坂道グループなどのアイドルや若い役者・タレント界隈から時おり聞こえてくる「本音の吐露」とでも言うべき言葉がある。
「普通の青春が送れない」
「普通の恋愛ができない」
「一般の学生が楽しんでいるような生活が出来ない」
・・・等々という不平不満である。
だが、これらの不満は「図々しい」と言わざるを得ない。以前、別の記事でも書いた事だが、アイドルを含めた芸能人はそもそも一般庶民とは比較にならないほど恵まれた環境に置かれており、数々の特権を有し、普通の人々では考えられない高給を取り、一般人とは隔絶された上級世界の住人である。もちろん、その世界には厳しさもある(一般の世界だって厳しい)が、しかし一般庶民には手の届かないリッチで全てが優遇され恵まれた世界が確約されているのである。
例えば、坂道グループのメンバーは、そもそも眩しいほどのスポットライトを浴びてスターとしての羨望を受ける立場だ。これは一般人には逆立ちしても無理な世界である。その上、坂道アイドルはしばしば「この間の休暇に海外旅行に行ってきた」「1日だけ休みが取れたから海外に弾丸旅行に行ってきた」などと当たり前のように話すのだが、海外旅行など、一般の社会人にはそう簡単に実現できないものだ。芸能人は自分たちが置かれている境遇がいかに恵まれていて、経済的にも一般人とは次元が違う潤いがあるからそれが実現できるのだ、という相対的なポジションの格差について自覚が無いのであろう。平易に言い換えれば、一般の人にはお金も時間も無いのであり、ちょっと休みができたから海外に気軽に飛んでいけるような芸当は不可能なのだ。それが若年層の芸能人には意識もできないし理解もできてないのである。
「上級国民」という言葉が近年使われ始めているが、その意味で言えば、芸能人は一種の「上級国民」に該当すると言えよう。一般人には手の届かないリッチで豊かな暮らしと楽しみを享受することが当たり前…な生活・人生が芸能人には与えられ、そうして醸成された価値観が芸能人の無意識に定着しているのだ。一般国民とは異なる別世界である。
その一方で・・・
上述したように、「私たちは(芸能人故に)普通の学校生活が送れない」と宣う。芸能人故に一般的な生活や普通の友人関係はなかなか構築できないのが普通かもしれない。なぜなら芸能人であり、一般人とは別世界の人間だからだ。ところが、アイドルは一般人の人生に於いて得られるささやかな楽しみすら「私たちもそれを得たい」と言うのである。
平易に言い換えれば、「芸能人のメリットも寄越せ。一般人の楽しみも寄越せ」と言っているのである。(もちろん全ての芸能人・アイドルがこの姿勢を持っている訳ではないが)
ここが「気持ちは分かる」としながらも「ちょっと違うのではないか」と手放しで賛同できかねるモヤモヤ感が払拭できないところなのである。
どうしてそうなるのか?
アイドル等の芸能人とファンを含む一般人との関係は
モラルエコノミー(経済道徳論)
の考え方で把握するのが正しい捉え方であると言えよう。芸能人は選ばれた立場であるが故に一般人よりもはるかに上級なポジションに鎮座しており、一種の特権的な存在と言える。
モラルエコノミーに於いては
「特権というものはそれを持たない人への義務に依って釣り合いが保たれるべきである」
…と解釈されるものである。
すなわち、「芸能人は社会の規範となるように振る舞うべき存在」、つまり「社会的責任を負う立場である」、ということだ。ここで言っている「社会の規範」とは「社会一般の常識的な規範」は当然だが、それに加えて、「自分たちのファンの心を傷つけたりしない」、「夢を壊さない振る舞い」なども含まれるのである。
タレント・アイドルといった職掌を持つ人々は「社会に於いて人気者として君臨しており、世間一般の好感度によって支えられている」のが実態である。こうした人々は「社会の規範に対してこれを強く遵守することでその存在をより純化するような役割」がある。これがモラルエコノミーの考え方なのである。
一般的にありがちな一例として、「アイドルの恋愛が発覚した」等の事態で問題発生となるのは、単純に「倫理や道徳の問題」というよりも「モラルエコノミーの問題」として捉えた方がより正確と言えるだろう。ここをきちんと踏まえないから「アイドルにも恋愛する人権はある」などという的外れな議論が湧き出てくるのだ。
このように
「アイドル・芸能人という一般人よりもはるかに上級なポジションに位置しつつ特権を振りかざす人間が高いレベルの社会規範遵守を求められる」
という考え方は
「ノブレス・オブリージュ」
というフランス語でも既に説明されている。「ノブレス・オブリージュ」とは「高貴なる義務」である。
歴史的事実として、昔の欧州で戦争に参加するのは貴族の子弟だけだった。平民は後方支援することはあっても戦争自体に参加することはなかった。
なぜか。
上位の地位にある者は、より血を流し苦労する責務が求められたからだ。それは前述のように特権を持つ者がそれを持たない人たちへの義務によってバランスが保たれるからである。
アイドル・芸能人には特に高いモラルが求められる理由はここにあるのだ。
この観点から、アイドルの世界で暗黙のルールとして有名な「恋愛禁止」も前述の「高貴なる義務」として捉えることができるのだし、「(一般人として)普通の青春を楽しみたい」という欲望がいかに「的外れ」であるかも理解できるだろう。「芸能人の特権も得たいし、一般人の楽しみも得たい。どっちも欲しい」・・・それはいささか「図々しい」と言わざるを得ないだろう。
上述したように一般人の中には「アイドルにも人権はある。だから恋愛も自由だ」と主張して止まない人々も居る。しかし実際には「アイドルに人権は無い」と言い切れる。(*1)
アイドルはポピュリズム・人気によって支えられている職業なのだから、「高いレベルで社会の規範を遵守し、かつ顧客たるファン層が抱くイメージを保つ事が強く求められる」・・・そういうことなのである。
坂道グループでアイドルを務めるメンバー達は若年層であり、なかなか上述したような概念は理解しにくいかもしれないが、それでも理解させる努力をするのは運営会社の責務の一つと言えよう。
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(*1)
もちろん「法律的な人権」とは別の話である。
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