Altered Notes

Something New.

映画『風の谷のナウシカ』イメージソングについて

2023-06-17 15:20:00 | 音楽
映画「風の谷のナウシカ」のイメージソングに関してハフィントンポストが下記の記事を配信している。

『『風の谷のナウシカ』の「幻のテーマソング」がこれだ。大物たちの秘話を追った』

『『風の谷のナウシカ』のミステリー。安田成美さんのテーマソングが上映時に流れた?スタジオジブリの回答は…』

筆者は「風の谷のナウシカ」をロードショー公開当時にリアルタイムに映画館で鑑賞(10回近く観ている)した。安田成美さんが歌った例のイメージソングの存在も知ってはいたが、それが「映画作品内で流れない」事も知っていた。当時、アニメや映画に詳しい人なら大抵知っていた事実だが、ハフィントンポストの記者は若いので知らないのであろう。
なお、上映時間でない時、つまり休憩中に映画館内のBGMとして鳴っていたのは覚えている。「エンディングで流れたかも」と言っている人は恐らく休憩中のBGMを勘違いしたのだろう。

ハフィントンポストの記者は「せっかく大物音楽家(作詞:松本隆、作曲:細野晴臣)に作ってもらった曲を映画内で使わない理由は何か」という趣旨で記事を書いたようだが、映画本編を観て、そして安田成美さんが歌うイメージソングを聴いて、この両者が「合う」と思っているのなら相当の阿呆である。ハフポストの記者は音楽的感性・映画的感性がゼロな人間と言えよう。

映画本編は人類の運命に関わる壮大なテーマをシリアスに描いたものだが、この細野氏作曲のイメージソングは(歌詞も合わせて)映画のコンセプトとはあまり相容れないものである。それが一聴して分からないハフポストの記者には呆れるしかない。

このイメージソングは徳間書店や博報堂などのプロモーションを行うセクションがキャンペーンの一貫としてやったものであろうが、仮にこの曲がエンディングで流れたら、それまで綴ってきたナウシカの世界が一瞬で崩れてしまうほど呑気でホンワカした曲に聴こえてしまう。それほど映画のコンセプトとは乖離した曲である。高畑プロデューサーや宮崎監督がエンディングテーマへの起用に反対するのは「当たり前」であり、それが想像できないハフポストの記者は…これはもういいか。(笑) (*1)

映画本編の音楽を担当した久石譲氏も次のように述懐している。

「『風の谷のナウシカ』には、予告編やテレビCFで盛んに流されていたイメージ・ソング(今や女優として第一線で活躍している安田成美さんが歌っていた)があった。それを本編のラストでエンディング・テーマとして流したいという提案が、徳間のほうからあった。
が、作品としては、絶対に流さないほうがいい。これは、監督、プロデューサー、そして僕の三人のなかに強烈にあった。(中略)製作会社の徳間としては、どうしてもこの歌を入れたかったらしい。そこで、作家の精神というものを貫いたのが、プロデューサーの高畑さんだった。
文字どおり、体を張って、強硬に反対した。その姿には、本当に胸を打たれた。」
(久石譲『I am —遥かなる音楽の道へ—』メディアファクトリー刊)


全くその通りなのである。

細野氏は作曲前に宮崎監督に会って映画の内容について詳しく取材はしたようだが、あくまでありきたりな「ポップス」にしてしまったのが最大の敗因であろう。(*2) しかもこの作曲には大きな条件がある。当時の安田成美さんは新人であり、歌の素人でもあった。…ということは、あまり凝ったメロディーラインは書けない事になる。新人に難しいメロディーやリズムをあてがったり、高い歌唱能力を求めるのは無理に近い。実際にあのイメージソングを聴くと、メロディーラインの音域の幅が狭い事が分かる。素人に近い新人でもなんとかこなせる程度の歌でなければならなかったのである。そちらを優先させるならば、「映画のコンセプトを表現した曲」など最初から無理というものだ。そして、こうした作曲上の条件などはマスメディアで公式に語れる事ではない。

細野氏はエンディングテーマとして使ってもらえなかったことに不満があったようだが、真摯に、虚心坦懐にあの映画を鑑賞するならば、あの曲があの映画に「合う訳がない」ことは明白であった筈だ。それが分からない細野氏ではないと筆者は信じている。




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(*1)
ハフポストの記者は「日本テレビでの放送で初めて本編を見た。あんなにCMで流れていた歌が流れず、拍子抜けだった記憶がある。」と記しているが、これが何よりこの記者の感性が致命的に貧弱であることを雄弁に示している文言と言えよう。

(*2)
徳間書店はこの曲をヒットチャートに乗る商品として売りたかったようで、映画作家としての宮崎監督の意向とはそもそも根本的にずれていたのである。






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