(2012年3月)、同誌44号(2013年3月)で以下のように述べています。

「鑑定で用いられた蛍光X線スペクトル生データを解析しなおした・・・鑑定で無視された軽元素(原子量が小さい、質量が軽い元素)のパターンを比較したところ、Hさん宅から発見されたヒ素は、紙コップに付着したヒ素とは異なることが判明した」

その結果、弁護団はこの河合氏の分析を踏まえて、2013年2月末に再審請求補充書を提出し、亜ヒ酸の異同識別について再鑑定を求めています。

シンポジウムでは河合教授も出席され、鑑定の生データが示されているスライドを何枚も示しながら、具体的な説明をされました。同教授はHさん宅のあったプラスチック容器にあったヒ素剤と紙コップに付着していたヒ素剤に関して、見た目には異なっていると思われる二つの分析スペクトルの図を示して、これらの二つのスペクトルが違っているならば、Hさんが無実か、警察は凶器となったヒ素剤をいまだに発見できていないことになると指摘しておられました。また、同教授はこれらの二つのスペクトルにおいて主成分の亜ヒ酸の含有量が大きく異なっている(台所のプラスチック容器にあったヒ素剤のほうが亜ヒ酸の含有率が低い)ことを示して、「紙コップに移しただけで含有率が高くなるなんて、まったく不思議だ」とも指摘しておられました

もちろん分析に供された試料の状態(均一性など)が異なっていることなど、
何らかの要因が原因で、同じ物質が異なったパターンを示す可能性が存在していないとは言えません。この点に関して、同教授は前述の科学誌「現代科学」で、「今後、新たな分析を行い、これらの二つの試料が一致するか否か、したがってHさんが有罪か否かの決定的な証拠を得ることが必要です。鉄や亜鉛だけではなく、カルシウム、リン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウムなどの軽元素についても異同を示す必要があります。もし一つでも違っていたら、(ヒ素剤が入れられていた容器の)洗浄によって成分比が変化したことを証明しないかぎり、逆に無実の証明になります。1998年当時、世界に誇るスプリング8で犯人が確定したということになってしまったので、こうした軽元素の分析が軽視されたことは残念なことでした」と記しておられます。

GGI、複雑な科学データを中心とした話でありましたので十分に理解できたとはとても言い難いのですが、様々な説明を聞いての感想は、やっぱりあの高名な「スプリング8」とやらに裁判官もマスコミ諸氏も世間もやられてしまったのや、スプリング8という世界最高水準の新鋭分析施設でヒ素剤を分析することにした検察側の作戦勝ちではなかったかというものです。

「世界最高水準の新鋭・巨大分析施設で分析したのであるぞ、その分析精度は稀にみるものであり、その分析結果に間違いがあろうはずはない、おのおの方、このスプリング8という輝かしき印籠が目に入らぬか!」というわけです。スプリング8という印籠の威光に、裁判官もマスコミ諸氏も目が眩んでしまったのではないか・・・・これがGGIの偽らざる感想であります

GGIは知人らといっしょに、昨秋、袴田事件の関係者や湖国の事件である「日野町事件」の関係者などに協力していただき(このいずれの事件も日本弁護士連合会が冤罪事件として支援しています)冤罪に関する講演会を催したことがあり、冤罪問題には関心をもっておりました。しかしながら、和歌山カレー事件については、マスコミの過剰報道が問題ではあったものの、正直に申しまして、いわゆる状況証拠とされている事柄などから、やはりHさんが犯人ではないのかと疑っていました。ですからこのシンポジウムにも半信半疑で参加したのでした。

でも、いまは、河合教授や弁護士さんなどの話を聞いた限りでは、少なくともHさんが犯人であると断定するには、今の状況では不十分であるとGGIは考えます。鑑定結果は、たとえHさんが犯人ではないかと疑われるものであるとしても 犯人と断定するに足るものではないものと考えられます。

裁判には「疑わしきは被告人の利益に」という原則があります。疑わしいというだけで被告人に不利益をもたらしてはならない、すなわち被告人を罰してはならないということです。刑事裁判においては検察側が立証責任を負うが、被告人が不利な内容について被告人側が合理的な疑いを提示できた場合には被告人に対して有利に(=検察側にとっては不利に)事実認定する、ということを意味するとされています

関係者の努力により、現在、Hさんが犯人であるとすることに「合理的な疑い」が存在していると言えるのでしょう。したがって、この裁判の原則は日本の裁判においては十分に尊重されているとは言い難いのですが、最高裁はこの原則に基づき再審開始の判断を下し、審理を行うべきだと考えられます。

(続くかもしれませんが・・・)

グッドナイト・グッドラック!


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