tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

賃金と物価が上がっていない:経済成長も!

2022年10月10日 15時45分57秒 | 経済
前回見てきましたように日本経済の特徴として、経済成長は何とか政府の最低目標実質1%成長に近い所まで行っていますが、賃金と物価が異常と思えるほど上がっていないということが解ります。

欧米諸国では輸入物価が上がれば国内の賃金・物価も上がり、経済活動も刺激され、最近のようにインフレが昂進し、これは大変と中央銀行の金融引き締めとなります。
例えばアメリカでは新車が12%、中古車が16%も値上りしました。便乗値上げも沢山あるようです。

組合結成も相次ぎ、賃金も上がりました。物の値段も人件費も、プライス・メカニズム(価格機構)が増幅して物価も賃金も大幅に上がるのです。

日本はどうでしょうか。輸入物価が上がっても、国内価格に価格転嫁することは容易ではありません。
輸入物価が上がることは値上がり分だけ日本の富が海外に流出する事ですから、その損は日本人全体が負担するしかないのです。

所が日本では、国内価格に転嫁するのが難しいので、輸入部門に近い所に負担が偏ります。そして、政府は人気が落ちないように、赤字国債を増発、補助金を(例えば石油元売りに)出します。その結果、価格機構は健全に働かず、政府の借金が増えます。

輸入原材料の国内価格転嫁は時間をかけて細々行われ、消費者物価まではなかなか行きつきませんから、消費者物価は上がりません。

例えば加工食品業などでは利益圧縮、賃金抑制、正社員の非正規への切り替え、ステルス値上げ(量目を減らす)などで凌いで来ましたが、もうこれが限界だと居直って(言葉が悪いですね)最近の値上げラッシュになっているのです。

物価が上がらないので、連合も賃上げ要求はいつも控えめで「望ましい経済成長2%に定昇」程度、結局経済成長は1%足らずですから、2%前後で仕方ないと納得でしょうか。

実は定昇というのは次第に小さくなっていて、特に団塊の世代が定年なれば賃金は大きく下がりますから、「昇」かどうかは解らないと言えそうですし、正社員退職を非正規で補充など年齢構造、雇用構造の変化で、平均賃金は上がらない事もあります。

こうして物価も上がらない、賃金も上がらないという事で、政府・日銀の想定した2%インフレターゲット(賃上げ3%、経済成長1%、物価上昇2%)というシナリオはまったくの画餅になりました。

賃金と物価が適切に、プライス・メカニズム(価格機構)を潤滑油にして、経済成長を促進するといった構図が達成されなかった大きな理由は、政府が「価格機構」の正常な活動(欧米の場合は正常より過剰)を妨げて来ていたという面が大きかった事が見て取れます。

その最大の原因は、得票を減らす可能性の大きい消費税増税の必要に迫られる中で、物価上昇を何とか抑えたかったことが大きな要因だったのでしょう。

価格機構の正常な働きによって経済成長を押し上げることが出来なかった政府は何とか経済成長率を上げようと遮二無二努力した結果が、赤字国債発行、膨大なバラマキ路線という事で、国家財政を再建不能状態に悪化させるまでになったという事でしょう。

結局は、経済成長より、当面の「人気」、選挙の「票」が大事という民主主義のポピュリズム化の結果という事になりそうです。

加えて、少子高齢化で年金危機や老後不安を煽るなど、国民の経済活動を阻害する面もあり最大の問題は、自民党の政策として、「格差社会化を容認」してきたという深刻な背景があるのですが、これについてはすでに書いて来ています