tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

今日の付加価値分配で明日の経済が変わる

2020年09月28日 14時44分30秒 | 経済
経済成長を可能にする付加価値の使い方-2

 このブログのタイトルで「人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか」と書きました。
実は付加価値を「創る」ことも大事ですが、それをどう「使う」かも同じように、場合によってはより大事な場合もあるのです。

 前の 付加価値シリーズの2でも書きましたように、生産された付加価値は、生産の2要素、人間(経済学では労働)と資本に分配されます。労働への分配と資本への分配の合計は100%ですが、このうち、労働への分配の割合を「労働分配率」といって、これは、労働経済学や労使関係では最も重要な比率になっています。

 理由は、往々にして、資本家は自分への配分を増やしたいので、労働分配率を低く抑えたいと考え、働く人間(労働)の方は経済の成長に見合った賃金の上昇が当然と賃上げ要求をする(時には行き過ぎた要求もありますが)という形で、労使交渉が行われ、「現実には、その結果が、GDPの資本と人間(注)への分配を決定」することになるからです。

 ところで、「人間への分配」は、人間生活をより豊かで快適なものにするために必要な分配であり、資本への分配は、それによって生産設備、生産技術の開発・高度化を行い、明日の付加価値生産をより大きくする(経済成長を促進する)ためのものです。

 勿論これは理想的な状態の表現です。経済の安定的な均衡成長が実現するためには、人間(この場合は消費者)と資本への分配が適切に行われ、その結果消費は着実に増えて生活は改善し、資本への分配は、設備の高度化や、新しい技術開発に有効に使われ、明日の付加価値生産を増加させる(経済成長の実現)という形が最も望ましいという事です。
 
 しかし現実にはこの分配関係は歪みます。マルクスの時代には、資本家は賃金を上げずに労働者を搾取し、農民や労働者の蜂起で革命がおきたり(ロシア革命など)、労働分配率が低く消費が不足して世界恐慌(1929年)が起きたりしました。

 その後労働組合の発展や、経営者革命(資本家から経営者へ)などもあり、戦後の1960年代は人間と資本の分配が適切で、世界中で経済が成長し良かったのですが(ピケティが例外的に良かったという時代)、1970年代になると先進国では労働組合の賃金要求が過大になり企業利益は減り、経済が成長しないのにインフレ高進というスタグフレーションの時代が来たりしました。

 その後、国別にはいろいろな状況がありましたが、21世紀に入ると、所謂「成長の限界」論が、エネルギー問題(地球環境問題)として成長を阻害する状況になってきたようです。
 
 前回の最後に書きましたが、この問題は、人類が、(化石燃料や核分裂によるエネルギーから)再生可能エネルギー中心の経済発展に、まさに巨大な新エネルギー転換事業をやっていかなければならない問題ですので、そのためにどれだけの資本投下が必要かを考え、場合によっては新エネルギー開発のために、資本への分け前を増やさなければならないという問題につながる可能性が高い様に思われます。

 わが国でも、電力料金の値上げの問題が議論になっていますが、これは、インフレという形で労働への分配を電力会社に移転させることで、実質的には労働分配率の低下です。
 ただ、これが新エネルギー開発の原資になるのか、原発の後処理に使われるのかは、これからの問題で、前向きの投資にはまだ時間がかかるのでしょう。
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(注)人間は生産者と消費者の両面を持っています。その人間が、資本を上手に使って生産性を上げ、付加価値を増やし、それを消費してより豊かで快適な生活を実現するという視点からです。