豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
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アルゼンチン家庭の食事

2012-06-10 09:59:52 | 南米で暮らす<歴史・文化・自然>

先に,アルゼンチンの主食は牛肉と書いたが,三食アサードを食べている訳ではない

朝食

メデイア・ルナ(半月形からこう呼ぶ,クロワッサン)にカフェ・コン・レッチエ(カフェ・オーレ)で済ますことが多い。これに,フゴ・デ・ナランハ(オレンジジュース)を飲むかフルーツを食べる人もいる。或いは,何も食べずに職場に来て,仕事前にマテ茶を飲みながらパンをかじったり,10時頃にふらっとカフェテリアで軽食したりする。 

少し上等なホテルの朝食は,パン,卵料理,果物,飲み物を並べたバイキングスタイルをよく見掛ける。ブラジルでは果物を豊富に並べることが多い。

 

パンと卵料理,コーヒーで食事した後,デザートとしてフルーツを食べるのが見慣れた順番だが,ある朝,数人のブラジル人が皿に山盛り取ってきた果物から食べ始めるのに気付いた。

「ん?・・・,フルーツを最初に食べるのはブラジルの習慣なの?」

友人に聞いたが答えはなかった。特殊事例だったのだろうか。 

 

昼食

家に帰って食事し,シエスタ(昼寝)して3時頃に出勤というケースが,昔は多かった。最近の都会ではこの慣習は少なくなっているようだが,夏場の熱い時期には理にかなった習慣だったのだろう。昼にはミラネッサ(カツ),パスタ(タジャリネ,スパゲッテイ,ラビオリ,ニョッキ),トルテイジャ(スペイン風卵焼き),ピザ,ギソ(煮込み料理)だったりする。

夕食

家族一緒にするのが一般的で,肉料理はアサードでなくフライパンで焼いたり揚げたり,野菜と一緒に煮たりと家庭の味付けで楽しんでいる。ロクロ(とうもろこしベースの煮込み料理),カルボラーナ(干しブドウなどを入れた煮込み料理),プチエロ(いも,ニンジン,肉類,ソーセージ等の煮込み料理)のような郷土料理もある。肉料理は価格が一番安い牛肉(Carne)が主で,次いで鶏肉(pollo, ave)が多い。豚肉(cerdo)はハム等に加工するものと考えている。ましてや,子豚の丸焼きなどはお祝いのときに食べるくらいだ。

パラグアイのスーパーで「合挽き」にと豚の挽肉を頼んだら,「豚をミンチにするのはもったいない,止めとけ」と諭されたことがある。

魚料理(pescado)もあるにはあるが,内陸部では新鮮なものがいつでも買えるわけでなく,食べる機会は少ない。

夕食のデザートは,プリンやケーキなど甘いものが多い。しかも大量に。これでは,ご婦人たちの体型が想像されるというものだ。

  

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ブエノス・アイレスの焼き肉レストラン,ラ・エスタンシア

2012-06-09 15:30:11 | 南米で暮らす<歴史・文化・自然>

ブエノス・アイレスのラバージェ通りにラ・エスタンシア(大牧場)という焼き肉レストランがある。入り口に置かれた子羊の丸焼き実演ウインドウを横目に店に入れば,広い店内にガウチョ姿のスタッフが目を引く。

その昔,子供たちと時々訪れたのを思い出して,三十年ぶりに店を訪れた

黒服のマネージャーが席に案内し,連れのために椅子を引く。マネージャーの合図で,年老いたモッソ(ウエイター)が,白いクロスとメニューを抱えてやってくる。

 

「こんにちは,いらっしゃい。おやおや,今日は三人のご婦人をご同伴で・・・」

ん,なに? 一瞬戸惑ったが目線を追えば,妻のシャツに三人の女性姿がデザインされている。なかなか,気が利くモッソだ。

 

メニューを開きながら,

「何がおすすめ?」

「パリジャーダ(肉と臓物の網焼き盛合せ)はいかが,ムイ(とても),ムイ(とても),エルモッソ(すばらしい)・・・」と手ぶりよろしく力が入る。昔この店で食べた子羊のアサード(コルデーロ)の味が頭をよぎるが,パリジャーダも久しぶりだ。

「ああ,それにしよう。それと・・・パパ・フリータ(フライド・ポテト)にエンサラーダ・ミクスタ(ミックス野菜サラダ)を」

 

「エンサラーダは,レチューガ(レタス),トマテ(トマト),セボージャ(タマネギ)で良いですか?」

OK,それにアグア・コン・ガス(ガス入りミネラルウオーター)とビノ・テイント(赤ワイン),“テラサス”はあるかい?」

「もちろん,ありますとも。少しお待ちください」

 

口ひげを蓄え,白髪モッソの左腕は曲がったままに見えた。飲み物や料理を載せたプレートを長年にわたり左手で支えるため曲がって固まってしまう。いわゆる職業病みたいなものだ。

上着を脱ぐと,すかさずモッソは白いクロスを掛けてくれる。

 

モッソが飲み物を運んでくる。私のグラスに,テステイングのワインを注ぐ。そして言葉を待つ。

「OK,美味しいよ」

モッソは,同伴者のグラスに注ぎ,私のグラスも満たす。

 

野菜サラダが来る。私が,塩とオリーブオイルで味を調える(大抵,男性がやっていますね)。

 

炭火の上に盛られたパリジャーダが来る。モッソは言う。

「熱いから気を付けて。これがコステイージャ(リブロース),これはコルデーロ(子羊),これはモルシージャ(血入り腸詰)でムイ・リコ(とても美味しい),これはチンチュリン(小腸),これはモジェハ(胸腺)・・・」

ところで貴方は,モルシージャを食べたことがあるだろうか。日本人は大抵の方が躊躇する。食感は少しモソッとするが,美味しい。同伴者はコラソン(鳥の心臓)が気に入っている。

 

食事の進み具合を見計らってモッソが来る。

「ポストレ(デザート)は如何ですか?」

同伴者に「何か食べる?」と聞くと,

「エラード(アイスクリーム)・アルメンドラード(アーモンド入りの)がいいわ」

「僕もそうしよう,二つお願いします」

「分かりました,セニョール」,モッソはメイン料理を片づける。

 

デザートも終わって,次のスケジュールの話でもしながら,担当のモッソを探す(担当があるのです)。目線があった所で,宙にサインするような手ぶりで合図する。モッソガ飛んでくる。

「ラ・クエンタ・ポール・ファボール(お勘定をお願いします)」

「シ,セニョール(かしこまりました)」,と伝票を取りに行く。

 

伝票を確認しチップを上積みして,モッソに渡す。おつりが必要なときは,モッソガ会計を済ませおつりを持ってきてからチップを挟んで渡す。

「どうも,ありがとう。とても美味しかったよ」

「有難うございました。良い週末を」

「さようなら」

 

店を出て,ラバージェ通りからフロリダ大通りを,腹ごなしに散歩する。この歩行者大通りは,夜でもウインドウ・ショッピングができて楽しい。

 

それにしても,南米では肉料理をよく食べた。

ビフェ・デ・チョリソ(牛ロース焼き),ロモ・デ・シャンピニオン(ヒレ肉のシャンピニオンソースかけ),パリジャーダ(肉と贓物の盛合せ炭火焼き),ミラネッサ・ナポリターナ(ミラノ風牛カツ)等々。これに,フライド・ポテト,ピューレや野菜サラダを付ける。パンは通常テーブルチャージに含まれる。アルゼンチンではパンにドウルセ・デ・レッチエ(クリーム状キャラメル)を塗って食べていたが,彼らはこれをママの味だという。

 

だが,年齢が進むと,魚料理やパスタを食べる頻度が増えてくる。イグアスの滝で知られるパラナ川のスルビは,見た目はナマズに似ているが淡白で美味しい。焼いたり,揚げたり,スープにして食べる。また,イタリアなどヨーロッパ系移住者が多い南米では,パスタ類も今や定着している。

 

機会があったら,ブエノスの焼き肉レストランへご一緒しませんか?

 

 

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アルゼンチンの主食はアサード

2012-06-08 15:15:08 | 南米で暮らす<歴史・文化・自然>

アルゼンチンの人々に「主食は?」と尋ねたら,ほとんどの人が「牛肉」と答えるだろう。それほどまでに牛肉はアルゼンチンの食卓に欠かせない。

料理法は,炭火で焼いたり,ジャガイモやニンジンと煮込んだり,油で揚げたりと多様であるが,アルゼンチンで最も一般的なのは「アサード」である。アサード(asado)とはスペイン語で「焼いた(過去分詞)」から転じ,肉の炭火焼き全般を言う。

 

アサード

本来アサードはガウチョ(牧童)の食文化を継承するもので,肉の塊を炭火で時間をかけてじっくり焼き上げる。パンパ平原で牛を追うガウチョたちの食事は,屠殺した牛のアサードだった。彼らは,たき火を囲んで肉を焼きながら,南十字星の下マテ茶を回し飲みしマルテイン・フィエロの冒険譚を奏でたという。

 

ところでアサードは,一人で食べるより,家族全員や友人知人を招いて大勢で食べるのが一般的である。どこの家の庭にもパリージャと呼ばれる焼肉用の設備があり,肉の調達から炭を熾し,肉を焼くのは男性の仕事となっている(ガウチョの伝統を意識しているのかも知れない)。味付けは,肉の味を尊重して塩と胡椒でシンプルに。その間,奥さんは台所でサラダとデザートを準備する。

 

肉が焼きあがる前から客人が集まりだし,セルベッサ(ビール)やビノ(ワイン)を片手に会話を楽しむ。初めに,チョリソ(腸詰)やモルシージャ(血が主体の腸詰)を摘みに宴が始まり,メインの牛肉に入るのが一般的である。牛肉の部位も,サーロイン(ビフェ・デ・チョリソ)からヒレ肉(ロモ),肋骨つき(コステイージャ),内臓まで多様である。客が大勢の場合は専門のアサドール(焼く人)を頼むこともあるが,通常はホストが肉の焼き具合から,切り取って客にサービスまで行う。

 

招待を受けた家族は返礼としてアサードを行うのが慣習で,社交の場となっている。

 

焼肉には経験が必要だ。

肉屋へ行って,この部位を○キロ,ヒレを1本(ヒレ肉は通常1本そのまま売る),ソーセージを○キロと注文するが,最初は戸惑う。肉の良し悪しが分かるはずもなく,肉屋の親父さんを頼ることになる。

 

「どの位の肉を準備したらいい?」,「一人700gは必要だね」

「どれが柔らかい?」,「ロミートだね」

「どれが美味しい?」,「コステイージャを持って行きな」

 

日本でもバーベキューをし,ルンペンストーブの着火も経験しているので,炭火くらいは熾せるが,

「ああ,だめだめ,まだ肉を載せないで。炭が完全に熾きていないと一酸化炭素が肉についてしまうよ」,と言うようなことにもなる。

 

アルゼンチン程でないにしても,ウルグアイ,パラグアイ,ブラジルでもアサードはよく食べる。パラグアイの場合はマンジョカが添えられ,ブラジルは串刺し風の焼肉(シュラスコ)が特徴である。肉質は,主食は牛肉と言うだけあってアルゼンチンが一歩リードしている。パラグアイの牛肉は一昔前まで「靴の革」のようだと評され,歯を傷めたものだが,最近は改良され柔らかい。

 

ちなみに,牛の頭数は世界全体で13.6億頭(2002, FAOSTAT)とされる。世界の人口が62億人であるから,およそ5人で1頭の牛を飼っている勘定になる。アメリカは3人に1頭と平均以上だが,日本に至っては30人に1頭と少ない。

牛の数が多いのはラテンアメリカ諸国で世界の27%を占める。中でも,アルゼンチンは人間より牛の数が約1.3倍多い(人口4千万人弱に対し5千万頭強)。ブラジルも1.1倍,ウルグアイ及びパラグアイも同様の牧畜国である。牛肉が主食だと言うのもうなずける


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公開シンポジウム「環太平洋の環境と文明を考える」に参加

2012-06-05 09:58:04 | 講演会、学成り難し・・・

先日,札幌大学45周年記念公開シンポジウム「環太平洋の環境と文明を考える」に行ってきた。このタイトルは抽象的で分かりにくいが,本田優子「アイヌの世界観から環境を考える」,加藤博文「北海道の先史文化のダイナミズムと環境」,高宮広土「世界の中の琉球列島先史時代」,坂井正人「アンデス文明と環境,ナスカの地上絵をめぐって」,青山和夫「マヤ文明と環境」,米延仁志「湖沼の年縞からわかる環太平洋の環境変遷」と具体的な講演課題を並べると,ぼんやりとだがその意図するところが見えてくる。

もう少しいえば,このシンポジウムは文部科学省の科学研究費補助金(平成212552,470万円)によるプロジェクト研究「環太平洋の環境文明史」の主催で,これまでの成果を紹介するとある。

 

二風谷に十年以上暮らしてアイヌ語辞典編纂やアイヌ語教室の講師を務めたこともある本田優子氏,琉球島先史の特異性を語る高宮広土氏,衛星画像解析からナスカ地上絵に迫ろうとする坂井正人氏,マヤ遺跡の発掘とマヤ文字解析を進める青山和夫氏,湖沼堆積物のボーリングコアから歴史を探る米延仁志氏。彼らの手法や研究成果のいくつかは,私にとって新知見でありそれなりに面白かったが,何か消化不良が残った。

 

「この満ち足りなさは,何だろう?」,大学の南門へ坂を下りながら,帰りのバス,地下鉄,JRの中でずっと考えた。

 

人文科学の論証法が理解できないのか,人文科学とはこんなものなのか。そればかりではないようだ。そして,このシンポジウムは,「環太平洋という冠が予算獲得に使われた地理的な意味合いのみで,環境文明に結び付くところまで行きついていない」結果ではないかと結論付けることにした(研究期間が終わる頃には明確に論じられるだろう)。

 

いつの日か,「環太平洋の環境文明の共通項,特異性,関連性は何か」「この事象から何を学ぶか」など新知見と新たな提言がなされることを期待したい。

 

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