tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

円安:補助金ではなく、基本的対応策を考える!

2022年10月19日 14時11分42秒 | 経済
前回は石油など国際商品の価格高騰による輸入物価高騰への本来の対応策の問題でしたが、今回は円安問題についてです。

今日現在、両方が一緒に起きていて、輸入物価が上がるという共通点もあるので、ごっちゃにされて補助金や給付金の話ばかりですが、本格的に整理するとどうなるかです。

先ず、前回指摘のように国際商品の高騰は、輸入国(日本)の富が輸出国(たとえば産油国)への一方的な流出でしたが、円安の場合は日本の富の直接の流出はありません。
(但し、輸入はあるが、輸出はないという国があれば、国際価格上昇と同じです)

日本の場合は、今回の問題が起きる前は輸入依存度、輸出依存度ともほぼGDPの10%で貿易収支もほぼチャラという事でしたから解り易いことになります。

前回と同じように100兆円GDPで輸出入がそれぞれ10兆円と仮定し、為替レートが50%円安になったとします。
第1の影響は、同じ輸入をしても15兆円かかります。その代わり同じ輸出をすれば円にすれば15兆円の売り上げになります。

輸入関連企業は大変で、輸出次関連企業はウハウハです。
これは企業努力の結果では無くて、代表的には日米の金融政策の結果です。
理論的には、輸出関連の差益の5兆円を政府か日銀にプールして、輸入部門の差損の5兆円の補填に充てれば、チャラになる性格のものです。(それが出来なければスムーズな価格転嫁と賃上げを必要な要件として認める、後述)

もう1つの問題は、50%の円安が日本経済にいかなる影響を与えるかです。インバウンドの数は急増するでしょう。国際競争力のなかった日本の商品が、国際競争力を獲得、輸出は伸びるでしょう。

黒田総裁が言う「円安になっているが、総合的には日本経済にプラス」というのはこの点を指しているのでしょう。
戦前、自国通貨が安い方が輸出競争力もつき、経済にプラスという事で、為替切り下げ競争があって、これが「為替ダンピング」「近隣窮乏化政策」と言われた所以です。

円安にはこうしてメリットがありますが、円高の場合は、この逆が起きます。日本はプラザ合意とリーマンショックで円を2~3倍に切り上げられ、世界一物価も賃金も高い国になって、30年間の円高不況に苦しみました。

2013~14年、黒田総裁の2発の黒田バズーカによって、円レートが80円から120円(50%)の円安になり、円高不況から脱出できたことは記憶に新しい所です。

この時は、日本経済の実力以上の円高を、実力に合った程度に修正した円安という事で、日本中大喜びでした。

しかし今回の50%近い円安は、同じ円安なのに政府の心配の種になっているのです。
物価が上がるのが心配だと言っても、黒田バズーカの時も2014年には2.8%上がっていますが誰も心配しませんでした。

今回は何が違うのでしょうか。多分前回は円レートの実力に合った水準への修正、今回は実力相応の所から異常な円安への動きだからでしょう。外国の目が気にしなるのでしょうし、物価上昇で実質賃金の低下、政権の人気低迷を恐れるのでしょう。

黒田さんは、いずれ物価上昇も止まる、円安は円高に流れを変えるだろうと読んでいるのでしょう。少し長い目で見ればこの方が当たりでしょう。

なにせ欧米は8~10%のインフレ、日本は3%のインフレですから。放置すれば「日本の物価は安すぎる。もっと円高にすべきだ」とプラザ合意の二の舞になることを恐れは十分考えられるところです。

この対策としては、輸入物価の国内物価への価格転嫁を徹底的にスムーズにすること(これは為替差益と差損の相殺のためです)、その上で、物価上昇と遅れに遅れている賃金引き上げについて、労使と十分な協議、コミュニケーションの徹底が必要でしょう。

折しも、連合が5%の賃上げ要求の方針を出しました。政労使のコミュニケーションの必要性が強く感じられるところです。

賃上げをして、多少インフレになっても、欧米諸国よりインフレ率が高くならなければ実害はありません。その程度のインフレにして、インフレ景気を呼び寄せようというのが、もともとの政府・日銀の「インフレ目標2%」だったのですから。